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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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国崩し③


「………なるほど………、ところで国王はお一人で動かれたのですか?」


「――!? ヒルダさん、ご無事で何よりっす。」


 いつの間にか追いついた眼鏡秘書が無表情で姫に質問する。

 しかし、彼女が近づいたことに気づかないでいた面々は、驚きのあまり、揃って口を開けたまま呆けている。

 ただ1人、長剣使いだけがそんな眼鏡秘書に気づいて労いの言葉をかけた。



「えっ、えっ!? いつの間に………。」


 動揺が隠せない王女。

 それに対し、冷静がそのまま人になったような眼鏡秘書は淡々と質問を繰り返す。



「………国王が乱心とおっしゃいましたが、国王を手助けしている者はおりませんでしたか?」


 王女は一度深呼吸をして心が落ち着いたのか、今度はしっかりとした口調で質問に応えた。


「すいませんが、『王命により姫の命を貰い受ける』と言われただけで、実際に国王にはお会いしておりません。もしかすると、兵士たちが王の名を語ってクーデターを起こしたのかもしれません。」


 王女の話を聞いて、しかし、美人秘書は考える素振りすらみせないずに質問を続けた。


「………姫様に対して申し訳ございませんが、事実、国王陛下には国を動かす力はございません。また、国軍についても、議会の命令がなければ動くはずはないのです。ですから、私は国王の他に今回の事件を先導したものがいないかが知りたいのです。」


「――!? 無礼者がっ!」

「姫様に対して何という物言いかっ!」


 護衛の兵士が俄かに色めき立つが、美人秘書はまったく意に介さない。


「――私は姫君とお話をしているのです。貴方方は口を閉じていてくださいまし。」



「――何を!!」

「グランドマスター代行だか、なんだか知らないが、不敬も大概にしろっ!」


「控えなさいっ! 誰もが知っていることで怒ってもしょうがないでしょう!」


 護衛の兵士たちが怒りで剣を抜く寸前、王女が毅然たる態度でそれを制した。

 この国の王族は象徴でしかなく、実際に国を動かしているのは議会であり、その議員である有力な貴族や豪族、商人たちだということは、衆知の事実なのだ。

 ごく僅かな付き人たち以外、王族に対する敬意などは無いに等しい。



「………不敬は重々承知しておりますが、この一大事に言葉を選んでいては、問題の解決になりません。少し質問を変えます。姫様、普段城の中で見かけることのない、不審な者の出入りなどはございませんでしたか?」


 そんな王族の一員である王女に対し、しっかりと丁寧な言葉遣いで問いかけるだけでも、美人秘書にとってはかなりの気遣いといえる。



「………そういえば………。」


 色々な葛藤を飲み込み、目をつぶって考えを巡らせたのち、王女は重要なキーワードを呟いた。



「………城の中を、狐の面を被った巫女が何人か歩いていました。普段、城を訪れるものなどほとんどいないので、不思議に思ったことを覚えています。」



「「……………。」」


 狐の面を被った巫女――今まで、幾度となく悪さを先導してきた狐憑きに間違いない。

 ゴブリンを使って未成年を拉致し、可哀想な子供たちを使って使徒を襲い、魔物大行進(モンスターパレード)を先導して【試練】のダンジョンを壊してきた、あの狐憑き………。

 そう、混沌王ヒルコの使徒ともいえる狐憑きが城に出入りしていた。



「――間違いないね。絶対にヒルコが絡んでいる。」


「ええ、デビルズヘブン、それに王家。全部、裏でヒルコが操っていると考えてよさそうですね。」


 魔術師の男が呟き、それを美女秘書が肯定する。

 そして、聖職者、竜騎士、長剣使いが、同じくその考えを肯定する為に頷いた。

 


「………ヒルコとは? 悪なる神の使徒ヒルコの事ですか!?」


 世間一般の常識でいえば、ダンジョンを管理している使徒とは悪なる神ウカの使徒。

 善なる神々と戦い、ダンジョンに封印された悪なる神ウカ。その封印された魔力核を護り続けていると信じられている。


 この場にいる冒険者たちは、すでに歴史の裏側を知る者であり、ウカの事を『悪ではない』、『罪を被せられた』神であるという共通の認識でいる。


 しかし、それを知らない人々、とりわけ、王族となれば、悪なる神を封印する際、溢れ出した魔物を殲滅し、善なる神々に協力した存在とされているのだ。


 王女であれば、まさにこの伝説を教えられて育ったはず。

 だとすれば、ここでヒルコの名前が出たならば、当たり前に悪なる神による悪辣な行いをを考えることだろう。



「――それは、悪なる神が復活しようとしている、そう考えてよろしいのですか? だから、善なる神々に協力し、あまつさえ国まで作った我ら王族を使って国崩しをやろうとしている、と。」

 

 冒険者たちはため息をつく。

 しかし、自分たちが知る情報は、おそらく王女たちには受け入れられることがない事を知っている。

 それほど、長い長い時の中で語り継がれてきた常識というものを覆すという事は難しいのだ。



「とにかく、お姫様は命を狙われてんだろ? なら、キャピタル・ヘルツには戻れないって事だよな。」


 長剣使いが結論を急がせる。

 今、のんびりしている暇は無いのだ。


「そうですな。ハルクの言う通り、先ずは安全な所に避難しなくては。良いですな。」


「そうですね。追手がかかる前に、リンカータウンに向かいましょう。あそこの冒険者ギルドはサムがいますし、今のあの街は要塞のようなもの。姫様の安全も確保できるはずです。」


 

 先ずは安全の確保。そう結論づけた一行は、道すがら情報の擦り合わせをする事にして、一路、リンカータウンへ向かう事になる。


 今、仲間たちがそれぞれの道で、自らやるべき事を理解しはじめた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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