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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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言い分け


 使徒の部屋には、森の女王とドワーフ王、それに氷狼と吸血鬼王の現し身である2体の機械人形=ゴーレムが集まっていた。


「さてヒロ君。早速だけど、【爽緑の竜石】を出してもらえるかい。」


 貼り付けたような笑顔を向ける森の女王。

 隣で車椅子に座るドワーフ王は深くため息をつく。



「………まったく………。アエテルニタスよ、ゴズの最後を看取ってくれた男に、労いの言葉すらないのか。」


「ああ、そうだね。ヒロ君、お疲れ様。色々と大変だったようだね。」


 森の女王のまるで気持ちのこもっていない言葉は、俺を不快にした。

 自身を【研究者】と呼び、吸血鬼王曰く【効率主義者】。そんな彼女にとって、他人からの苦言など、まったく意に介さないのだろう。

 

 

「あの……、ニールの件は許してもらえたのですか?」


 俺は古竜王ゴズが残した【真紅の竜石】は、その子供であるニールが無理矢理飲み込んでしまった。

 そのせいで、未だにニールは腹を膨らませたまま動けずにいるのだが、俺の予想に反して、使徒たちはその行為に対してまったく触れてこない。

 不思議に思った俺は、開口一番、使徒たちに問いかけてしまった。



『ああ、その件についちゃ、俺たちの話し合いで不問にする事で決まった。まあよ、ゴズの遺品をゴズの子供に渡すのは当たり前だろ。心配すんな。』


 俺の問いに氷狼人形が答える。

 森の女王は面白くなさそうな顔をしているが、まあ、使徒同士で話し合った結論がそうであったなら、古竜王の竜石は安心してニールの腹に納めておこう。



 ふと吸血鬼人形の表情を伺う。

 機械人形に顔はない為、その表情は読み取れないが、レッチェでの使徒間のやり取りを考えると、吸血鬼王が森の女王の説得側に回ってくれたことは。なんとなく想像がつく。


 俺は吸血鬼人形に向かって軽く会釈すると、彼は横を向いたまま片手を挙げる。言葉はないが、俺の感謝の気持ちは受け取ってもらえたようだ。



「さあさあ、ゴズの竜石の件はいいから、早く【爽緑の竜石】とやらを見せておくれ。」


 森のは、ニールの話を出した時の不機嫌MAXな表情から、新しい物が待ちきれないという好奇心MAXの表情へと変わる。

 目的に対する彼女の意欲は、【欲】を無くして滅びそうになった種族の王にはまるで見えない。

 いや、違うな。この【欲】があったからこそ、彼女自身は滅びと無関係でいられたのか。


 

「………それなんですが………。」


 さて、ここからどうやって使徒たちを納得させようか。

 3人の精霊たち――波の乙女、嘆きの妖精、霜男は、相変わらず精霊箱を囲んだまま、俺に返そうとしない。


「なんだい、もったいぶって。まさか、【爽緑の竜石】を無くしたとか? まさかな。」


 ハッキリしない俺の態度に苛立ったのか、森の女王の口調は冷たい。自分の好奇心を邪魔されることへの強い憤りを感じる。

 


「………すいません。それなんですが、やはりヒルコの封印には、俺自身を使ってもらいたいのです。」


 俺と4人の使徒の間に険が立つ。

 彼らの中ですでに決定していた事を、突然ひっくり返されたのだから、まあ、さもありなんだ。

 しかし、どうにかして認めてもらうしかない。

 俺は、ダンジョン=インビジブルシーラに来る道中、そう決めたのだ。


「………どういうことさね。そりゃあ、君の魔力核をヒルコの封印に使うってのは、他の代替え方法がなければそうするつもりさ。でも、【爽緑の竜石】が使えれば、態々君が犠牲になる必要はないだろ?」


 合理的でない。

 森の女王はまるで不思議な物でも見るように、俺の言葉に首を傾げた。

 

「すいません。【爽緑の竜石】に他の使い道ができてしまったんです。だから………。」


「――は?」


 使徒たちの険が深くなる。

 俺の言っている事は、元々の目的から外れているのだ。それも、自分の願望を果たす為に。

 それは、使徒たちの目標を知りながら、それを蔑ろにしようとしていると思われて当たり前だろう。

 

「………それは、私たちとの約束を守るつもりがないということかい?」


「俺の核を使ってヒルコを封印できれば、あなたたちの目標は達成できるはずです。」


「ふむ……、君は、後ろで君の事を心から心配しているだろう彼女たちや、他の仲間たちの気持ちを差し置いてでも、自分の核を使うというのかい?」


 わかっている。

 ナギとナミが俺の発言に驚き、怒っていること。

 他の仲間たちが俺の発言を聞けば、そんなことは許さないと怒ってくれること。


 それでも、約束と願望を秤にかけ、目的と目標をごちゃ混ぜにしてでも、精霊たちがとった行動を支持したい………いや、俺自身がどうしても()()にまた会いたい。


 その為なら、代わりに自分が消えることはまったく問題ではないのだ。

 


「………みんなには前にも伝えてあります。それに今、【爽緑の竜石】を使ってやろうとしている事は、仲間たちの願望でもあるはず。」


「へぇ〜………、ずいぶんな事を言うじゃないか。いったいどんな事をやるつもりだい。我々使徒との約束を反故にしてまてやりたい事とは。」


 森の女王の目が鋭く俺を睨みつける。

 隣のドワーフ王も、車椅子に深く腰掛けながら俺の答えを待っているようだ。

 氷狼と吸血鬼王は………、機械人形の表情は読み取れないな。



「それは――」


 俺は精霊たちがやろうとしている事、俺のやろうとしている事について説明し始めた。

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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