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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
422/456

英雄、始まりの地①


          ♢



「兄ちゃん……、いや、アリウムさん。リンカータウンが見えてきたぜ。」


「………ええ。魔物大行進(モンスターパレード)の影響もそれほど無かったみたいですね。とりあえず安心しました。」


「ああ。それもあんたの……、アリウムさんのおかげさ。」


「いやいやいやいや………。あの時は、国軍や冒険者のみなさん、それに街の人たち、みんなが力を合わせて戦ったから魔物の大群を退けられたんです。」


(………それに、あの時のこの身体はヒロさんが表に出て頑張ってくれたわけだし………。)



 リンカータウンの入り口には、以前と違い大きな門が作られていた。そしてその門の両脇には門番だろうか。それぞれ左右に二人ずつ、武装した兵士が立っている。

 

「あれ? アリウムさんは魔物大行進(モンパレ)の後、リンカータウンに来たことは無かったんですかい?」


 門と門番を見て驚くアリウムに、アークが話しかけた。


「はい、ずっとシーラタウンにいましたので。」


「………シーラタウンって………、アリウムさん、あそこはほとんど人は住んでないんじゃ………。虫型の魔物ばかりで、しかも魔石も落とさんでしょう? なんであんな所に………。」



 ダンジョン=インビジブルシーラの魔物は魔石を落とさない。

 これは冒険者の間では有名な話であり、そんな実入りの無いダンジョンで活動する冒険者は、普通いないのだ。

 命懸けでダンジョンに挑むのに見返りがない。そんな所では、どうやっても冒険者の生活は成り立たない。すでに【試練】のダンジョンとしては機能していないのだ。

 

 一方、ダンジョン=リンカーアームに現れる魔獣系の魔物はしっかりと魔石を落とす。

 この世界の常識からはずれず、【試練】のダンジョンとして人々の生活になくてはならない存在。

 そんなダンジョンがあるこの街は、しっかりと冒険者が集まり、賑わっているのだ。



「………まあ、特訓? みたいな?」


 実際、スパルタ方式で特訓させられていたから間違いじゃない。散々、魔力の限界まで【アンチバリア】を貼り続け、虫型の魔物と戦わされ続けたのだから。



「特訓って………。それをやるにしろ、身入りがあった方がいい気もするが。もしかして、あのおっさんの方針かい? そりゃあ、まあ、気の毒なこった。」

「ああ、アリウムさんのその能力を使えば、まともなダンジョンならいくらでも稼げただろうに。」



 アリウムは思った。

 あのおっさんとは、ヒロのことだろう。

 まあ、見たまんま中年の男であることは間違いないし、ヒロ自身もアラフィフ? とかよくわからない言葉を使って自分の年齢を気にしていたし。

 

「あはは、確かにあのおっさんはスパルタでしたね。でも、あのおっさんのおかげで今の僕があります。だから、そんな言い方しないでくださいね――」


 アークとニーンは楽しげに笑うアリウムにつられて一緒に笑った。しかし、直後、アリウムの顔を見てその口を痙攣らせる。


 口元は笑っているのに、アリウムの白い瞳は2人を鋭く睨んでいたのだ。

 目は口ほどに物を言う、などとよく聞くが、アリウムの瞳はまさにそれ。

 眉間に皺を寄せ、鋭く細められた目は、アークとニーンが息をするのを忘れてしまうほど、2人に衝撃を与えた。



「――あのおっさんは、僕にとって友であり、兄であり、親であり、そして大恩人ですから。」


 そこまで言うと、今度は白い肌を紅潮させながら、何かに心酔したような表情で笑うアリウム。

 先程まで吊り上がっていた目尻は下がり、白瞳は妖しく輝き、艶めくような目つきでどこか遠くを見つめている。

 

 アークとニーンは、その一瞬で様子の変わるアリウムを見て何か背中に寒いものを感じた。魔物の子と呼んで蔑み、虐めていた頃を思い出したのだ。



 しかし、そんな印象は一瞬で消え去る。



 二度、三度と瞬きをすると、今見たはずのアリウムの様子は、元の少年の姿に戻っていたから。



「………ハハハ………、そうですかい。そりゃあ、俺たちがおっさんなんて呼んだら、バチがあたりやすね。」

「…………。」


 アークはなんとか軽口で誤魔化すが、ニーンは言葉を失っている。

 目を擦ってもう一度アリウムを見るが、先程感じた不思議な感覚は現れない。


( ………いけねえな。俺はまだ、あの頃の感覚が抜けきらねぇらしい………。これから英雄になるだろう男を見て、恐怖を感じるなんて………。)


 アークは様子の戻ったアリウムを見て、ふぅ、と一つ息を吐いた。



「――あはは、大丈夫ですよ。ただ、僕にとってはヒロさんは『英雄』の一人なんです。だから、敬意を持って接してもらえるとありがたいです。」


 そう言うと、アリウムはリンカータウンの入り口へと歩き出した。

 いつの間にかその場に立ち尽くす形になっていたアークとニーンが慌ててアリウムを追いかける。

 

 背中は汗で濡れていた。

 それほど、今のやり取りが2人に緊張を強いたのだ。

 白髪、白瞳、白肌の華奢な少年。

 かつて、自分たちが魔物の子と嘲った少年。

 


「――アリウムさん、待ってくだせぇ。」



 しかし、元チンピラ冒険者の2人は自分たちが決めた道を進むことを辞めない。

 何故なら、この少年がこの街で起こした奇跡のような出来事が、2人を真っ当な道を進む決意をさせたから。

 


「だから………、だから俺たちゃ、あんたについていく。俺たちにとって『英雄』はあんただからな。」


 小さなアークの呟きに、ニーンが無言で頷く。

 それぞれ、崇拝する対象は違えども、信じて前に進む以外、彼らに道はないのだ。後戻りはしない。



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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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