絶対防御の勇者⑥
幼い頃からアリウムは英雄の話しが好きだった。
様々な英雄たちの英雄譚。
悪を倒し、弱きを助ける――そんな、英雄譚の一つに、現在の王族の建国記がある。
悪なる神と善なる神々の戦い――
正史では、太陽神を筆頭にした善なる神々が、悪なる神ウカをなんとかダンジョンに封印し、世界を救ったとされている。
そんな神々の戦いの最中、世界に溢れた魔物を倒して歩く、義勇団がいた。
長命種のほとんどが堕落し、滅亡の憂き目にあう中、短命種の中でも貧弱な存在である人族で結成された勇敢な義勇団。
その義勇団を率いた人物が、この国『テラ・オリンス』の建国の英雄、ニギ1世である。
ニギ1世は、この世界で初めて神々から3つの才能を授かったと云われている。
彼の才能は、戦闘に特化したものばかりであった。
非力な短命種である人族であるのにも関わらず、無限に成長できる長命種を凌ぐほどの戦闘力を有し、『不敗の勇者』と呼ばれ、神に匹敵すると云われるほどの強さを誇っていた。
世界各地で溢れ出した魔物を倒し続けていると、徐々に人々が安心して生活ができる土地を増やしていった。
すると『不敗の勇者』ニギの実力を聞きつけた人々が、ニギの元に集まり始め、様々な才能を持つ義勇団が出来上がっていく。
ニギの元に集まった人族は、やはり優秀な才能を有し、圧倒的な力で魔物たちを制圧していった。
そして、いつからか『暁の義勇団』と呼ばれ、ニギと共に善なる神々の遣いではないかと噂されるようになった。
『暁の義勇団』は、授かった才能を駆使し、善なる神々が魔物をダンジョンに封じ込めるのを助け、外の世界に溢れ出した魔物を駆逐し、世界を安定させていったと伝えられている。
善なる神々が悪なる神をダンジョンに封印することに成功すると、善なる神々から祝福を受け、この土地とダンジョンの管理を任されることとなる。
こうして、日出ずる国『テラ・オリンス』は建国され、『不敗の勇者』ニギは、その国の王となり、悪なる神が復活せぬようダンジョンを管理し続ける使命を与えられたのだった。
♢
「建国の王『不敗の英雄』ニギ1世。兄ちゃんには、そんな英雄になってもらいたい。」
「はぁぁぁぁっ!? そんなのなれる訳ないじゃないですかっ!?」
「まぁまぁ……落ちつけって。ともかくだ。今の王族には国を動かす力は無え。」
「ああ、今の王族はただのお飾り。代々戦士の才能を引き継いでいるはずだが、議会が邪魔をして、城の外には滅多に出られないらしい。」
「そう言われると、王族の顔なんて見る機会はないよな。」
「そうさ。しかも、今の王族は女系ばかり。噂じゃ、男子が生まれると、密かに始末されてきたって話だ。」
「ああ、長い年月、王族には入婿が迎えられ続け、姫君たちは、その優秀な戦士の才能を使う場を与えられず、ただただ飼い殺しにされてきたと、裏の世界では有名な話だ。」
短命種という宿命か。
人族の寿命は短い。
さらに、様々なしがらみの中、その運命を弄ばれ続けた王族には、同情しかない。
どこまでが本当の話かわからないが、英雄譚に謳われるほどの功績を以て王となったはずなのに、その子孫は全くといって大事にはされていないとは。
「………今の王様も、力の無い操り人形みたいなもんさ。まぁ、王女に関しては、ニギ王の才能を受け継ぐ英才だとの噂だが、それでも籠の鳥のようのもんらしい。まぁ、王族には期待できないってことさ。」
「ああ、だから兄ちゃんには国に頼らない『絶対防御の英雄』として、兵を率いて悪を絶ってほしいんだ。」
「………いやぁ、【デビルズヘブン】の討伐を目指すとは言いましたが、お二人の話しじゃ、まるでこの国の世直しをしろとでも言われているような………。」
アリウムが冷や汗を流しながら、熱く語る2人のチンピラに対峙する。
「――『世直し』!? いいなその言い方!」
「ああ、まさに今世の英雄が率いる部隊の名前にピッタリだ。」
「『絶対防御の英雄』が率いる『世直し義勇団』! いいな、これ! これでいこうっ!」
「ああ、そうしようぜ兄ちゃん!」
「 …………。」
何か、とんでもなく盛り上がっている2人に、何も言えなくなってしまった。
( ………まあ、僕に義勇団を率いる実力があるわけないし、実際、嫌われ者の僕の周りに人が集まるわけもない。とりあえず、笑って誤魔化しておこうか………。)
「兄ちゃん、本気にしてねえな?」
「ああ、こりゃあ誤魔化そうとしてる顔だ。」
「――いやいやいやいや!? そんなことないです!?」
「おっ、そうか。なら、英雄殿。まずは首都ではなく、リンカータウンに向かわないか?」
「ああ、そうだな。あそこなら、きっと人が集まる。」
「リ、リンカータウンですか………、あそこはちょっと………。」
リンカータウンはアリウム………、いや、ナナシが育った街。そして、良い思い出のない街………。
正直な話、自分から進んで行きたい場所ではない。
しかも、育った街ということは、件の孤児院もある。危険ではないのか。
「………兄ちゃん、あんたにとっちゃ、嫌な街かもしれねえが、俺たちに騙されたと思って、ついてきてくんねえか。」
「ああ、きっと以前とは違って見えるはずだ。」
「………でも………。」
「絶対に悪い思いはさせねえ。なあ、ニーン。」
「ああ、勿論だ。なあ、アーク。」
2人から強引に誘われて、渋々承知するアリウムだった――
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