姫と英雄⑥
「―― マヨリ姫殿下……。まさか、ニギ王が【デビルズヘブン】と手を結んでいたとは………。不肖バロンド=クレージュ、マヨリ姫殿下と共に戦う事を違います。」
リンカータウン中央に建つ国軍屯所の軍令室。
国軍の将軍であるクレージュは、首都で起こった王女襲撃のあらましを、襲われた本人である王女マヨリから説明を受けていた。
疲労を滲ませながらも、理路整然とした喋り口は、本来であれば信じ難い国王の乱心という出来事についてクレージュに納得させた。
「父が【デビルズヘブン】の壊滅作戦に積極的でないことは感じていましたが、まさか、あちら側の人間だったとは………。わたくしもすぐには信じられませんでした。」
悔しげに語る王女。
だが、小さい頃から彼女を知るクレージュに力を借りる事ができた安心感からか、首都からの逃亡時のような緊張感は無くなっている。
「――父は何故【デビルズヘブン】などという悪の組織と手を組んだのか、まったく検討もつかないのです。ただ、最近、狐の面を被った巫女が城の中を歩くようになり、何故か王の側近のような扱いを受けるようになっていました。」
「ほぅ………狐面の巫女とは。何者でしょうか。」
「実はわたくしを救い、ここまで護衛してきてくれた冒険者たちが、狐面の巫女の話をした際に、ヒルコが関係しているだろうと話していました。」
「………ヒルコとは? まさか悪なる神の使徒、混沌王ヒルコのことでしょうか?」
「ええ………。首都キャピタル・ヘルツの抱える【試練】のダンジョンを管理していた悪なる神の使徒、混沌王ヒルコのことだと言っていました。」
「それは………、何故、冒険者たちがそんなことを………。だいたい、何を根拠にそんな話を姫殿下に?」
「ん〜………、ですが、彼らはかなりの確信を持っていた様子でした。まあ、ヒルコなどという名前を出されても、この世界の住人で使徒と呼ばれる存在にたどり着いたという話は聞いたことがありませんし、なんとも言えませんが………。」
「そうですな。有志以来、この世界の理の一端を担う悪なる神の使徒に会って戻ったものはおりませぬ。それが、出会えない結果なのか、それとも出会った上で生きて帰れなかったのか、我々には判断する事はできませんが………。」
「………善なる神々と悪なる神の戦いから、王国建国の歴史まで、それが真実だとすれば、ヒルコという悪なる神の使徒が暗躍する歴史というものも、あながちあり得ないとは言えないかもしれません。」
「それはそうですが………。しかし姫殿下、もし冒険者の話が本当であれば、国王はヒルコに操られていると考えられます。しかし………、国王は建国の英雄ニギの血を引く方。悪なる神と戦う力を引き継ぐ方です。そんな方が操られる事など、とても信じられません。」
「…………。」
「――? 姫殿下? どうなさいました?」
「クレージュ殿。実は、父王は第二の才能すら授かっておりません。というか、祖父も、曽祖父も、誰もが授かるはずの第二の才能を授からなかったらしい………。これは、王家のごく一部しか知らされていないことなのですが………。」
「――!? なんと!? 国王陛下にそんな秘密が………。しかし、解せませぬ。神から等しく授けられるはずの才能を、それも建国の英雄の子孫たる方々が授からないとは………。」
「何故かはわかりません。しかし、これは真実です。王家に国を護る力は無い。国の象徴でしかなくなったのも、これが原因なのかもしれません。」
「………この国の象徴たる国王陛下が【デビルズヘブン】と手を組んだのは、才能に乏しい国王陛下を混沌王ヒルコが操ったから、か。」
「証拠は何一つありません。しかし、父王が第二の才能が授からなかったのは事実。さらに、父王が【デビルズヘブン】と手を結んでいたのも事実です………。」
王女が、ふう、と大きなため息をつく。
「………【デビルズヘブン】の壊滅作戦の失敗以来、この国はなんとも不安定です。どこに悪人が居るのかわからないのですから、そうもなるでしょう。ですが、王女たるわたくしがおります。クレージュ殿――父王を廃し、国に安定と平和を取り戻す為、わたくしに力をお貸しください。」
王女は深々と頭を下げた。
象徴とはいえ、国のトップの一人。
そんな王女が部下であるはずのクレージュに。
「頭をおあげください。このバロンド・クレージュ。若輩ながらマヨリ姫殿下に忠誠を誓いまする。」
「――良かった………。あなたの忠誠に感謝を。そしてあなたの忠誠を信じ、もう一つわたくしの秘密を明かします。それは……。」
片膝をつき、忠誠を違うクレージュに対し、小さな声で秘密を打ち明ける王女。
王女から打ち明けられた内容に、なぜ王女が命を狙われたのか理解したクレージュは、今後の行動について頭を巡らせた。
「――姫殿下、これから姫殿下と共に国の建て直しに邁進する為に、まずは姫殿下を護衛してくれた冒険者たちと話をしましょう。それと、お会いいただきたい人物がおります。」
深夜から続く王女と将軍の密談は、空が白むまで続いた――
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