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姫と英雄⑧


 返事はすぐに返された。


 英雄を目指すことを誓った白髪の少年にとっては、【デビルズヘブン】を討ち果たすということはすでに決定事項なのだから――



「――僕でよければ、粉骨砕身、努めさせていただきますっ!!」


 魂の間借り人が居なくなってから、どうしても自信なく一歩引いてしまうのが少年の悪い癖だった。

 しかし、今ここで王女の要請に応えた少年は、猫背気味だった背中もピンと伸び、ついつい吃ってしまう喋り方も、ハキハキと舌が回っている。

 

 『――士、別れて三日、刮目して見よ』。

 少年少女の成長のなんと早いことか。

 パーティーの大人組、とりわけソーンは少年と過ごす時間が長かった。

 それが、ソーンが元・魂の間借り人と一緒にいたいという下心が原因だったとして、この少年とも長い時間を一緒に過ごしたのは厳然たる事実であるわけで。

 元・魂の間借り人が機械人形=ゴーレムとして生きるようになってからも、森の女王たちから課された特訓や、鬼ヶ島での戦いなど、幾度も重大なイベントをこなしてきたのだ。



「………アリウム君、大人になったな………。」


 ふとソーンの口からこんな言葉が溢れてしまうのもやむを得ないというものだ。


「ぷぷぷっ……、ソーンはまるで母親だね。」


 ライトが隣で笑いを堪えきれず、吹き出してしまうと、顔を赤くするソーンを尻目に、ハルクとギースが便乗する。


「――カハハっ! ライト、流石に母親はないだろう。せめてお姉さんポジションにしてやれよ。」

「ふむ、ソーン殿が母親とすると、ヒロ殿が父親ポジションですかな。」


「な、何を言ってるのっ! わ、わ、私は聖職者よっ! 母親とか、姉とか、夫婦とか!?」


 支離滅裂な否定の言葉に、つい彼女の願望が混ざってしまっていることに、本人だけが気づかない。

 パーティーの仲間で彼女の本心に気づいていないのは、本人だけなのだから。

 


「………姐さんたち、何を騒いでるんですかい? 王女様がお声がけしてらっしゃいますぜ。」


 アークに小声で注意され、目の前に王女がいる事をつい失念してしまっていた事に気付き、バツの悪い顔で王女に向き合うパーティーメンバー。



「ふふふ。わたくしの命の恩人たちは、面白い方々ですね。」

 

 王女は機嫌を損ねることもなく、それどころか自分を無視して盛り上がっていたチーム【アリウム】の面々に対して楽しげに笑いかけた。


「アリウム殿は協力を快諾してくれました。そこで改めてアリウム殿のお仲間のみなさんへお願いです。アリウム殿と共に、わたくしにお力をお貸しいただけませんか。」


 アリウムに対して行ったように、他のパーティーメンバーにも深々と頭を下げる王女。誠意を感じさせる王女の振る舞いに、チームの大人たちは片膝をついて応えた。


「アリウム君が王女様に協力するのに、私たちが協力を拒む理由はありません。誠心誠意、王女様に協力することをお約束いたします。」


 ライトが普段と変わらぬ柔らかい物腰で王女の要請に応えると、他のメンバーも頭を下げて同意の意思を示した。

 力の無い、象徴としての存在である王族とはいえ、この国の病巣を取り除こうとしている人物への協力を断ることなど、機械人形として生きる事になったあの元・魂の間借り人と一緒に過ごしてきた者たちにはあり得ない事になっていた。


「――まあ、ヒロ君なら絶対断らないでしょうしね。」


 ライトの言葉に、他のメンバーが笑みを浮かべた。

 彼の言う通り、あの機械人形なら、間違いなく断らないと、そう確信できた。

 言われの無い悪意に晒されながらもそんな悪意に負けず、それどころか自分に悪意を向け続けた街を魔物大行進(モンスターパレード)から救ってしまうお人好しなのだから。


 そんな彼の背中を見続けたメンバーは、いつからかお人好しの仲間入りをしているのだ。それこそ、アリウムを筆頭に。



「――ありがとうございます。【絶対防御の英雄】殿とそのパーティー【アリウム】のみなさまの御助力をいたければこれこそ1,000人力。必ずや我父、ニギ王を討ち果たし、【デビルズヘブン】を壊滅させてみせましょうっ!」


 王女はクレージュに目配せする。

 クレージュはそれに応えて一歩前に歩み出た。


「みなさまのご協力に感謝いたします。アリウム殿におかれましては、魔物大行進(モンスターパレード)の際の私の戦友でもあります。このクレージュ、若輩の身ではありますが、みなさまと共に戦う所存。この街の国軍兵士も必ずやお役に立ってみせましょう。英雄殿、お仲間のみなさま、よろしくお願いいたします。」


 

 王女と一緒に国を守る覚悟――


 流石、リンカータウンの危機に、危険を顧みずその身を盾にして護ろうとした英傑。きっと彼も英雄と呼ばれるべき存在なのだろう。



「――これより、わたくしマヨリは1兵士として生きますっ!【絶対防御の英雄】アリウム殿と共に【デビルズヘブン】を滅ぼすことを誓いますっ!」


 この宣言の場に居合わせたの僅か14人。

 チーム【アリウム】とアリウムを英雄として付き従うチンピラ冒険者。冒険者ギルドと二人の長。リンカータウンの軍令に、その部下。そしてこの国の王女と、その護衛のみ。


 それでも、きっとこの王女の宣言はこの世界の表の歴史に深く刻まれ、語り継がれることになるに違いない――

 

 


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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