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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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ホウレンソウ


 俺の若い頃、上司や先輩から、事あるごとに『ホウレンソウ』を徹底しろと言われたっけ。

 『ホウレンソウ』――『報告』『連絡』『相談』の略で、組織内で情報を共有し、業務を円滑に進める為に徹底するべき事と言われる。


 問題や不明点が生じた際に速やかに上司や先輩に相談し、早期対応を図ることが目的で、 これを行うことでタイムリーな情報を共有し、チーム全体の動きをスムーズにする。

 

 さしずめ、今の俺にとって、ウカの使徒たちが上司とか先輩ってことになる。

 古竜王の死などという想像だにしなかったことが起きたのだ。彼らにとっても衝撃の情報だろう。


 ………と思ったのだが、森の女王の反応は涼しいものだった。



『――ふぅん……。ゴズが死んだのか。』


 吸血鬼王のように驚く様子もなく、その淡々とした受け止めに、俺は何とも言えない冷酷さを感じてしまった。

 

『――それで、ダンジョン=ファーマスフーサも、南の街フーサタウンも、街の住人も、竜人族も、古竜の一族も………、みんな無くなっちゃったんだ。ふぅん――だそうだ。』


 森の女王の真似をしながら、俺たちに彼女の言葉を伝える吸血鬼王。

 実際の彼女は、もしかしたら狼狽しているのかもしれない。しかし、吸血鬼王の言葉を通じて感じられるのは、やはり淡白な森の女王の感想だった。



「………その………、あの巨大な古竜たちをああも圧倒できる種族がいるのでしょうか。正直なところ、冒険者の中に、それほどの実力を持つ者がいるとは信じられない………。」


『――そんな種族、聞いたこともないねぇ。』


 知識の宝庫ともいえる森の女王。

 神々が生まれたのと同じ頃からこの世界に存在するというハイエルフの女王ですら知らない相手。



『――だいたい、冒険者の中にそんな実力者がいたら、とっくに【試練】のダンジョンは解放尽くされてるさね。――だそうだ。』


 間に吸血鬼王を挟んでの会話は焦ったい。

 しかし、携帯電話など無いこの世界で、こうやって遠距離の相手と話せるというのは、とんでもないことだろう。



「………ですよね。ダンジョンが崩壊するほどのエネルギーを生み出せる者が、一介の冒険者であるはずがない。あれは、世界を滅ぼせる力だ………。」


『……………。』


 

 実際に現場を見たわけではないが、俺たちの説明でもその恐ろしさは伝わったのだろう。

 使徒の中でも最強の存在である古竜王が簡単に殺されたのだ。その情報だけでも、恐怖を語るには充分だろう。さらに、街が一つ消え去ったなどと、荒唐無稽とも言える俺たちの情報は、使徒たちにしっかりと受け入れられたようだ。


『………まあなんだ。これからどうするかだな。本来、ゴズも機械人形に入れてシーラに運ぶ予定だったのだろう? ゴズが死んでしまった今、元の方針に狂いが生じたわけだが………なに………?』


 吸血鬼王が話し始めたところで、森の女王からの提案があったようだ。



『――ゴズの竜石をシーラまで持ってこい、だそうだ。それが新しい機械人形に使えるか調べるらしい。』


「――ピッ!?」


 反応したのはニール。

 自分の親が自分のために残した竜石を、機械人形を作る為に使うと言われて、さすがに受け入れられなかったようだ。



「森の女王っ! この竜石は古竜王がニールの為に使ってくれと託されたものだ。機械人形の核に使うのはやめてくれないか!」


 俺も慌てて喋れないニールのフォローに入る。

 使徒たちのがヒルコの封印の為に動いているのはわかっているが、親の子を想う気持ちを蔑ろにして良いとは思えない。



『――何を寝ぼけたことを言っている――だそうだ。』


 吸血鬼王の視線も冷たいものになった。

 自分たちの目的を邪魔する存在とでも思われたのだろうか。

 しかし、俺の後ろで悲しげな表情で首を垂れるニールを見たら、とても承諾できるものではなかった。



『………アエテルニタスよ、お前が言うことも理解はするが、我は仲間の気持ちを尊重するべきだと想うぞ………。』


 あれ?

 吸血鬼王の冷たい眼差しは、俺たちに向けられたものではなかったのか?

 ナギやヒンナに対する吸血鬼王の姿もそうだが、実はとても優しい男なのだろうか。


『――我にはすでに守るべき一族はほんの少ししかおらぬ。我の身体では子孫を残すことも叶わぬ………。だからこそ、ゴズに子供ができたということが、自分のことのように嬉しかった。』


 滅び逝く種族の王――彼は、これまでに何人の同族の死を受け入れてきたのだろうか。

 さらに、友とも言える使徒の仲間が死んだとなれば、その悲しみは相当なものだろう。

 仲間の思いに対して、その想いを汲もうとする吸血鬼王は、やはり優しい王様だ。


『――方法など探せば他にもあるはずだ。此奴らのいうとおり、ゴズの竜石はニールに与えるべきだ。』



 目の前にいるのは吸血鬼王のみ。

 だが彼は、移し身である機械人形を通じて、森の女王たちと顔を突き合わせ、話し合っている。

 ドワーフ王や白狼はどう考えているのか。

 実際にその場に居ない俺たちには知る由もない。


 

 ブツブツ………、独り言言っているようにしかみえないが、その実、ニールの為に森の女王たちを説得しようとしてくれているのだろう。


 俺たちは、ただその話し合いが終わるのを待っていた。

 しかし、一人………ニールだけ、こっそりと動き出していた。


「――ん!?」


 俺たちが気づいた時、ニールは古竜王ゴズの残した真紅の竜石の前に。

 そして、俺がニールに声をかけようとした時だった。

 なんと、ニールが自分の頭ほどもある大きさの竜石に向けて、口を目一杯開けていた。



「――ニール!?」


 パクリ――なんと、竜石を一飲み。

 絶対に飲み込めそうにない大きさの竜石を無理矢理飲み込んでしまった――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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