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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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絶対防御の勇者⑤


「ハハハ………、こりゃあ、すげぇ………。」

「ああ、敵に手を触れもせずに倒せるなんて、ますます無敵じゃねえか?」


 障壁が解かれ、アークとニーンが刺客の死体を眺めながら、引き攣った顔で笑った。

 

 すでに刺客の攻撃は止んでいる。

 遠距離から魔法で攻撃してきていた刺客の魔法使いは逃げたのだろう。周辺に転がる遺体の中には、魔法使いらしき遺体は見当たらなかった。


「魔法使いは逃げたようだな。こりゃあ、まだまだ刺客に襲われることを覚悟しとかねえと。」

「ああ、だが、兄ちゃんの障壁がありゃあ、俺たちに刺客の刃が届くことはねえだろ。」


「ちげえねぇ。兄ちゃん、あんたすげぇスキルだな。どんな攻撃も防いじまう。」

「ああ、それに、それだけじゃねぇ。とんでもねえ攻撃まで………。」


 アークとニーンは、身体の所々を爆散させて絶命している刺客を見て、つい身震いしてしまう。

 荒事になれ、惨殺された死体などに恐怖を感じるような2人ではないが、障壁ぐ身体の中で膨れ上がり、爆発する姿を目撃してしまった後では、どうにも気持ちが弱くなってしまうのだ。

 


「兄ちゃん………、あんたなら、必ず【デビルズヘブン】を壊滅できる。うん、今、改めて確信した。」

「ああ、俺もだ。」


 アークとニーンは、集めた遺体を燃やし始めた。

 まったく慣れることの無い、生き物の焼ける匂い。そんな最悪なシチュエーションなのだか、2人は真剣な表情で話し始める。



「兄ちゃん、いや、『絶対防御の英雄』殿。必ず【デビルズヘブン】を潰しましょうぜ。改めて、俺の命は好きに使ってくれ。」

「ああ、英雄殿。さもねえ、シケた命だが、どう使ってもらっても構わねぇ。」


「――ちょっとちょっと!? いきなりどうしたんですか!? 突然『英雄殿』とか呼ばないでくださいよ!? 」


「いや、もう決めたんだ。あんたは必ずこの世界の『英雄』になる。だから、これからはそれらしく呼ばせてもらう。」

「ああ、そうだぜ、英雄殿。」


 片膝をつき、まるで臣下のように首を垂れる二人。

 自分たちの命を好きに使えなどと、アリウムが今まで考えたこともないことを言い出し、どうやってこの場を治めるべきか、まるで検討がつかなかった。


「まぁ、英雄殿なんて、人前では言わねえでおくさ。あんたは今まで通り、敵を倒してくれりゃいい。」

「ああ、露払いは俺たちに任せてくれ。」


「――絶対に【デビルズヘブン】を倒そう。そして必ずあんたを舞台に上がらせてみせる。」


「舞台って………。ちょっと意味わからないんですけど………。」


 アークとニーンの勢いに、後退りするアリウム。

 だが、『絶対防御の英雄』などと言われ、身体が熱くなる。

 アークとニーンの手伝いをするつもりで付いてきたのに、いつの間か主役に持ち上げられている。

 期待されるという事に慣れていないアリウムは、二人からの熱烈な言葉に、なんとも言えない高揚感を感じていた。

 しかし、そんなアリウムに二人はさらに突飛な話を始める。


「さっさと首都の冒険者ギルドに行って、英雄殿の部隊を作ってもらわねぇとな。」

「ああ、旗とか、揃いの標なんかもあるといいんじゃねえか?」


「部隊とか、旗とか、なんの話し!? ますます訳がわからないんですが!?」


 

「――あんたには、【デビルズヘブン】を壊滅する為の旗印になってもらおうって寸法さ。」

「ああ、【絶対防御の英雄】が率いる討伐部隊。だな。」


「なんで部隊!? 国や冒険者ギルドの討伐隊に加わるんじゃないんですか!?」


「…………。」


 アリウムの反応にため息をつきながら、片膝をつく臣下のポーズを解き、どかっと胡座をかいて座り込む2人。真剣な表情でアリウムにも座るように促した。



「………なあ、兄ちゃん。俺たちが、【デビルズヘブン】の壊滅させる為に、冒険者ギルドと国軍に情報を垂れ込んだことは話したよな。」

「………そして、冒険者にも、国軍にも、【デビルズヘブン】の関係者がいて、アジトの襲撃に失敗したことも………。」


 コクリと頷くアリウム。

 彼らチンピラ3人組が刺客に狙われるようになったのも、それが原因のはずだ。()()()()()()()()()()()()のだ。



「俺たちも冒険者だったが【デビルズヘブン】に入っていた。国軍の偉いさんの中にも裏切り者がいる………。つまりだ。どちらも100%信用は出来ないってこった。」


「えっ!? でも、グラマス代理のヒルダさんやリンカータウンのギルマスのサムさんは信頼できる人ですよ? それに冒険者の仲間たちだって………。」


 アリウムは反射的に自分の知り合いを庇う発言をした。もちろん、彼らは【デビルズヘブン】などという裏ギルドに力を貸すような人物ではない事は確信できる。



「ああ。わかってるさ。兄ちゃんの知り合い……特に冒険者の偉いさんたちは大丈夫さ。だが、国軍はいけねえ。アイツらは不正まみれさ。金で買収された連中が牛耳ってやがる………。」


「ええっ!? でもそんな事、この国の王様が許さないでしょ!」


 アリウムから王様という言葉が出て、二人は大声で笑い始めた。


「兄ちゃん! この国の王族なんてのはお飾りでしかないんだよ。知らなかったか? この国を動かしているのは議会。有力な貴族や商人、そんな金持ち連中が国を動かしてんのさ。」

「ああ、もちろん、国軍のこともな。」


「そして、その有力な貴族、商人の中に【デビルズヘブン】の中枢が食い込んでやがる。」

「ああ、だから、【デビルズヘブン】を倒すには、結果的には、そんな有力者も倒さなきゃなんねえだろう。」



 アリウムは口を開けたまま言葉が出なかった。

 表の世界を動かす有力者の中に、裏ギルドと呼ばれる組織をも動かす輩がいる。

 そんな大きな話、自分にどうにか出来るとは思えなかった。



「――だからこその兄ちゃんなんだ。」


「――!?」


「ああ、『絶対防御の英雄』アリウム。あんたが、正義の軍を立ち上げて、そんな腐った連中を叩き潰してほしい。」


 どんどんスケールが大きくなる話に、先ほどまでの高揚感は消え、アリウムは、冷や汗を流すこととなった――


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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