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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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ファクター


 波の乙女=ウンディーネが作り出した治癒の力を持つ水膜をナギは自分の顔に貼り付ける。

 目深に被るフードのおかげで、所謂、パックを貼り付けた状態の顔はうまく隠せている。

 

「ミズハ、ありがとっ!」


 ナギの感謝の言葉に、波の乙女は朗らかな笑顔で応える。

 しっかりと火傷を負ったナギにとって、優しい水膜の癒しの力は、将来のシミリスクを回避してくれる重要なファクターであるようだ。


 同じ年頃の女の子より、幼く見えるナギの顔立ちは、吸血鬼王の眷属になり、成長が遅くなったことが原因だろうか。

 年齢的には、少女というより女性と言っていい年頃なのだが、彼女を助けた頃から容姿はほとんど変わっていないように思える。


 白狼の眷属であるナミが、かなり大人びてきているので、眷属となった種族の違いで成長の早さがまったく違うということは間違いないだろう。



《 ふふっ、乙女の悩みはつきませんね。》


 ポンっ! とディフォルメモードに戻った波の乙女は、精霊箱から離れようとしない嘆きの妖精と霜男の元へテケテケと走り寄っていった。

 俺とすれ違い様、プイっとそっぽを向きながら………。

 

 う〜ん………。

 何故だ。

 吸血鬼王の部屋でのやり取り以降、精霊たちが口を聞いてくれない。

 俺、君たちのご主人様じゃなかったっけ?


 しかも、精霊たちが何故そんなことをしているのか、まったく検討がつかない。精霊たちがこんなにも頑なに俺を無視する理由が思いつかないのだ。



「………なあなあ、俺、なんかした?」


 水膜パックにご満悦なナギに聞いてみるが、「う〜ん………。」と首を傾げるばかりで、答えは見つからないようだ。

 

 精霊たちは、自分たちがすっぽり入る大きさである精霊箱を3人で大事そうに運んでいる。

 俺から奪いとって触らせないくらいなのだから、精霊箱が今の状況になった原因なのは間違いないなだろうが………。


 【精霊箱】

 【爽緑の竜石】


 この2つが何かしら関係しているならば、十中八九、森の女王たちに【爽緑の竜石】を封印用機械人形の核に使うように言ったことが原因だろう。


 しかし、だ。


 精霊たちにとって【爽緑の竜石】がなんの役に立つのか?


 事実として、今まで頑なに蓋を開けさせなかった精霊箱に【爽緑の竜石】を詰め込んだのは精霊たちだ。

 あの時は、単純に【爽緑の竜石】を運ぶ手伝いなのかと思っていたのだが、今の精霊たちの態度をみれば、ただ手伝いをした訳ではないのだろう。



「………う〜ん………。森の女王たちに【爽緑の竜石】を渡すのに反対なのだろうことはわかるんだけどなぁ………。でも、なんで?」


 精霊って、物にたいする執着が強いのか?

 それとも、魔力を大量に秘めた竜石だから、精霊たちにとって重要な物だとか?

 

 ふと、あの優しい妖精と出会ったきっかけの出来事が頭に浮かんだ。


 目一杯の胡桃を抱え、木の虚から出られないでいた優しい妖精。

 今思い出しても、微笑ましい妖精のドジっ子エピソードだ。

 おっちょこちょいで、賑やかなあの優しい妖精。

 そういえば、精霊箱の蓋は、彼女が消えたあの時から封印されていたんだっけ。


 ズキンっ、と心の奥に隠した傷が痛む。

 無意識に思い出さないようにしていた自分に腹が立つ。

 彼女を無くしたことを思い出して、また自分が傷つくのが恐ろしい。


 

 あれ?



 なんで思いつかなかったんだろう。

 精霊箱の蓋を開けない理由は――『君が話している妖精族の子は、その精霊箱の中で休んでいるんだよ。』――だったはずだ。


 確かに森の女王はそう言っていたはずだ。

 なら、【爽緑の竜石】を渡したくない理由は、精霊箱の中で休んでいるはずの、あの優しい妖精のため?



『休んでいると言うと語弊があるかな。おそらく彼女は、自身の中に蓄えられていた魔力を使い果たしてしまって、妖精としての姿を維持できなくなったのだろうね。』


 魔力を使い果たした?

 ならば、魔力を回復することができれば、妖精としての姿を取り戻せる?



『その身に蓄えられていた魔力を使い果たしてしまった彼女は、その元の姿である風の少女=シルフに戻ってしまったのよね。退化と言ったら良いのかしら?』


 いや、森の女王は妖精から精霊に退化したと言っていた。

 つまり、妖精としてはこの世界に存在できなくなったのだ。

 ならば、精霊としてなら存在する事ができる?

 【爽緑の竜石】があれば………、その中に内在する魔力があれば、彼女が精霊として存在する助けになるのか?

 だから、精霊たちが必死になって【精霊箱】を護ろうとするのか?

 【爽緑の竜石】を彼女のために使う為に………。



『今の彼女は君たちの知っている彼女では無いよ? 妖精でも無い。』


 森の女王が話した通り、俺の知っている彼女ではないのだろう。

 でも、もう一度、あの優しい妖精に会えるなら。

 もう一度、あの優しい妖精の声が聞けるなら。


 もしかしたら、彼女の目を覚ますために、重要な役割がある? この【爽緑の竜石】に?



 もしかしたら――



            ♢

 

 

「やあ、おかえり。」


 初めてダンジョン=インビジブルシーラに来た時の森の女王の印象は、冷たい人だった。


 そして、今、目の前にいる森の女王アエテルニタスは、まさにその頃の印象に戻ったように感じる。


 色々と関わりが増え、お互いの距離も近づいたと思っていたが、ことここに至っては、そんな考えも吹き飛んだように思えた――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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