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三日月村の攻防①


「もうすぐ三日月村ね!」

「ふふっ、ナミ喜びすぎ。まったく、ガキンチョはこれだから。」

「はぁ!? 誰ががガキンチョよ!? ナギだってさっきからニヤニヤしてて気持ち悪いったらありゃしないわ。」

「ニヤニヤなんてしてないしっ! ナミは親に甘えたいだけだろうけど、ウチは別に親がいるわけじゃないし。だいたいにして、フードを被ってるウチの顔なんか見えるわけないでしょ!」


 なんとも姦しい………。

 二人がご両親や村の仲間と会うのを楽しみにしているのは、誰が見てもわかるっての。

 ま、これを口に出したら、2人の攻撃の矛先がこちらに向くのが明らかなので、あえて指摘はしないでおこう。

 

 それよりも、姿の変わった俺のことをどうやって紹介するか。

 「実はこれが本当の姿です」なんて言われて、すんなりと受け入れることは難しいだろうし、いっそのこと、別人として挨拶しようかしら。


 

「――!? ヒロ兄、あれ!?」


 遠目の利くナギが俺の服の裾を引っ張る。

 村に着いてからの事を考えながら歩いていた為、周囲への警戒をナギとナミ任せにしていた俺は、強く服を引っ張られたことにより体勢を崩してしまい、道に転がった。


「えっ? えっ? 何!?」


 横向きに倒れ、何がなんだかわからないでいると、俺を転がした張本人から驚きの状況が伝えられた。


「村が襲われてるっ! ヒロ兄っ!」


「――ちょっと、何してんのっ! ウチ先行するっ!」


 まごつく俺たちを尻目に、ナミは村に向かって素早く走り出した。

 頭を整理する間もなく、立ち上がった俺と、俺を引き起こしたナギも武器を抜いて走り出した。


「なんで村に魔物が!」


 動揺を隠せないナギだったが、ショートソードを右肩に担ぎ、姿勢を低くしながら俺のすぐ右後ろを走る。

 

「――ナギっ! 周辺の確認頼むっ! 他にも魔物がいるかもしれないっ! 俺はナミの援護に向かうっ!」

「了解っ!」


 短いやり取りだが、ナギは俺の指示に従い俺から距離を取る。

 その動きに合わせて、俺のリュックから飛び出した土小鬼がナギの肩に飛びついた。


「ハニヤスはナギの支援を! 周囲の確認ができたら、石礫で遠距離攻撃で支援してくれっ!」


 

 先行したナミはすでに村の入り口付近で魔物の最後尾にいたオークに飛び出蹴りを見舞っていた。

 体勢を崩して仰向けに倒れたオークから、すぐ隣で棍棒を振り上げた違うオークの鳩尾に右の正拳突きをくらわせた。

 しかし、大きな身体を頼りにナミの正拳突きに耐えると、オークは振り上げた棍棒をナミへと振り下ろそうとする。


 俺は精霊剣を右下段に構えながら、先行したナミのつきを防いだオークの足を切りつけた。

 重い体重を支える足を失ったオークは、それでも体勢を崩しながらナミに一撃を喰らわせるべく腕を振り回した。


「――ミズハっ!」


 俺の掛け声とほぼ同時、水筒から顔を出した波の乙女が右手を突き出す。

 膨れ上がった水塊がナミに向かって振るわれた強烈な棍棒の一撃を吸収した。


「ミズハありがとうっ! ハッ!!」


 振り返ることもせず、次の魔物へと向かうナミ。

 魔物の数がわからない為、とにかく手当たり次第に近くの魔物をぶち飛ばすつもりのようだ。


「――ヒンナっ! バンシーの叫びをっ! ナミ、耳を塞げっ!」


 俺は村の入り口に殺到している魔物たちの足を止めるべく、続けざまに精霊たちに指示を飛ばす。


 

《 キィィィヤァァァァァァッ!!! 》



 俺は嘆きの妖精=バンシーをリュックから掴み上げると、魔物たの頭上へと無造作に投げ飛ばした。

 嘆きの妖精は、俺のとった乱暴な扱いに少し不満気な表情を浮かべたが、すぐに指示通りに【バンシーの叫び】を魔物たちに向かって浴びせかける。


 つんざくような金切り声は、魔物たちの脳を震わせる。


 身体の大きい小さい関係なく、泡を吹き、白目を剥いて倒れる魔物たち。

 不思議なことに嘆きの妖精は愛用の日傘に摑まりながら宙に浮かび続け、魔物たちが苦しむその様子を見ながら満足気な表情を浮かべている。


「ヒンナ、よくやった! そのままそこで待機っ!」


 俺は無造作に投げ飛ばした後、自分のスキル【操作】を使って空中に押し留めていた。

 空中に浮かんだ傘を【操作】しながら、俺自身は精霊剣を横薙ぎに振るう。


「ブリジット――」


 精霊剣の柄を通して、俺の魔力が吸い上げられる感覚、そしてその直後、精霊剣は紅蓮の炎を帯び、切りつけた数体の魔物を炎で包み込む。

 

「フユキっ! 村の入り口付近の地面を凍らせてっ!」


 嘆きの妖精の時同様、リュックから掴み上げた霜男=ジャックフロストを投げ上げる。

 まるで雪だるまそのものの姿が飛んでいく姿は滑稽で、しかし俺の指示に忠実な霜男は広範囲に向けて冷気を吐き出すと、地面と共に村の入り口付近で村人と争っているコボルトの身体に霜を下ろした。

 

 村の入り口を護る為に戦っていた村の男たちは、突然目の前のコボルトの身体に霜が降り、動きを鈍らせたことに驚くが、すぐにこれが自分たちの味方によって成されたことと理解したようだ。


「――おじさんっ! 今、こいつらをぶっ飛ばしてそっちに行くからっ!」


 やや大柄のボブゴブリンの頭を回し蹴りで吹き飛ばしたナミが大声で叫ぶと、村の男の一人がその声に反応した。



「――なんと!? ナミちゃんか!?」


 ナミを知る人物が驚きの声を上げる。

 簡素な槍で魔物と戦っている男の一人は、カヒコの父親であった――

 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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