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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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血の輪舞曲


 丸い血の弾丸が飛ぶ。

 ナギが手を左右に振れば、その動きに合わせて血の弾丸が左右に飛んでいく。


 シュンッ!


 風を切る男だけを残して、血の弾丸はワイバーンに襲いかかった。

 

 最初の一撃で、3体のワイバーンは翼の被膜に穴を開けられ、バランスを崩して地上に落下した。

 簡単に捕らえられる餌としか見ていなかった俺たちが、まさか手の届かない空中に向けて攻撃を仕掛けてくるとは考えていなかったのだろう。


 地上に落とされたワイバーンは、破れた翼を大きく広げて威嚇してくる。しかし、多くの竜種が放つ【咆哮】の威力は小さいようだ。

 


「――大したことないじゃない!」


 ナギが両手を振り下ろす。

 すると、先程ワイバーンの翼を突き破った血の弾丸が、今度は上空から地上に落ちたワイバーンに降り注いだ。



 シュシュシュシュンッ!



 ナギの手の動きに合わせて、血の弾丸が飛び回る。

 ワイバーンは何度も襲ってくる血の弾丸から身を守ろうと、威嚇の為に広げた翼で身体を包みこむ。

 しかし、ナギの操る血の弾丸は、そんなワイバーンの甘い考えを許さない。



 シュシュシュシュンッ!



 右から左。左から右。さらにまた上空に舞い上がると頭上に降り注ぐ。


 劣等種(レッサー)とはいえ竜種であるワイバーンの鱗は固い。俺が投げつけた小石の攻撃では、わずかに傷がついた程度だった。


 しかし、ナギの操る血の弾丸は違う。

 翼の被膜は破れ、ほとんど原型を留めていない。

 さらに固いはずの竜鱗を突き破り、ワイバーンはその身体から血を吹き出している。



「――それっ! それっ!」


 ナギの手の動きに合わせて飛び回る血の弾丸は、まるで紅い竜巻。その場をワイバーンの血で染めていく。

 紅く染め上がる景色の中、ナギの白い肌がとても映える。踊るように血の弾丸を操るナギは美しかった。

 まるで血の輪舞曲(ロンド)――太陽の光を浴びて、紅い血の弾丸はさらに紅く煌めいている。

まだ幼さの残る女の子がとても大人びて見えた。



「――へぇ……。」


 俺は援護の為にと右手に構えていた精霊剣を下ろした。

 ふっ、と剣に込めた魔力が拡散して消える。

 力を奮うことができず残念だったのか、剣の核にいるブリジットが舌打ちしたように感じた。

 

 すでにワイバーンは虫の息だ。

 何度も何度も身体を貫いていく血の弾丸。

 すでに反撃する力はすでに無く、地面にひれ伏している。



「――ナギ、もう大丈夫だ。」


 我を忘れているのか、未だに踊り続けるナギ。

 俺はナギに近づき、ポンっと頭に手を置いた。

 所謂、戦闘によるハイになった状態だろう。

 普段、戦闘時にはサポートに回ることの多いナギが、圧倒的な力の差でワイバーンを蹂躙してしまったことで、高揚感や多幸感が一気に盛り上がってしまったのだろう。



「ほれ、その辺で終わりだ。ワイバーンはもう死んでるよ。」


 俺は頭から手を離すと、下ろされていたフードを被せてやる。

 視界が遮られ、我に戻ったナギ。

 集中力が途切れた為か、操っていた血の弾丸が弾け、地面に振り撒かれた。



「――あっ!? ウチ……、やばっ! ウチの血が回収出来なくなっちゃった!?」


 急に情けない声で騒ぎだすと、空になった小瓶を俺に見せながら、肩を落とした。



「………また血を貯めておかなきゃ………。痛いのは嫌なんだよね………。」


「とりあえず、今、小瓶に血を詰めるのはやめとけよ。余裕のある時にやるんだ。それより、ナギ、凄かったぞ。まさかあそこまで自由に血を操れるとは。驚いたよ。」


 俺は吸血鬼王が【血操術】で自らの血を操って攻撃するところを見たことがあるが、ナギの【血操術】も、それに匹敵するほどの攻撃力だった。

 フードの上から頭を撫でると、ナギもまんざらではないのだろう、「エヘヘ」とだらしない笑いが溢れた。


 安全を確認したナミたちが駆け寄ってくる。

 精霊たちも一緒だ。



「ちょっとちょっと、ナギ、あんたあんなことできたの!? ウチ、初めてみたんだけど!? 凄いじゃない!」


 ニールを背負ったナミが、開口一番にナギを褒めちぎる。

 ナミからの賞賛で、急激に膨れ上がる自尊心。

 普段、戦闘において褒められることの少ないナミの気持ちは、再び特大に盛り上がってしまった。


「オホホホ〜っ! そんなことなくってよ!」


 普段口にした事もない口調で高笑いすると、あまりに胸を張りすぎて、せっかく俺が被り直させたフードが後ろに落ちる。


「………ナギ………、その顔………。」


 ナミが指を刺して指摘する。

 日焼け………。

 ナギの顔は真っ赤に日焼けしていた。


 吸血鬼王の眷属であるナギは、極端に日の光に弱い。

 ある程度の時間、日の光に当たり続けると、こうやって日焼けしてしまうのだ。しかも、それは火傷に近い。

 それを防ぐため、俺が買い与えたフードのついたマントを日中着込んでいるのだが、ナギは【血操術】を使う際に、勢いで自らフードを下ろしてしまっていたのだ。



「――やばっ!? シミになっちゃう!?」


 うん!? そこか……。

 さすが女の子。火傷の心配より、将来のシミの心配なんだ。

 そういえば、嫁さんも日焼け止めを手放さなかったな。

 やはり、女性にとって、美容の問題は何よりも優先される問題なんだと、改めて認識させられた気がする………。

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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