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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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英雄、始まりの地②


「――随分と立派な門ですね。それに……。」


 遠くからではよくわからなかったが、リンカータウンの西口に作られた門はかなり頑丈そうで、意匠などは施されておらず、無骨な門だった。


 さらに、以前は簡易な壁といった感じだった街を囲む壁は、いかにも城塞都市といった頑強なものに作り替えられており、高さこそそれほどではないが、所々に見張り台まで作られている。


 そして、驚いたことに、壁の外側には空堀が掘られ、街の周囲を囲んでいた。



「ニシシシ――アリウムさんが驚くのも無理はねえ。あんたがこの街を訪れない間、街の住人総出でこの街は造り替えられた。また魔物大行進(モンスターパレード)が起きた時に備えてな。」


 なんということか。

 あの時の戦いを経験した街の住民が、自ら街の防衛策を考えたというのか。

 


「驚くのはまだ早いですぜ。実は壁の外側には何箇所かアリウムさんが教えてくれた『枡形小口』の砦も作られてるんでさ。あの仕組みには、国軍の大将も驚いたらしい。ありゃあ、すげえ知識だと。」


 嬉々として説明するアーク。


「………ああ、あの時の防衛策は本当に凄かった。いったい何処であんな知識を蓄えたんだ?」


 ニーンが素直な疑問を投げかける。

 しかし、アリウムは笑って誤魔化すことしかできない。


 なんせあのアイデアは、あくまでもヒロの持っていた知識であり、アリウム自身はまったく仕組みを理解などしてはいないのだが、それでもヒロの知識を褒められたことが嬉しくて、ついにやけ顔になってしまった。


「たまたまですよ。ただ必死に考えただけです。ヒロさんやライトさんたち年長の仲間たちのおかげです。」


 決して自分の手柄ではない。

 そこは履き違えてはならない。

 増長することの危うさは、ヒロの活躍を見ている時に、嫌と言うほど経験したのだから。


(………ヒロさんですら失敗を繰り返してるんだ。僕がやったことでもないのに、僕が増長する理由なんてない。)


     

           ♢


 

 リンカータウン西門。

 空堀に架けられた橋を渡る。

 木製で作られた橋ということは、もしかすると街の危機の際には落とされる事を前提に作られているのだろうか。


 陽はまだまだ高いというのに、人の出入りは極端に少ない。

 アリウムたちが門を通ろうとすると、門番たちに呼び止められた。



「おいっ! お前たちは何処から来た? 見かけない顔だが…………んっ!?」


 魔物大行進(モンスターパレード)が起こる前、チーム【アリウム】がダンジョン=リンカーアームを冒険者パーティーとしての拠点としていた頃には門番なんて居なかったし、アリウム自身が罵詈雑言を浴びせられることはあっても、街への出入りで呼び止められることなどなかった。

 

 

「――なんだい? 俺たちは冒険者だ。ちゃんと冒険者証もあるぜ?」

「ああ、パーティーの名前はまだ決まっていないが、冒険者ギルドに問い合わせてもらえれば保障してもらえると思うぞ。」


 アークとニーンが首から下げた冒険者証を門番に見せている。それを見て、アリウムも慌てて冒険者証を取り出した。



「うむ、確かに冒険者証を確認した。通っていいぞ………って、ちょっと待てっ! じゃないちょっとお待ちくださいっ!」


 首にかけていた冒険者証を見せようと、被っていたマントのフードを下ろしたアリウムの顔を見て、門番の1人が声を裏返らせて叫んだ。



「あのっ! もしかして……、あなたはリンカータウンを救った勇者様ではありませんか!?」


「――は!? 勇者??」


 アリウムは言われた意味が分からず、つい間の抜けた声を出してしまう。

 しかし、そんなアリウムを他所に、アークとニーンが助さん格さんよろしく、アリウムの事を大袈裟に紹介し始めた。


「おうよ、この方をどなたと心得る!」

「ああ、この方はあの魔物大行進(モンスターパレード)の際、その知恵と勇気でこのリンカータウンを救った【絶対防御の英雄】殿だ。」


「やはりっ!? その白髪に白い瞳………、あの時の勇者様――」

「自分はあの時、前線の砦であなたに命を救われましたっ!」

「自分もですっ! 絶望しそうになっていた我々が最後まで戦い抜けたのは、勇者様のおかげですっ!」

「あの大爆発魔法凄かったですっ!」


 どうやらこの4人の門番は、リンカータウン郊外での魔物大行進(モンスターパレード)防衛戦に参加した国軍兵士だったようだ。

 アリウムを『勇者』様と呼び、涙を流して歓迎してくれている。


「勇者様、リンカータウンへようこそっ!」

「おい、クレージュ様に伝えろっ!」


「おいおい、【絶対防御の英雄】殿だと言ってるだろう………、まあ、【勇者】様でもいいけどよ。」


 

 アークとニーンはこうなる事をある程度予想していたのだろうか。

 門番たちの興奮した様子を見た街の住人が集まって来ているというのに、2人はそれが当然であるかのように泰然としている。

 


「――おいっ! 勇者様だってよっ!」

「マジかよ、ほんとに白髪なんだ。」

「俺ぁ、あの時、一緒に戦ったぜっ! ありゃあ間違いなく勇者様だっ!」

「お前はただ石を投げただけだろうがっ!」

「馬鹿野郎っ! 俺たち冒険者は最前線で一緒に戦ったんだっ!」


 どんどん増えていく聴衆に、門番の1人が大声で宣言した。



「リンカータウンを救った勇者様がお帰りになったぞっ! さあ、みんな、街中に知らせよっ! 我らの英雄の御帰還だっ!」


 門番の声を皮切りに、『勇者様』、『英雄殿』とアリウムを讃える声が次々と上がった。

 その声は次々と伝播し、やがて街中に広がっていく。


 【絶対防御の英雄】は、その始まりの地リンカータウンにて、初めて本当の英雄となった――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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