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ヒロとヒーロー


「チーム【アリウム】のメンバーは、姫様と一緒に【デビルズヘブン】を倒す戦いに参加してるんだろ? あんたたちもその戦いに参加しにきたのか?」


 村人の一人が不意にそんな話をしはじめる。

 フーサタウンへ行く途中、アリウムが俺たちと別れて、チンピラ3人組の生き残りを送る事になったし、孤児院の裏の顔を暴き、子供たちを救う決意をしていた。


 俺も『英雄になれ――』なんて言ってアリウムを送り出したし、ヒルダさんを頼るように良い含めた訳だから、噂話にチーム【アリウム】の名前が出てくるのは解る。


――ただ、『姫様』ってなんだ?

 

 俺が予想外の単語に戸惑っていると、村人たちが不思議な顔で問いかけてきた。



「――『姫様』って、この国の王家の姫様ってことですか?」

 驚く俺の反応に、村人たちも首を傾げる。



「――なんだよ、あんたらのリーダーの話だろうが。」

「もしかして、隠密行動かなんかかい? なら心配すんな。この村にヒロ君たちを陥れるような者はいないからな。」


 隠密行動!? 

 この人たちの中で、どんなストーリーが出来上がってるんだ?


 アリウムの目標が、【デビルズヘブン】を倒すことになったのは解っている。

 俺たちがナナシだった頃、子供時代を過ごした孤児院が、実は【デビルズヘブン】の構成員養成所だったなんて、とんでもない真実を知ってしまったのだから。


 ただでさえ俺たちにとっての黒歴史。

 いじめの連鎖の中心でもあり、あの孤児院で過ごした日々の惨めさを忘れることなど出来ないだろう。

 

 そんな俺たちを強烈に虐げ、さらに裏ギルドの拡大に寄与していた施設をぶっ壊す。さらにその大元である【デビルズヘブン】を壊滅させる。

 それこそ、今のアリウムが目指すゴールの一つに違いない。

 まあ、俺自身もアリウムを焚きつけもしたし、彼が憧れの英雄になるための重要な道だとも思っている。


 しかし、そこに『姫様』などという、俺たちにはまるで縁の無いと思われる存在の名前が挙がってきたのはどういうことか。


 だって、『姫様』だよ!?


 たしかこの国は、王政が敷かれてはいるが、王とは名ばかりの王家であるはずで、実権は議会が握っていると聞いている。


 しかし、王家は曲がりなりにも国の象徴とされ、一応、民から一目置かれる存在だ。

 その王家の一族である『姫様』がアリウムと一緒に活動している?


「なに、なにっ! どうしたの?」


 久しぶりの親子の再会を果たし、和やかな時間を堪能したナギとナミが合流する。


「おお、ナミちゃん、ナギちゃん。いやさ、ヒーロさんにヒロ君たちと合流するのか聞いてたんだよ。」

「2人もヒロ君たちと一緒に姫様をお助けするんだろ?」


「「………ヒーロさん? 姫様? ん!?」」


 聞き慣れない名前と単語が飛び出して、意味がわから首を傾げる二人。

 くるりと俺の方を振り向くと、視線だけで説明を求めてきた。


「………あ、あはは、なんと説明したらよいか。まあ、なんだ、ヒロ君たちが姫様と………、なんでしたっけ?」


「なんだなんだ? もしかして、ヒロ君たちがこの国の姫様と一緒に【デビルズヘブン】と王様を倒そうとしてることを知らないのか?」

「おい、ヒーロさんが困っているだろうが。隠密行動中なんだから、根掘り葉掘り聞くんじゃねえよ。」

「ああ、すまんすまん。野暮は無しだな。なんかあったら頼ってくれよ。」


 何故か自分たちだけで納得し、俺の肩をバンバンと勢いよく叩きながら村の男たちは笑っている。


 ナギとナミが「なんのこっちゃ」と頭の上にはてなマークを浮かべているが、俺自身、自分のことを村人たちに説明できる自信がないし、村人たちが言っていることも理解できていない。


 とりあえず、ヒーロと名乗ってしまったことに首を傾げているナギとナミに向かって、合掌して何度も頭を下げる。片目を瞑って、パチパチとウインクして………。

 なんとかこの場を誤魔化そうと必死になっていると、両手を広げながら、二人は呆れたようにため息をついた。


「はぁ………、まあいいわ。ヒーロさん、とりあえずギルドハウスに向かいましょ。」

「はいはい、行きますよ〜、ヒーロさん。」


「あははは………、じゃあ、行こうか。」


 引き攣った笑顔で俺の両手を引っ張る2人に、なされるがままに引きずられていく俺を、村人たちは不思議そうに見送っていた――



           ♢



「ちょっとヒロ兄っ! なんでちゃんと名乗らないのよ。」

「ほんとどういうこと? しかも、ヒーロって………、名前を伸ばしただけじゃない? 何の意味があるの?」


「いやいや、だって………、みんな、アリウムをヒロだと思ってるし、それを説明するのも大変だしさ………。」


 正直なところ、今、この状態になるまで、それほど深く考えてなかったわけで。でも、実際にヒロという元の人物を知る人たちに、今はヒロがアリウムで、この中年のおやじがヒロですなんて、どうやって信じて貰えばいい?

 いや、それどころか、今、みんなの目の前にいる中年のおやじが、機械人形=ゴーレムだなんて、ますます信じてもらえる気がしない。


「ま、ウチらはヒロ兄でも、ヒーロ兄でもどたたらでもいいんだけどさ。」


 

 何というか、この少女たちには救われるよ。


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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