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三日月村の攻防④


「燃え尽きろ――」



 先程振り上げた精霊剣の刃を返し、今度は右上段から左下へ袈裟斬りに振り下ろす。

 先程の切り上げ同様、身体に染み込んだ基本の型は澱みなく剣を走らせる。


 魔力を込めに込めた青い炎は先程よりも小さいが、その熱量は凝縮されていた。

 燃え落ちたその先から復活していたトロールの肉体は、斬りつけたその内側から燃え上がり、今度は復活する暇を与えない。


「――もああああああ…………。」


 トロールが唸り声ともつかない音を発しながら、仰向けに倒れる。

 流れるはずの緑の血液は一瞬で蒸発している為、骨すら残らず消え去ったその場には、倒れたトロールの巨体の黒い跡があるのみ。

 


「………ふぅ………。」


 肩で息をしながら、なんとか呼吸を整える。 

 機械人形=ゴーレムの身体が酸素を必要としているのか謎だが、力を振り絞った後の反動なのだろう。胸が苦しい。

 

 空中に待機させていた嘆きの妖精が心配そうにこちらを見ている。

 俺は親指を立てて問題無いことを伝えると、こちらに武器を振り上げていたボブゴブリンを切り伏せた。


「………さて、サボっていられないな。」


 村の入り口までの間には、また多くの魔物がひしめいている。

 俺は、息を勢いよく吐き出すと、また精霊剣を握る手に力を込めた――


  

            ♢

 


「――ウチらが来たからもう大丈夫っ! 村に魔物なんか一歩も入らせないからっ!」


 援軍と呼ぶには頼りない人数だった。

 少女が一人と雪だるまが一体。

 しかし、少女を知る大人たちは、彼女の登場によって心に火が戻った。

 重く感じた槍を持つ手にも、再び力がこもる。

 村の入り口に、また強固な槍襖が出来上がった。


「――ナミちゃんっ!」


 カヒコの父が少女の名を呼ぶと、黒髪を靡かせた少女は元気に応えた。


「さあ、おじさんたちっ! 反撃よっ!」


 健康的な褐色の肌は、しなやかな筋肉を際立たせる。

 武器を振り上げて襲ってきたゴブリンたちを足払いで払い除けると、低い姿勢のまま飛び出した。


 獣体術――使徒の一人である氷狼フェンリル直伝の体術はその肉体を武器とする。

 武器を使わず無手で戦うその戦いぶりは、激しくも可憐。

 正拳突きで正面のオークを突き飛ばし、横から襲いかかるコボルトを回し蹴りで蹴り飛ばす。

 動きを止めず、後ろから掴みかかるボブゴブリンの顔面を裏拳で叩き潰し、くるりと回転したかと思えば、ボブゴブリンの後ろに続くゴブリンたちの頭を蹴り飛ばした。


「――さあ、どうした魔物たち! こんな可愛い女の子相手にだらしないわねっ! どんどんかかっておいでっ!」


 某カンフーの使い手よろしく、「来い来い」と手招きして挑発すれば、重量級のオークがタックルを繰りだした。


 ナミは高く飛んでそのタックルを交わすと、オークの脳天に強烈な踵落とし。力の向きを無理矢理下へと向けられたオークは顔を地面にめり込ませたまま動きを止めた。



「………凄いな………。さあ、俺たちも負けてられんぞっ! 踏ん張れっ!」


 魔物たちは目の前で仁王立ちする褐色の少女に気を取られている。

 入り口で防御を固める大人たちの元へは、ごく少数の魔物しか来れなくなったが、それでも素人同然の村人たちには充分な脅威。

 今までなんとか踏ん張ってきたとはいえ、ほんの僅かな傷が、防波堤を決壊させるかもしれないのだ。


 必死に槍で魔物を突く。

 しかし、簡単には死んでくれない魔物を相手にし続けた者たちは、すでに限界に達しようとしている。


「うわぁぁっ!?」


 そんな極限状態の中、とうとう村人の一人が横合いから飛びかかったコボルトに槍を奪われた。

 コボルトは小型の魔物とはいえ、鋭い牙と爪を持つ。

 

 コボルトに無理矢理押し倒されると、村人の生身の身体に爪が食い込み、血が吹き出した。

 蟻の一穴――必死に守り続けた村の入り口は、ただ一人の村人の脱落により、その槍襖は簡単に崩れ去る………と思われた。



「――血の弾丸(ブラッド・バレット)!」



 次の瞬間、村人を押し倒したコボルトの頭が吹き飛ぶ。

 さらに、横合いから放たれた真っ赤な弾丸が、前線をすり抜けた小型の魔物たちを次々に撃ち抜いた。



「――ちょっとナミっ! 魔物に抜かれすぎっ! ウチが来なかったらどうなってたと思うのっ!」


 フードを深く被り、その表情こそよく見えない。 袖から覗く白い手には小瓶が握られている。



「ナギっ! あんたこそ遅いじゃないっ! どこで道草食ってたのよっ! もしかしてあんた草食だった!?」

「失礼ねっ! ヒロ兄に頼まれて、周りの雑魚たちの掃除してきたのよっ! ナミこそ猪みたいに突っ込んで行っちゃって! フォローする側のことも考えてよねっ!」


 喧嘩しているようで、実はこれ以上ないほど仲の良い二人は、それぞれの足りない所を補うように、タイミングよく魔物を倒していく。


 ナミは獣体術で魔物の群れに突貫し、ナギは血操術で血を操り遠隔攻撃で周辺の魔物を駆逐していく。


「ハニヤス、お願いっ!」


 ナギの頼みに二つ返事で答えると、土小鬼は石礫を連射して広範囲の魔物を行動不能にしていく。

 遠隔攻撃を得意とするナギと土小鬼のコンビを見守る波の乙女は、優しく笑っている。


「――凄いな……。ナミちゃんも、ナギちゃんも。本当に凄い。」


 目の前で次々と魔物が倒されていく。

 ギリギリ保っていた精神状態だったが、絶望的な脅威から解放されて、村人たちは一様に胸を撫で下ろした――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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