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三日月村の攻防②


 槍――敵との距離を取りながら戦え、技量が無い者でも扱い易く、集団戦に向いている。


 簡素な槍で槍襖を作り、押し寄せる魔物と押し合いを繰り返していたが、魔物の中に重量級の魔物が増え始めてきた時、カヒコの父は死を覚悟した。

 簡素な槍を力一杯突き立てても、大型の魔物には傷一つつけることができないのだ。


「………くそぅ………、みんな間隔を空けすぎるなよっ! 村の中に魔物は通すなっ!」


 村の自警団や狩人といった面々が中心であり、戦闘のプロフェッショナルではない。

 あくまでも専守防衛。

 村の中に魔物を侵入させない為の防波堤。護るだけではいずれ突破されることは目に見えているが、それでも抵抗しないという選択肢は取れない。

 

 古来、籠城戦とは助けが来ることを前提に行う戦い。

 まるで援軍の期待できない戦いは、本来なら無謀な戦いなのだ。


 しかし、彼らよりも戦う力の無い村の住人が大勢いるのに、簡単に諦める訳にはいかないのだ。

 


「………ぐぬぬ………、俺にも戦う才能があったら………。」

 

 飛びかかってくるコボルトを必死の形相でたたき伏せながら、カヒコの父は自分の才能を呪った。



(――カヒコ………、お前のように戦う才能が俺にあったなら………。そしたらお前をしっかり鍛えてやれたのにな。)



 体力も限界に近づいている。

 なんとか魔物たちの攻勢を凌いではいるが、ただの一匹も魔物を倒すことは出来ていない。

 

 徐々に絶望感が、村の入り口を固める村人たちの意識を支配し始める。

 ただでさえ魔物との戦闘に慣れていない者たちが、希望の無い戦いの中、強く気持ちを保ち続けることなど、土台無理な話なのだ………。



「――おじさんっ! 今、こいつらをぶっ飛ばしてそっちに行くからっ!」


 すでに手に持つ槍が鉛のような重さに感じている。魔物へと向け続けた槍の穂先が、その重さに耐えきれず下がりかけたその時、この殺伐とした戦いの場には似合わない少女の声が響いた。



「――なんと!? ナミちゃんか!?」




           ♢




( なんでこんな数の魔物が集団で? しかも魔物の種類も多すぎる!?)


 精霊剣で斬りつけた魔物は、一瞬で炎に包まれていくが、なかなか数が減らない。

 ナミはかなり強引に村の入り口に向かって突進して行ってしまった為、俺は慌てて波の乙女=ウンディーネに後を追わせた。


 波の乙女は、俺の意を汲み、しっかりとナミへの攻撃を防いでくれている。


 傘にぶら下がる嘆きの妖精=バンシーは、【バンシーの叫び】を発動して精神力の弱い魔物を昏倒させた。

 霜男=ジャックフロストは、冬の精霊らしく【氷結】の力によって、最前線の魔物の動きを鈍らせてくれた。


 それでも数を頼みに村に押し寄せている魔物たちを完全に沈黙させるには手が足りていない。


 そしてさらに、俺たちの行く手を阻む厄介な相手がいた。



「――トロール………。」


 オークやボブゴブリンなどの大型の魔物に混じって、中央でノロノロと動き回るトロールが俺とナミの前進を阻んでいたのだ。

 トロールは、まるで俊敏さを感じられないが、その緑色の巨体をノロノロと揺らしながら、ゆっくりと村の入り口へと向かっている。

 この魔物の厄介なところは、神経など通っていないかと思えるような鈍感さで、痛みに対する反応が無に等しく、また、痛みに鈍感ということは、敵に対する恐怖を覚えないのだ。

 つまり、そんじょそこらのダメージでは動きを止める事さえ困難となる。



「もおっ! 早くおじさんたちたちの所に行かないとなのにっ!」


「ナミ、焦りすぎだっ! さっき飛ばしたフユキがおじさんたちの援護をしてくれているっ! 」


 焦るナミを落ち着かせる為、俺は普段出さないような大声で声をかけた。

 先程、思いっきり投げ飛ばした霜男は、俺の【操作】によって無事、村の入り口に辿り着いているし、空中に待機させている嘆きの妖精も、次の指示を待ちながら、俺からの魔力を練り込んでいた。

 

「俺がこの厄介なトロールの相手をするっ! ナミはヒンナの傘を利用して、魔物の群れをとびこえろっ! 来いっ!」


 ナミは作戦に無言で頷くと、俺に向かって走り出した。そして、屈んで差し出した俺の肩を蹴り飛ばし、嘆きの妖精が捕まる傘に向かって高く跳躍する。


「―――!」


 さらに俺の【操作】の力でナミのお尻を突き上げると、しっかりと傘の柄を掴み、反動を利用して魔物の群れを飛び越えた。



「――ヒロ兄のエッチっ!」


 群れを飛び越えたナミから、言われの無い言い掛かりが聞こえてきたが、ここは大人の対応でスルー。目の前でウロウロしている、この厄介なトロールを倒しきることに集中しなくては。



「――ブリジット、火力を上げるぞっ!」


 3人の精霊との魔力のパイプにはガンガン魔力が吸い上げられている。

 さらにスキル【操作】を連発。

 そして、今、精霊剣ブリジットに大量の魔力を込める。


 魔力の連続大量使用――これが出来るのは、アリウムと分け合っても大きく残った魔力総量と、機械人形=ゴーレムに取り込まれた、2つの魔力核のおかげだ。



「さあ、勝負だトロールっ!」


 精霊剣を包み込む炎が赤から黄色、そして白くなり、最終的に青へと変わった。

 青色の炎――10,000℃を超える熱をその剣身に纏い、俺は上段に構えた――

 

 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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