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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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精霊たちがいう事を聞いてくれない


           ♢



「………なあ、みんな? 精霊箱、返してくれないか?」


 俺たちは、レッチェタウンを離れ、シーラタウンへと向かう事になったのだが、3人の精霊たちが、俺から取り上げた精霊箱を抱えたまま、俺に渡そうとしないのだ。

 それどころか、俺が近づこうとすると、一定の距離をキープしたまま逃げてしまう。これは契約した主人に対する行動で良いのだろうか。



「………なあ、いい加減返してくれよ。こんな所で魔物なんか現れたら、対処できなくなってしまうよ。」


 普段なら流暢に話すはずの精霊たちが、まったく口を聞いてくれない………。

 何か精霊たちを怒らせるような事をしたとか?

 いやいや、使徒たちとのあのやり取りの中で、精霊たちに関する事なんて一つもなかった……はず。

 ヤバいな、まったくわからない。



「――ヒロ兄、空………。魔物みたい。ワイバーンかしら、なんでこんな所に………。」


 先頭を歩くナギが上空を旋回するワイバーンを見つけ、戦闘準備の合図を送ってきた。

 精霊たちに視線を送ると、あからさまにそっぽを向いてしまう精霊たち。なんで………、と思っていたら、波の乙女だけは戦闘に参加してくれるようだ。

 嘆きの妖精と霜男の頭を優しく撫でてから俺の横に来ると、本来の美しい女性の姿に戻る。

 ホッと胸を撫で下ろした俺は、波の乙女に笑いかけるが、何故か波の乙女はまたそっぽを向いてしまう。


「………ミズハ? 何を怒っているのさ?」


 頭を掻きながら波の乙女に尋ねてみても、まったく答えてくれない。これは重症だ………。


 現状、ニールは役に立たない。

 古竜王の竜石を飲み込んでから動けずにいる為、ずっとナミに背負われている。


 ワイバーンは3体。

 こちらでまともに戦闘に参加できるのは、俺とナギ、そして波の乙女のみ。

 ナミはニールを背負いながらだし、嘆きの妖精と霜男にいたっては、まったく言うことを聞いてくれそうもない。なんでよ………。



「――ナギ、血操術で攻撃できるか?」


 俺は気持ちを切り替えて、ナギに尋ねた。

 【血操術】――ナギが吸血鬼王の眷属となったことでその身に宿った特殊スキル。自分の血を自由自在に操り攻撃にも防御にも使えるが、自分の血を使う為、完全不死ではないナギにとっては身体への負担が大きすぎることから、普段は使用を禁止していた。



「えっ!? いいの!?」


 このスキルの使用を許可されたことがなかったナギは、少し驚いた表情を浮かべたが、深く被ったフードを下ろすと、吸血鬼の眷属らしい、不適な笑みを浮かべた。


「――オッケー。ここはウチに任せておいて。」


 ナギはそう言うと、胸元から小さな小瓶を取り出す。

 真っ赤な液体――ナギの血液を溜めてあるその小瓶の栓を抜き、空中に振り撒くと、赤い球体が俺たちの周りにプカプカと浮かんだ。


 俺は道に落ちた小石を左手に持てるだけ拾い、空中で旋回しているワイバーンを睨んだ。


 ワイバーンは、れっきとした竜種である。

 劣等種(レッサー)に分類されブレスを吐いたりはしないが、手の届かない空中からの攻撃は、簡単に避けられるわけもなく、またこちらからの攻撃は当て辛い。

 冒険者にとっては、紛れもない強敵だ。



「――ミズハ、水壁頼む。ナミとニール、あとあっちの2人を守ってくれ。」


 相変わらず返事を返してはくれない波の乙女だが、俺の指示にはしっかりと従ってくれた。

 

 首都に近い街道で、まさかワイバーンと出会うとは思わなかったが、普通の旅人の安全の為にも、しっかりと討伐しないといけないだろう。

 ただでさえ、フーサタウンが壊滅し、人の流れが滞ることが予想される中、流通の障害になり得る要因は排除しなくてはならない。



「ナギ、射程距離に入ったら攻撃頼む。俺も援護する。」


「――りょ! なら、先頭は私ねっ! 行くよっ!」


 戦闘の際は、いつも目立ちにくいサポート役のナギだが、珍しく主役をはれるとあってヤル気満々だ。

 自分で突撃の合図をすると、振り向きもせずに前方へと走り出した。

 ナミとニール、それと精霊箱から離れない精霊たちを巻き込まない為にも理にかなった行動だが、ちょっとヤル気が勝ちすぎている。

 劣等種(レッサー)とはいえ竜種。強敵には間違いない。俺は慌ててナギの後ろについて走りだした。

 


「あと5メートルっ!」


 ナギの射程距離に入る。

 その瞬間、ワイバーンが急降下して俺たちとの距離を一気に縮めてきた。



「―――!?」


 俺は咄嗟に手に持った小石を纏めて空に放り投げた。


「――飛べ………。」


 スキル【操作】を使い、空中にばら撒かれた小石をワイバーンに向かって誘導する。

 三体のワイバーンは、小石のカーテンの中に飛び込むことになるが、そこは強力な竜鱗を纏う身体、多少傷をつけ、ほんの少し勢いを止めただけだ。


 しかし、そのほんの少しの時間でナギは【血操術】による血の弾丸の展開を終えていた。



「――ヒロ兄、サンキュっ! 行けっ!」


 あくまでも軽く。

 魔力をひたすら込めるでもない。

 ただ、ナギがワイバーンに向かって手を振っただけ。


 それだけで、空中に展開された血の弾丸が3体のワイバーンへと殺到した――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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