見習い冒険者、木の棒を振る
ケインさんにお世話になるようになってから、今日で3日目。今日は、ケインさんが剣の振り方を教えてくれると言う。
昨日の夜の事。
ユウさんと別れ、ケインさんの部屋に帰ってからケインさんが話してくれた。
「俺たち『アイリス』は、この国にある5つのダンジョンを順番に回って功績を上げ、A級パーティーに昇格することを目指しているんだ。そして、実は、今はこの間の探索の後の休暇という形になっているんだ。だから、こうしてお前に付きっきりでいられるのもあと3日程しかない……。」
――それはそうさ。当たり前な事さ。
目標をもって活動している冒険者の邪魔なんてできないよ。
――俺みたいなのが、B級冒険者とずっと居られるわけがないじゃないか。
俺はなんの取り柄もない子供なんだもの。
「――そうですか。わかってます。充分良くしていただいてます。これ以上は望むべくもありませんよ……。」
勤めて明るく話はしたつもりだが、顔に落胆の色が出てしまった……。
そりゃそうだよね……。だって、本当に離れたくないって思ってしまったんだもの……。
「――そこでだ。実は俺は、お前を『アイリス』の専属ポーターとしてみんなに推薦しようと考えているんだ。」
えっ!? ほんとに?? そんなこと、期待して良いの!?
今まで、ナナシは孤児院でいじめられ、街で疎まれて、ずっと一人で生きて来た。
俺自信には俺だった前世の頃の家族との記憶があるが、ナナシとしては家族の記憶なんか全く無かった。
そんなナナシを……俺をパーティーに同行させてくれる? しかも専属で?
こんな嬉しい事があるだろうか!!
仲間と一緒に冒険できるなんて夢のようだよ!
「――ただな、この前話したように、【アイリス】の俺以外のメンバーは、少しお前に対して偏見があるんだ……。だから、推薦すり理由をしっかり固める為に、お前には、自分の身を自分で守れるようになって欲しい。」
――偏見……か……。
「ナナシには第一の才能があるから、防御面は大丈夫だと思うが、それにばかり頼っていては成長できないだろう。だから、最低限の戦う力をつけて欲しい。ナナシは木刀をもっていたよな?短い時間だけど剣の使い方を教えていこうと思う。」
――ケインさんに剣の使い方を教われる。こんなありがたい話は2度とないかもしれない! しかも、ケインさんとまだまだ、一緒に居られるかもしれないんだっ!
俺の期待は膨らんだ。――しかし、その一方で、上手くいかなかった時の不安もまた膨らんでいたんだ……
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
「お前まだ身体ができてないから、お前の持っていた木の棒はちょうどいい。振り負けしないように、しっかり基本の型を繰り返してみろ。」
ケインさんが見本をみせてくれる。
最小限の動きで、剣を振り切っている。
経験も才能もない俺がみても感じことができる。
――あぁ、俺もあんな風に俺も剣が振ることができたら……
上段からの袈裟斬り
中段からの薙ぎ払い
下段からの逆袈裟斬り
正面からの付き
これを左右対象、正面付きの順序に繰り返す。
剣など持ったこともなかった俺は、10回も繰り返すと腕が鉛のように重くなり、まともに振れなくなってしまう。
「はぁっ、はぁっ、むぐぐ……。」
あっという間に限界が来てしまった。
「なんだナナシ、もう限界か? そんなんじゃ魔物を倒すことなんてできないぞ? ほらっ! もう少し頑張れっ!」
もう一度初めから基本の型を繰り返す。
すでに限界を超えていて、誰でも容易に棒を捕まえられるような速さだ。
――こんな風に応援されてことなんて、いつ以来だろう。
棒を握る力も限界になっているが、まだまだ頑張れる! いや、頑張る!
「よし、それくらいでやめておけ。もう腕も上がらないだろ? これは基本の基本だ。 ナナシ、強くなりたいなら、しっかりと身につけるんだぞ!」
その日から、棒振りが僕の日課になった。
コツコツ開始!