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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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国崩し②


 ズルズル………ドサッ!



 扉に覆い被さっていた護衛部隊の隊長の身体が崩れ落ちた。

 稼げた時間は極僅か。

 追手方の兵士がドアを蹴り破った。


 中にいたのはスマートな美女。

 眼鏡を人差し指でクイッとあげると、ふぅっと息を吐くと、いかにも面倒くさそうに腰に手をやった。


 そんな挑発とも言える眼鏡美人の態度にも関わらず、扉の外に立つ兵士たちは無表情。


 部屋に灯りはなく、窓から差し込む月の光だけが頼り。

 そこに目的の少女が居ないことを確認すると、後ろに居た兵士の一部が建物から離れ別行動に移る。

 おそらく、裏口から逃げたはずの少女を追いかける為、建物を回り込む算段だろう。


 

「………まったく、こんなにも大勢の人間を操れるなんて。無茶苦茶な力ですね。」


 眼鏡美人は1人言を呟くと、後ろを向いて裏口へと歩き出す。

 そんな無防備な後ろ姿はいかにも追手の兵士たちを挑発しているのだが、そんな眼鏡美人の不遜な態度に激昂するでもなく、兵士たちはゆっくりて部屋の中に入ってきた。


「………ルルルル………!?」


 まるで人の発する声とは思えないような低い唸り声。

 兵士が一瞬体勢を低くしたと思った瞬間、剣を振り上げて眼鏡美女へ向かって飛びかかった。



 ビンッ!!



 刹那――同時に飛びかかった兵士の手首が飛ぶ。



 ビンッ! ビンッ! ビビンッ!!



 お構い無しに後ろから押し寄せる兵士たち。

 見えない何かに押し切られるように、次々と身体の一部を飛ばしていく。

 

 身体を切り刻まれた兵士たちは、血を振り撒きながらバタバタと倒れ込んでいくが、その表情は無のまま。

 まるで痛みを感じていないのか、無表情のまま絶滅していく姿は異常でしかなかった。



「………嘘、でしょ………、なんなのですか、これは………。」


 相変わらずクールな表情で眼鏡を抑えている女だが、この異様な状況を目の前にして、流石の彼女も声を震わせた。

 


 異様――あんな風に身体が切り刻まれているというのに、悲鳴の一つも発しない。彼らは痛みを感じることはないのか………。


 異常――切り刻まれる兵士を目の当たりにしながら、それをものともせずに次々と突入してくるなんて、凡そ正常な精神状態ではないだろう。


 すでに部屋の中は血の海。

 どれとどれが同じ兵士の身体だったのかもわからない。

 


「………こんな連中にいつまでも付き合ってられませんね。」


 眼鏡美人はそう呟くと、一度両手を交差し、左右に手を広げた。

 キラリ、と月明かりに照らされたのは、無数の細い糸。


 何度か両手を振り回すと、糸は部屋中に張り巡らされていく。

 よくよくみれば、先程から兵士を切り刻んでいたのも、入り口付近に張り巡らされた糸のようだ。

 兵士たちの大量の血が滴り落ち、この地獄のような部屋を作り出している。


 中央から外側に向かって放射状に伸ばされた糸に、今度は横糸が張り巡らさている。それは、まるで『雲の巣』――



「このままでは肉片で埋め尽くされてしまいますから………、あとはそこで止まっていただきましょう。」


 入り口付近に張られた鋭利な糸とはちがい、あとから張られた糸は粘着質。

 蜘蛛が獲物を罠に嵌める為の糸。

 月明かりに照らされて、やっと目に見えるほどに細いその糸は、兵士の身体を絡め取り動きを封じる。


 押し寄せる兵士たちは、先の糸に切り刻まれ、後の糸に絡み取られる。

 盲目的に次々と、その身体の犠牲を厭わない兵士たちは、部屋を埋め尽くし、兵士の壁と化した。



「………まったく………、これじゃあ火に飛び込む蛾と同じですわね。」


 眼鏡の位置を直して、女は「はぁ」と大きなため息を残して踵を返した。

 

「やはり、『デビルズヘブン』と『国』は繋がっていた。そしておそらく………。」


 

           ♢



 首都キャピタル・ヘルツ郊外。

 南にむかう街道は、月明かりに照らされており明るい。

 

「――ここまでくりゃあ、大丈夫だろ。」


 その大きなブレードソードを剥き身のまま肩に担いでいる長剣使いが、走る速度を緩めながら口にした。



「そうですな。ヒルダ殿とも合流しなくてはいけませんし、少し休憩いたしましょう。」


 竜人族の戦士が背中に担いだヒータシールドを草むらに置く。

 そして、膝に手を置き、息を切らしている少女を盾に腰掛けるように導いた。



「――ハッ、ハッ……、ありがとうございます……、ハッハッ……。」


 すでに限界だったのだろう。

 少女はドガっと腰を下ろすと、聖職者の差し出した水筒の水を一気に飲み干した。

 付いてきた2人の護衛の兵士も、四つん這いになって息を整えようと必死だ。この2人にも魔術師がコップに魔法で作り出した水を注いでを差し出す。



「………この度は、誠にありがとうございました。わたくしはマヨリ。テラ・オリンス王国、ニギ13世の娘、第一皇女マヨリと申します。」


 乱れた服装を直して、居住まいを正して自分の名をハッキリと明かす少女。

 一息ついて落ち着いたのか、護衛の2人も片膝を付いて頭を下げた。



「存じておりますよ、姫様。私たちは、冒険者です。冒険者ギルドのグランドマスター代理のヒルダさんからの依頼で姫様を助けに参りました。」


 聖職者の優しい口調が3人を安心させる。

 王城内で襲われてからずっと、死と隣り合わせの状態で逃げていたきた3人にとって、郊外の野原ではあるが、やっと訪れた安息の時間なのだ。



「………そうでしたか。御助力感謝いたします。」


 座ったままではあるが、頭を下げる姫の姿に恐縮しながらも、魔術師の男が質問を投げかける。


「――我々も一応は事情は聞かされておりますが、実際に何が起こっているのか、お聞かせいただけますか。」


 一瞬、迷うような素振りを見せたが、今の自分たちの状況を理解しているのだろう。姫は2人の護衛に目配せし同意を得ると、ハッキリとした口調で語り始めた。



「………わかりました。何故なのか、わたくしもよくわからないのですが、お父様が………ニギ13世が御乱心なさいました――」


 


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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