機械人形、飛ぶ
《 ご主人様、ナミ様もナギ様も大丈夫そう。》
スキルで俺の胸元に嘆きの妖精を引き寄せ、胸に抱くと、彼女は上空から見届けた戦況を報告してくれた。
とりあえず、三日月村への魔物の侵入は防げた。
ナミとナギも合流し、波の乙女、土小鬼、霜男の精霊3人も付いている。嘆きの妖精が言う通り、あちら側は大丈夫だろう。
ならばこちらがやる事は一つ――
「――まだまだ残る魔物たちを駆逐する。」
精霊剣に魔力を込めなおし、紅い炎でその剣身を巨大化させた。
嘆きの妖精の索敵によれば、目の前に残る魔物は、オーク5匹とホブゴブリンが2匹。そして粗末な武装に身を包んだゴブリンが15匹だ。
嘆きの妖精は傘を閉じると、俺の肩にちょこんと座っている。
彼女は《どうぞ》と一言。どうやら、俺の動きを邪魔しない為の準備は万端らしい。
「いくぞ、ブリジットっ!」
俺は剣をぐるりとひと回しすると、巨大化した剣の炎が痕を引いた。
腕の回転の勢いを借り、一番近くにいた3匹のゴブリンを切り裂くと、切った断面からゴブリンたは燃え上がった。
さらに勢いを増して剣をもうひと回しする。
先の攻撃で怖気付き腰が引けた2匹のゴブリンを炎が包み込んだ。
巨大化した精霊剣は、その剣身に纏わせた炎に触れただけでゴブリンに火をつけたのだ。
「――次っ!」
自分の配下だったのだろう。あっという間に5匹のゴブリンが屠られたことにキレた2匹のホブゴブリンが、俺に掴みかかろうとする。
しかし、武器を使わずに己の体躯に任せたその行動は、精霊剣という必殺武器を振るう俺相手には下作すぎた。俺の位置まであと数歩という所で、2匹同時に首を切り離すことになる。
自分より身体の大きなホブゴブリンの首を狙った為、軽くジャンプした俺の着地を狙って、今度はオークが突進してきた。
「――ふっ!」
俺はさっきまで嘆きの妖精を浮かべる為に使っていた【操作】スキルを自分に向けた。
もう一本の魔力の腕で自分の身体を持ち上げるようなイメージ。
実は自分の身体を【操作】する練習はしてきていた。
短い時間であれば、俺は俺自身を浮かべられる。
三方向から突進してきたオークたちは、身体をぶちかます目標を失い、オーク同士でぶつかり合う。
俺は、源平合戦の壇ノ浦で源義経が行ったといわれる八艘飛びのように、オークの頭を蹴って前方へと大きくジャンプする。
俺を狙ってゴブリンが粗末な槍を突き出すが、俺は自分の身体を上手く【操作】して空中で止まると、その槍は宙を突いた。
スキルを消す。
重力が俺の身体を地上へと引き寄せる。
槍を突き出したゴブリンがその槍を引き戻すよりも早く、俺の剣はゴブリンを一文字に切り落とした。
「――6っ、ふっ!」
斬られたゴブリンから炎が吹き出す。
周りのゴブリンは、その猛烈な炎に驚いて腰を抜かしたようだ。
俺はゴブリンたちの明らかな隙を見逃さない。
低い姿勢のまま、小柄なゴブリンの首を刎ねる。
「――7……8……9……。」
俺は刎ねたゴブリンの首の数を数えながら、足を止めずに剣を振い続ける。
流れるように振るわれる精霊剣は、紅い炎の尾を残しながら、次々とゴブリンを屠っていく。
「――10っ!」
あと5匹――と剣を泳がそうとした時、横合いからゴブリンに向けて石礫が浴びせられた。
グシャ、グシャ、グシャッ………
頭を、身体を、次々と石の弾丸に潰されてあっという間に全てのゴブリンが絶命する。
「ナミとハニヤスか………、やるなぁ。」
一瞬でゴブリンを制圧した手際の良さに感心しながら、まだ残る3匹のオークへと向き直った。
すでに、体勢を立て直したオークたちは、手に持つ棍棒を振り上げ、重たい足音を響かせながら突進してくる。
「――ブリジット。」
愛剣に呼びかけながら、真ん中を走るオークに剣を突き出した。
精霊剣を覆っていた紅い炎がオークに向かって伸びると、勢いを止める事なくオークの胸を貫いた。
「おらぁっ!!」
「血の弾丸!!」
右のオークには黒髪、褐色の肌の少女の渾身の右ストレートが撃ち込まれ、左のオークにはフードを深く被った白髪、白い肌の少女の操る血の弾丸が撃ち抜いた。
それぞれが一撃必殺。
重量級の魔物であるオークを、見事にたったの一撃で屠ってみせた。
俺は残心を解き、二人を笑顔で迎える。
「――あはは、2人ともありがと。おかげで圧倒的だったな。」
先にナミとナギが殲滅したコボルトたちも含めれば、かなりの数の魔物が押し寄せていたはずだったが、戦闘開始からものの数分での圧倒的な勝利。
全ての魔物を倒した俺たちは、ゆっくりと三日月村の入り口に向かって手を振った。
「………良かった………。」
ナミの呟きにナギが頷く。
自分たちのホームタウンを魔物から守り通せた安堵が彼女たちを包む。
2人の支援の為に同行させた精霊たちも、自分たちの宿り場へと戻り、笑顔を見せている。
俺は転がる魔物の死体を処理する為、死体をブリジットで刺し、焼いて回った。
全ての死体に火をつけた後、俺は精霊剣の炎を納め、鞘へと戻した。
この瞬間をもって、すべての戦闘は終わりを迎えることになる。
「さあ、村に入ろうか――」
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