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姫と英雄②


 顔を寄せ合ってヒソヒソと話すだけの門番たちだったが、壁の向こうから、目的の人物がやってきたことで、俄かに慌ただしく動きはじめた。


「――ヒルダさんっ!」


 脇戸をくぐり顔を出したのは、リンカータウンの冒険者ギルドの長、ハンド=サムである。

 夜中に無理矢理起こされたであろうに、その美男子ぶりは、同性であっても惚れてしまうような美しさを醸し出している。


「やあどうも、サムさん。色々と事情がありまして、こんな夜分にお騒がせして申し訳ありません。」


 ヒルダはいつものように表情を変えずに、淡々とサムに頭を下げる。

 サムもほとんど表情を変えず、今起こっていることへの説明を求めた。



「………実はですね………。」


 ヒルダは首都で起こったニギ王による王女襲撃について話し、傍で心配そうに待っていた王女を紹介する。


「………なんと………、姫君、お初にお目にかかります。冒険者ギルドリンカータウン支部のギルドマスター、ハンド=サムと申します。」


 美形のサムが美しい所作で挨拶すると、門番とのやり取りで張り詰めていた緊張が幾分緩んだのか、王女の顔に笑顔が浮かぶ。



「もうすぐ国軍の将軍、クレージュ殿もいらっしゃるでしょう。そうすれば、姫君の疑いも晴らしていただけるかと。もうしばらくお待ちくださいね。」

 

 優しい口調で王女と話すサム。しかし、『国軍』という単語が出た途端、王女と2人の護衛の緊張感が再び高まった。


 そんな王女たちの様子に敏感に反応したのは、静かにやり取りを見守っていた魔術師ライトである。

 

「――大丈夫ですよ。首都の国軍とは違い、クレージュ様は清廉なお方ですから。それに………。」


 ライトは『ヒルコ』の名前を出そうか迷った末に、辞めた。

 自分たちにしか理解できないであろう話であり、他人に対して簡単に説明する自信が湧かなかったから。

 追々、王女たちに説明しなくてはならないとは考えてはいるが、今、ここで中途半端に話しても、理解してもらえないで終わる可能性が高い。

 それによって、ただでさえ不安定な状態の王女たちが、益々混乱してしまうような事は避けなくてはいけない。

 なんせ、世界の常識を覆すような話をしなくてはならないのだから………。

 


「――みんなっ!!」


 なんとも消化不良な状態の一行に、とても聞き馴染みの深い声が聞こえた。



「――アリウム君!?」


 思わず声を裏返ってしまうソーン。

 サムの後ろから一行に向かって声をかけてきたのは、冒険者ギルドの受付嬢であるフィリアと白髪白瞳の少年アリウムであった。

 

「おお、アリウム殿。まさかリンカータウンでお会いするとは。貴方はフーサに居るものとばかり考えておりましたが………。」

「ほんとだねぇ。何故、君がここに?」


 竜騎士ギースが口にした疑問を、魔術師ライトが質問に変えて問いただす。


 アリウムの話によれば、フーサタウンに向かう途中、命を狙われている元チンピラ3人組を刺客から助けたが、その後も彼らを護る為にヒロのパーティーから抜け、護衛しながらこの街にやってきたのだという。

 


「………そうなんだ………、じゃあヒロさんたちは予定通りフーサに向かったのね。」


 聖職者ソーンがテンション低く呟くと、耳聡く反応した長剣使いハルクが茶化し始めた。


「おお!? ソーンのお嬢さまはあの中年の紳士殿に会えなくてガッカリしてらっしゃるようだ。ガハハッ! 」

「ハルク殿、あんまり聖女様を揶揄うものではないぞ、なあ、ソーン殿。ムフフッ」


 竜騎士ギースが楽しげに長剣使いのからかいに乗っかり、いかにもな笑みを浮かべたことで、ソーンの顔は急激に赤く染まった。

 

「――なんなのよっ! 私はナギやナミがどうしているかが気になっただけよっ!」


 普段、凛とした姿でパーティーのお母さんポジションにいるが、ソーンからたまに溢れる独り言は、パーティーの誰もが聞いて知っている。

 そう、その心の内を知られていないと思っているのはソーンだけだという事に、ただ一人、ソーン自身は気づいていないのだ。


 そんなソーンの姿がどうにもいじらしく、パーティーの大人たちは、つい揶揄いたくなってしまう。


「――はっはっ、アメワも一緒にいるのだから、ヒロ君たちなら心配ないさ。だから、ソーンは少し落ち着いて。くくく………。」


 顔を真っ赤にして騒ぐソーンは、こんなたわいもないライトの言葉にすら大きく反応してしまい、ますますパーティーの大人たちから笑われてしまうのだった。



「………あ、あの………。」


 パーティーの大人メンバーたちがソーンのあたふた加減を楽しんでいると、おずおずと会話に入ろうとする者がいた。冒険者ギルドの受付嬢フィリアだ。


「………あの、ヒロ君ならここにいるのですが?」


 それまで笑っていたパーティーメンバーが顔を見合わせる。

 考えてみれば、魔物大行進(モンスターパレード)以来、リンカータウンの冒険者ギルドに訪れたことはなかった。

 アリウムの魂からヒロの魂が離れ、ヒロが機械人形=ゴーレムとして生きることになってからは、ほとんどシーラタウンで特訓していたり、鬼ヶ島など、冒険者ギルドが管理していないダンジョンでしか活動してこなかったのだから。



「…………えっと………。」


 フィリアにとって、傍に控えているアリウムは、ヒロという認識でしかなく、パーティーメンバーの話す内容などは、まったく理解できないのだ。

 フィリアに事情を説明するべきか迷っているパーティーの大人メンバーたち。しかし、白髪の少年はそんな雰囲気を誤魔化すように大きな声でフィリアに説明し始めた。



「――フィリアさん、だからこの間、僕が言ったじゃないですかっ! 僕はあの魔物大行進(モンスターパレード)の時の魔物たちの攻撃を受けたショックが原因で、忘れていた元々の名前を思い出したんですってば。ヒロという名前は、恩人が僕に仮でつけてくれた名前で、本来の僕の名前はアリウムなんですってば!」


 なんとも無理のある言い訳。

 フィリアが信じられないのも無理はないだろう。

 しかし、パーティーの大人メンバーたちはその言い訳に乗っかることにする。


「そうそう、だからパーティー名を【アリウム】にしたのも、アリウム君の深層心理が影響していたようなんだ。不思議な話だね〜。ハハハ………。」


 ライトが上手く話をまとめに入る。

 だが、フィリアはいまいち納得しない表情のまま、頬を膨らませて不満顔だ。



 そんなぎこちない雰囲気を壊したのは、遅れてやってきた国軍の将、クレージュであった――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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