悲しい報告
「ブラド様、ただいま!」
『ふむ、よく帰ってきたな、お帰りナギ。』
「――ただいま、おかえりって………、吸血鬼王ってそんなキャラだっけ!?」
不遜な態度でキングスチェアに腰を下ろす吸血鬼王に向かって、気安く挨拶するナギ。そして、そんなナギに向かって、肘掛けに頬杖をつきながらも、優しい声で受け入れる吸血鬼王。
狐憑きに操られたケイン一向に大怪我を負わされ、回復の為に眠りについた頃の吸血鬼王の姿からはまるで違う印象に、俺は大きな衝撃を受けた。
『――嘆きの妖精=バンシーもよく戻ったな。ああ、ヒンナという名を貰ったのだったな。おかえりヒンナ。』
優しい………。
なんだろう、地上ではあんなに恐れられている吸血鬼王=ヴァンパイアロードが、実はこんなに優しい表情をする男だなんて、きっと誰にも信じてもらえないだろうな。
「機械人形よ、何故、ここに寄った? ナギとヒンナを連れてきたことは褒めてやるが、お前たちはゴズの所で使命があっただろう?」
使命って………、なんか堅苦しい。まあ、やらなくてはいけない事はあったのだからそうなのか。
しかし、俺に対して話しかける時は、以前と変わらない不遜な態度だな。本当は話もしたくないとでも言いたそうだ。
しかも、「ナギとヒンナを連れてきたことは褒めてやる」って………。
ナギ、訓練期間中に吸血鬼王に何をした?
混乱する………。
ケインさんたちと戦っていた時は、もう少ししっかりとした王様だと思ったのだけど、今の吸血鬼王は、なんかただの親バカ? といった感じ。
でもまあ、これが吸血鬼王ブラドの本来の姿だとしたら、案外付き合い安い方なのかもしれない。
「――プラド様、大変なのよ! フーサの町が吹き飛んて、古竜王たちも殺られてた………。ウチら、崩れてくるダンジョンからなんとか逃れてきたんだよっ!」
『―――!? ………なに? ゴズが死んだ?』
吸血鬼王がナギの話を聴いて思わず腰を浮かせた。
『………ナギ、馬鹿な事を言うな。ゴズが死んだだと? 我と違い不死ではないとはいえ、最強種エンシェントドラゴンの王だぞ? 彼奴を殺せる者など居るわけがなかろう!?』
先程まで気怠げにキングスチェアに身体を預けていたというのに、今は紅い目を見開き、怒りの表情でナギの元に………、じゃなく俺の前に歩いてきた。
『――機械人形よ、お前、ナギを使って何を企んでおる!? 趣味の悪い冗談で、我を揶揄うなど、不遜もすぎるぞっ!』
あまりの剣幕に、俺は咄嗟の返事ができなかった。
それほど吸血鬼王の表情は鬼気迫っていたし、これこそホラーの定番、吸血鬼の王だと思えるような恐怖を撒き散らしていたのだ。そりゃあ、怖いって。
「――ちょっとちょっとブラド様っ! ウチの話が信じられないの!? ウチが嘘なんて言うわけないじゃない! 」
《………そうですよ、ブラド様。ナギ様のお話は事実です。まぁ、ナギ様の言葉が稚拙なのでしょうがないかもしれませんが。》
俺に掴みかかった吸血鬼王を、ナギが腕を引っ張り引き離す。
嘆きの妖精も俺と吸血鬼王の間に入りながらナギの話を肯定するが、何やら不穏な言葉が混じっているような………。
「ち……稚拙って何よ! 最近流暢に話せるようになったからって、調子に乗るんじゃないわよ!」
だよね。そうなるよね………。
侮辱されたナギは、全力で嘆きの妖精に食ってかかった。
ワーワー、ギャーギャー、白い肌に青筋を浮かべながら反発するナギ。しかし、嘆きの妖精は、どこ吹く風で聞き流している。
『………機械人形よ。何故、こうなった?』
「さあ、なんででしょうね………。」
自分よりも取り乱している者がいると、冷静になる法則。真っ先に取り乱していた吸血鬼王は、俺と並んでナギと嘆きの妖精のやり取りをしばらく眺めていた。
♢
「………そうか………。まさか、ゴズが死ぬとは………。俄には信じられんが、その紅い竜石を見れば、もはや信じるしかあるまいな。」
リュックから出した古竜王の竜石。
真紅の魔晶石――古竜王ゴズの喉元から取り出した竜石は、中心に光を讃えている。
「………えぇ、古竜王は、この竜石をニールの為に使うように言い残して亡くなりました。自慢の竜鱗がなくなるほどの攻撃を受けて………。」
『――ゴズの竜鱗が無くなる!? それはどんな攻撃だ!? 』
「………わかりません。ただ、フーサタウンはとんでもないエネルギー量の光の柱の中で壊滅しました。もしかしたら、古竜王も同じものを受けたのかもしれません。」
『光の柱? う〜む………、彼奴が死ぬほどのエネルギーとは………。ゴズが殺られたということは、他の古竜たちも………であろうな。』
俺は頷き肯定した。
「………使徒の部屋は赤白い炎で包まれていました。その炎が古竜王たちを死に至らしめたのではないかと思います。」
『………赤白い炎………、知らんな。それほどの莫大なエネルギーを作り出す者など。』
「ちょっとちょっと!? ブラド様はウチの話は信じないで、ヒロ兄に話は信じるわけ!? 酷いっ!」
あ、また始まった。
これは長くなるやつだ………。
いつものナギとナミの口喧嘩なら、だいたいナミが負けて終わるけど、吸血鬼王は、何故かナギに弱いようで、アタフタと謝り続けている。
「ありゃ、しばらく続くね。ウチ知らな〜い。」
ナミは、ここに来てからずっと大人しい。
気持ちはわかるかな。なんとなく、初めて友達の家に遊びに来たような感じか。ちょっと、遠慮が入るのだろう。
逆に、ナギは我が家に帰って、親に甘えているみたいだ。まあ、ナギにそんな存在が出来たのは、とても嬉しい事だ。吸血鬼王には感謝するべきか。ただ………。
「あのさ、早く森の女王たちと連絡を取りたいんだけど………。」
うん。しばらくは無理そうだ――
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