レジリデンスを高める
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俺たちは南の町フーサタウンでの出来事と、ダンジョン=ファーマスフーサの崩壊について森の女王たちに報告する為、西の町レッチェタウンへと向かった。
ダンジョン=レッチェアームにいる、吸血鬼王ブラドの本体を通せば、ダンジョン=インビジブルシーラに集まる使徒たちとやり取りができるであろうと考えた為だった。
「フーサタウンが無くなった事、まだレッチェタウンの人たちも知らないんだよね。」
「あそこから無事に出られたのウチらだけだもん、そりゃそうでしょ。」
ナギとナミが屋台の串焼きを頬張りながら、コソコソ話している。
久しぶりに食べるまともな食事に安堵しながら、しかし、フーサタウンでのあまりに衝撃的な出来事を忘れる事ができず、複雑な気分のようだ。
「とりあえず、たっぷりとお腹を満たして、少し休んでからダンジョンに入ろう。さすがにこの数日の強行軍は堪えただろうし。」
「ヒロ兄、何を爺臭いこと言ってるの?」
「ウチらそんなに柔じゃないっての。」
「いや、でも、まともに食事も出来なかったし、睡眠だって碌に取れなかっただろ?」
「大丈夫、大丈夫! それよりさっさと報告済ませて、お風呂に入りたいわ。」
「あ〜、それな。身体拭くだけじゃ、やっぱ気持ち悪いよね。」
「なるほど、それもそうか。お前たち、ちょっと臭うもんな………。」
「――ちょっと!? んなわけないでしょ!?」
「そうだよっ! ウチらが臭いわけないっ!」
と言いながら、クンクンと自分たちの匂いを嗅いで青くなる2人。
「ちょっと! ヒロ兄、さっさと報告行くよっ!」
「ほらっ! 早くっ!」
両手に持っていた串焼きを無理矢理口の中に押し込み、ちょっと脂のついた手で俺の手を引き始める2人。
先に食べ終え、しっかりと手を拭き終えていたというのに………。
問答無用と、2人は口の中を串焼きでいっぱいにしながら、俺をダンジョンの入り口へと引っ張っていった。
♢
ダンジョン=ファーマスフーサと違い、ここは冒険者で賑わっている。
とくにバブルが起きたり、弾けたりすることもなくただ淡々と、人々の日々の生活に必要な魔石を集める為に冒険者がダンジョンに入っていく。
日時――
これがどんなに幸せな風景なのか、俺たち以外はまだ気づいていない。
「――ヒンナ、案内頼む。」
久しぶりに訪れたダンジョン=レッチェアーム。
元々、吸血鬼王の配下だった嘆きの妖精=バンシーに案内を頼む。
「ちょっとちょっと、ウチだってこのダンジョンは我が家みたいなものなんだけど?」
そう言ってヒンナと共に先頭に立つナギ。
考えてみれば、彼女にとっても、このダンジョンは長い期間訓練に利用した場所である。
ここは2人に任せて、ダンジョンを進むことにしよう。
「――ここはアンデットの巣みたいなもんでしょ? ここが我が家ってことは、ナギもアンデットのお仲間かしら。どうりで青瓢箪みたいな顔してるもんね〜、キャハハ――」
いつも口喧嘩で負けるのに、突然、ナミがナギを煽り始める。やめればいいのに………。
ナギは、ダンジョンの中に入り、ちょうどマントのフードを下ろしたばかりだったが、自分をアンデット扱いされたことで、口喧嘩のスイッチが入ったようだ。
「カッチ〜ン!? 何よ、あんたみたいに獣臭い色黒女と違って、ウチは色白美少女なの。わかる?」
自分で自分のことを美少女と言ってしまうあたり、ちょっとどうかと思うのだが。
「獣臭いって………、ウチの肌は健康的な小麦色ってやつよ! 何が色白美少女よ。ウチこそ天真爛漫。健康的美少女よ!」
天真爛漫って………、自分のことをそう言うか?
しかも、こちらも自分のことを美少女と………。
実際、2人ともベクトルは真逆だが、実際に可愛らしいのだから、張り合わなくてもいいと思うのだが。
ん、なんか親父臭いな。まぁ、しょうがない。実際にアラフィフのおっさんなんだから。
《 ………騒がしいですね。まったく、どっちもどっち、ドングリの背比べというやつですね。 》
おお、辛辣。ヒンナさん、突然、毒舌MAXでの参戦ですか!?
《 だいたい、美少女とは私のことを表す言葉です。まったく身の程を知らないとは、お二人を表すような言葉ですね。》
「「―――!?」」
何ということでしょう………。確かに可愛らしい人形姿のヒンナだが、吸い込まれるような真っ黒な瞳は恐怖の象徴。どちらかといえば、あなた怖がられると思いますが………。
すると、いつの間にか現れた、ディフォルメサイズの波の乙女が俺の肩に腰をかける。
《 ふふふっ、みなさん、ご主人様に笑われますよ。 まぁ、私みたいなレディから見れば、3人とも可愛らしいお子様ですけどね。》
え〜!? ここでまさかのミズハから強烈な煽り!? なに? みんな何を張り合ってるの!?
ワーワー、ぎゃーぎゃー、ダンジョンを進む冒険者パーティーにはまるで見えない姦しさ。
緊張感のまるで感じられない俺たち一向を、たまにすれ違う他の冒険者パーティーが驚きの表情を浮かべながらすれ違っていく。
そりゃそうだ。アンデットが跋扈するダンジョンの中で、こんなにも無防備で歩く冒険者なんて、普通は居ないのだから。
まるで、自分たちの心の中にトラウマを押し置いて、そのトラウマを克服するために、自分たちのレジリデンスを高める行為。
無意識のうちに自分たちの心を守る行動を取っているのかもしれない。
それほどまでに、フーサタウンでの出来事は、強烈な経験だったのだ。
『――まったく、我がダンジョンをどこかの遊戯場と間違えているのではないか? 騒がしいこと、この上ないわ………。』
ナギとヒンナに案内され、扉を開けたその先には、豪勢なキングスチェアに足を組んで座る、吸血鬼王ブラドがいた――
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