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姫と英雄③


「――マヨリ様!? やはりマヨリ様で間違いないっ! 何をしているっ! このお方はテラ・オリンス王国、第一王女マヨリ様であるっ! 控えよっ!」


 疑うことが門番の仕事である。

 それを真面目に仕事をこなしている門番たちにとって、その仕事を否定され、問答無用に叱責を受けるなんてことは、どう考えても理不尽極まりない事なのだ。

 しかし、正直なところ、「王女様な気がする」と思ってはいた門番たちは、そんな理不尽に文句を言わずに素直に平伏した。

 


「お待たせして申し訳ございませんでした。リンカータウン駐屯軍軍監、バロン・ド・クレージュであります。」


 片膝をつき、王女に対して頭を垂れる。

 国の象徴でしかない王族の一員である王女。 

 国民にとって、名ばかりで力の無い王族なんてものは、関わる必要のない存在である。

 そんな王女に対して、しかし、街の防衛にあたる国軍の最高責任者自らが率先して頭を下げたことにより、その場の全ての者はクレージュと同じ行動をとらざるを得なくなる。


 クレージュのとった臣下の礼ともいえる行動、そのおかげをもって、王女はリンカータウンという場所で重要な存在として受け入れられ、大きな後ろ盾を得たことになったのだ。



「――ありがとうございます、クレージュ殿。深夜の来訪にも関わらず、わたくしどもの要請に応じていただき、感謝の念に堪えません。ギルドマスター、ハンド=サム殿におかれましても、重ねて御礼申し上げます。」


「姫殿下、頭をお上げください。我ら国軍の兵士にとって、殿下をお支えできることは大変な名誉でございます。殿下の手となり足となりお支えいたしますので、なんなりとお命じください。」


「疑いは晴れました。かなりお疲れ様のご様子ですし、とりあえず姫殿下はクレージュ殿の館にご案内されてはいかがですか? ヒルダさんたちは、ギルドにどうぞ――」


 平伏する門番たちを労い、王女と護衛を街へ案内するギルド長。

 ここまでの強行軍で相当疲労困憊の様子である王女を安全な所で休ませる必要がある。

 スマートに話をまとめ、話を進めてくれるあたり、さすが長命種ねエルフ族。誰もが段取りに素直に従い、街の中へと入っていく。



「………とりあえず、一安心てとこかしらね。」


 襲われた王妃を首都からリンカータウンまで護衛してきたが、あっさりとその仕事から解放された形になり、一様に疲労を感じていたヒルダたちもホッと胸を撫で下ろした。


「………あの将軍殿は、魔物大行進(モンスターパレード)の時、最前線で戦っておられた方ですな。見覚えがあります。」


 防衛戦に参加したギースが誰と無しに呟く。


「彼の方は立派な方ですよ。様々、ひどい将軍が多くいる中、自らを囮にして街の住民を護ろうとした稀有な人物です。この国に中で数少ない信頼できる将軍ですよ………。」


 ライトはここまで言うと少し口籠った。

 それは、平伏していた門番たちが立ち上がり、口々に王族の悪口を言い始めたことが理由であった。



「――ったく、なんで俺たちが王族にぺこぺこしなきゃならねえんだか。」

「まあ、そう言うなって。クレージュ様が王族を大事に扱うっていうなら、俺たちも従わないわけにはいかないだろ。」

「でもよ、王族だぜ? ぶっちゃけ何の力もないだろ?」

「ああ。魔物大行進(モンスターパレード)の時も、王様はまったく動かなかったっつう話だからな。」

「動かなかったのか、動く力がなかったのか。まあ、どちらにしろ俺たちにとっては重要なことじゃないな。」

「それもそうだな。王族だろうが、ただの御飾りだろうが、俺たちにとっちゃ関係ない話だ。」

「でもよ、そんな王族でも身内に命を狙われるなんて、あの姫様、なんか悪さでもしたのかな。」

「さあな。王族なんてものはどうでもいいけどよ、身内同士の異雑魚雑魚で命を落とした兵士たちは可哀想すぎるだろ。」

「それな。まったく、迷惑な話だ――」



 聞こえてくるのは王族を卑下する言葉。

 象徴でしかない王族という存在は、兵士たちにとって自分たちの生活にほとんど関わらない存在でしかなく、王族への感情とはまさに無関心に等しいわけで、とどのつまりどうでもいい存在なのだ。


 そんなどうでもいい存在に対して忠誠心を持てと言われても、土台無理な話であり、兵士にとっては、王族のスキャンダルなんてものは、ただの与太話のような感覚だろう。



「………まあ、一般人が王族に関わることなんて、まずあり得ない話だもんね。」

「それにしたってよ………。王族ってのはここまで関心をもたれない存在なのかね。」

 

 ソーンの感想に対して、ハルクが呆れたように両手を広げた。



「何をやっているのか、僕たちだってよくわからない訳だし、まあ、しょうがないのかもね。」

「で、でも、あの姫様は王様に命を狙われたのでしょう? なんで………。」


 ライトが素直な意見を述べれば、アリウムが続いて素朴な疑問を口にする。



「――それは、【デビルズヘブン】の掃討計画に賛同していたのが王女様で、陰で【デビルズヘブン】を支援していたのが、王様だったということが原因ですね。」

「そそ。だからアリウム君、あの王女様はしっかりと護り抜かないといけないの。」


 ヒルダがハッキリと国王の犯罪を告白する。

 突然、事の真相を聞かされ驚くアリウムだったが、やはりそれを知っていたソーンはこれからやるべき事について話して聞かせる。



「………なるほど。防衛戦なら僕の得意分野ですからね。任せてください。」


 いつから彼はこんなにも溢れる自信を持てるようになったのだろうか。

 フィリアは、年齢を誤魔化してでも冒険者になろうとしていた頼りない少年の姿を思い出す。

 

「あ、あのヒロ君………じゃなくてアリウム君だったわね。あなた、【デビルズヘブン】を壊滅させる為にこの街に来たって言ってたけど、それは本気なの?」


 驚くほど大きな目的である。

 巨大な犯罪組織を滅ぼそうというのだから。

 王族の内紛まで絡むとすれば、事はますます大きくなるだろう。

 しかし、そんな大事を口に出してもまったく憚らない。

 白髪の少年の姿が自分の知る少年であることに、フィリアは驚きを隠せないでいた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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