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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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国崩し①

  

         ▲▽▲▽▲▽▲



「――おのれっ!」


 カンッ!カンッ!


 剣と剣がぶつかる音が響く。

 それは鎬を削るような高度な剣術のやり取りでは無い。

 ただ力任せに振り下ろされた剣を、それに負けじと振り払い、無作法に剣と剣がぶつかる音。

 刃こぼれなんかを気にする余裕などない。

 相手を倒すか倒されるか、そんな無様に命のやり取りをするのみ。

 

「――姫様っ! 今のうちにっ!」


「何を言うのっ! 私も戦いますっ!」


「馬鹿な事をっ! 早くお逃げくだされっ!」



 圧倒的な数で追いかける者たち。

 声を上げる事なく、ただひたすらに無表情。

 追われる側は、盾となり、囮となり、ひとり、またひとりと数を減らしていく。

 

 

「お前たちっ! 国を守るべき国軍の兵士が、なぜ国の象徴たる方々を襲うっ!」

 

 同じ制服を着た者同士、追う者と追われる者に別れて剣をぶつけ合う。

 服装が同じならば、装備も同じ。

 しかし、追われる側の剣の技量は追う者たちのそれを凌駕しており、圧倒的に不利な状況の中、囲みの中央を走る少女を徹底的に護り通している。


 

「――くっ!? 」

「おのれっ! 警備隊まで!? どうなっているんだっ!?」

 

「………どうして………。」


 首都キャピタル・ヘルツのメイン通り。

 南北に走るこの通りで必死の逃走戦を戦う一団の進む先に、今まで戦っていた集団とは違う制服の集団が槍を構えて待ち構えていた。


 密集隊形で槍襖を作り南門へ続く道を塞ぐ一団は、古代ギリシャのファランクスよろしく、歩幅を合わせて前進して来た。


 前門の狼、後門の虎。

 どちらにも部隊の人数では負けている。

 すっかりと挟み撃ちにされた一行は、少女を中心に円陣を組んで構える他にとれる策は無くなっていた。


「――姫様っ!」


「わかってるっ! 私も戦いますっ!」



 追手の足は早く、少女が剣を抜くと同時に、殿の兵士に切りかかった。

 ガツガツと鋼が打ち合さる音が夜の街に響く。

 複数の相手に斬りかかられて、殿の兵士2人は数合耐えたのみで切り伏せらてしまった。


 少女が周りを見回せば、城を脱出した時には20人はいたはずの護衛の数は、すでに8人まで減っている。


 前方からも槍と盾を構えた集団ジリジリと間を詰めてくる。ザッ、ザッとテンポの揃った足音は、少女たちに大きな恐怖を与えた。

 

 

 また1人、後方の護衛が切りふせられた時、突然通り脇の建物のドアが勢いよく開かれた。


「――此方へっ! 早くっ!」


 罠の可能性もある。

 しかし、この場はすでに逃げ道などない死地。

 護衛兵士の隊長らしき男は素早く決断した。



「――姫を頼むっ!」


 2人の護衛をつけ、建物に向かって少女を送り出すと、自らは残りの4人と共にドアの前に仁王立ちした。


「絶対に此処は通さんっ!――」


 しかし、隊長は最後まで言葉を紡ぐことは許されなかった。

 殺到した兵士たちから容赦無く槍が突き立てられ、剣が振り下ろされる。

 簡易な鎧しか身につけていない4人の護衛と隊長は、あっという間にその身を切り刻まれた。



「…………。」


 狂気が荒れ狂う惨状。

 護衛兵士を切り刻む追手たちは、無表情で声すら発しない。

 

 異常――


 消えゆく意識の中、隊長はそんな追手の奇妙な様子に恐怖する。


 その身を挺して必死にドアにしがみつく隊長だったが、脆弱な人族のその身体では、数秒を稼ぐだけで絶命することとなった――



           ♢



「――早くっ! 裏口へっ!」


 眼鏡をかけた美女が逃げ込んだ3人に指示する。

 指を指した先には、長剣を構えた戦士とローブを纏った魔術師がいる。

 さらに、裏口を開け放ちながら、法衣を纏った聖職者の女性と大柄な竜人族の戦士。

 

「わかりましたっ! 行きましょうっ!」


 自らも剣を構え、2人の護衛に声をかける少女。

 素早く判断できたのは、太陽神の聖職者が居た事が大きかった。


 2人の護衛は少女と共に裏口へと走るが、緊張したまずっと走り続けた為か、1人の兵士が足をもつれさせ転んでしまった。



「我ら、敵を祓い、豊穣を護るものなりっ! 太陽神よ、我らに希望の力をっ! 『ウォークライっ!!』」


 聖職者の女が両手の親指と人差し指で円を作りながら、太陽神の力を借りる魔法を唱えた。

 この魔法は、戦う者の気持ちを昂らせ、疲労を感じにくくし、恐怖などへの精神力耐性を上げてくれる。


 極度の緊張感と疲労で動きの止まった兵士は、軽くなった身体に驚くが、すぐにそれが魔法の効果だと気づいた。


「我らは冒険者。貴殿らの味方でありまする。」


 落ち着いた声で『味方』を名乗るのは、大きなタワーシールドを構える竜人族。

 彼はタワーシールドを地面に突き刺し、外の様子を伺っている。


「この街はもうダメです。我々が先導します。急ぎましょうっ!」


 魔術師の男が叫ぶと、竜人族の戦士と長剣を肩に担いだ戦士が先頭を走り始めた。

 慌てて後ろについて走りだす少女と護衛。

 聖職者が唱えた魔法のおかげで疲労は消えた為、全力で走る事ができる。

 

 後ろからは少し遅れて魔術師の男と聖職者の女がついてくる。


「――あの!? 眼鏡の女性は!?」


 

 少女は建物から出てこない眼鏡美人の彼女を心配したが、長剣を担いだ男は笑いながら嘯いた。


「はっはっ! ヒルダさんなら大丈夫。すぐに追いついてくるって。」


 男のあまりに自信満々の物言いに、少女は何も言えなくなる。


(………あんな細身の女性が? どんな力があるというのかしら………。)

 

 

 気にはなるが、今は逃げなくてはならない。

 自分を護る為に犠牲になった護衛たちの為にも。

 少女は手に持つ剣の柄を強く握ることで、その気持ちを無理矢理落ち着けながら、走り続けた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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