絶対防御の勇者④
障壁ドームに降り注いだ氷の礫を考えると、刺客の中には魔法使いがいるのは確実だ。
浴びせられた弓の数も多い。
当初、ニーンは10人はいると言ったが、もっと多くいるかもしれない。
「――固まれ………。」
集中する。
アリウムは障壁ドームの外に無数の障壁ブロックを造りだす。
ぎゅう〜っと握り潰すイメージ。
固く、固く、さらにずっと固く。
障壁ブロックは、二回りほど小さく圧縮された。
「――飛べ………。」
障壁ブロックはプルプルと震えるのみで、飛び出さない。
まだ障壁ブロックが大きすぎる?
【操作】を使いこなすためには、まだ容量の大きなものは難しいのかもしれない。
固く、小さく………飛ばすなら矢のような形が良いか………。
障壁ブロックは、障壁の弾丸へと形を変えていく。
ヒロの知識にあったピストルの弾。
原理がわからない為、アリウムに作り出せるのは弾丸のみ。
しかし、イメージは大事だ。
誰だって、最初は模倣から始めるものだから。
「――今度こそ………、飛べっ!」
ヒロが契約している土精霊、土小鬼=ノームの得意技である散弾。あれは空中に生み出した小石を敵に向かって撃ち出す技だ。
アリウムは、あの技を、自らの障壁を状態変化させることでやろうとしている。しかも、弾丸という殺傷能力の高い武器へ昇華させた上でだ。
ヒュン!
先程までは動かなかった弾丸が、弾けるように飛んだ。
360°の全方向に向けて飛び出した弾丸は、アリウムたちに近づいた刺客たちの身体にめり込む。
撃ち抜くほどの威力には至らなかったが、身体の中で止まった弾丸は、それが災いして殺傷能力を高めてしまった。
なんと、アリウムから距離ができたことで、障壁で造られた弾丸が形状変化から解放されて、刺客たちの身体の中で爆発敵に膨れ上がったのだ。
「―――!?」
膨れ上がった障壁は、めり込んだ部位を破裂させると、障壁ドームの周辺を凄惨な現場へと変えた。
ある者は腕を、ある者は脚を、当たりどころが悪かった者は頭や腹を爆散させた。
あまりにも残酷な人体破壊の風景の中、身体を爆散させられた者たちは壮絶な悲鳴をあげ、もしくは一瞬で絶命することになった。
しかし、想像と違う結果を目にしたアリウムは、大きなショックを受けた。それほど圧倒的な暴力となったのだ。
「――兄ちゃん!?」
「なんじゃ、そりゃ!?」
障壁ドームの壁に額を擦り付けるようにして外を見ていたアークとニーンは、見たこともない死に方をした刺客たちの姿に、顎が外れんばかりに驚いた。
しかし、一番驚いたのは実はアリウムである。
予想外の人体爆散攻撃となってしまい、あまりに残酷な攻撃方法を作り出してしまった自分に恐怖したのだ。
「――うわぁ………、これは………。」
すっかり言葉をなくした三人だったが、暗闇の中の惨劇だった為か、その惨状に気づかないまま、生き残った刺客たちはさらに攻撃を仕掛けてきた。
パキパキ………
魔法使いによる遠距離攻撃だろう。障壁ドームに氷が張り付く。
先程の氷の礫といい、刺客の魔法使いは、氷系の魔法が得意なのだろう。
さらに、先程とは違い、複数の幅広剣=ブレードソードがドームの壁を叩く。
盾役が倒され、第二陣の攻撃役が切り掛かったのだ。
カンッ!
剣が障壁に跳ね返される音が響く。
重い衝撃音に混ざって、もう少し甲高い衝撃音も聞こえは始めた。
焚き火を消した事で目標を視認できなくなった弓使いたちが、武器をショートソードに持ち替えて切り掛かってきたのだ。
「――兄ちゃん、兄ちゃん、さっきのあれだ!」
「ああ、もう一度だ! 兄ちゃん、もう一度っ!」
様々な荒事に慣れているせいか、素早く立ち直ったアークとニーンは、先程の残酷ともいえる攻撃手段をもう一度要求する。
動揺が収まらず、足の震えるアリウムの両脇を抱えて、無理矢理立ち上がらせた。
「兄ちゃん、こんな所で死んでらんないだろうがっ!」
「ああ、あんたはすげえっ! 大丈夫だ、相手は魔物よりもずっとずっと恐ろしい人間だ!」
アークとニーンが叫ぶ。
なるほど、魔物よりも人間の方がよっぽど恐ろしい。狡猾で、残酷………。魔物よりもずっとずっと恐ろしい。
自分もそんな恐ろしい人間のひとりか――
「………僕はやっぱり化け物かもな………。」
アリウムは小さな声で呟いた。
しかし、自分が歩み始めた新しい道はまだ始まったばかり。これからもこんな修羅場、何度も乗り越えていかなくてはならない。
そうだ。
やるべき事をやり遂げるには、こんなところで足踏みしている事は許されない。
「………固まれ………飛べっ!!」
アリウムはさっきと違い、今度は障壁ドームに向かって障壁の弾丸を撃ち出した。
ドームに取り憑いた刺客たちを背中から撃つ為。
卑怯?
いや、それこそ卑怯な刺客相手に容赦はいらない………はず。
アリウムは、震える膝を叩いて仁王立ちした。
正義の為に、悪を撃つ。
その為に、自分は新しい道を歩き始めたのだ。
「ぎゃ〜っ!?」
障壁ドームの外に複数の悲鳴があがった。
透明なドームの壁に絶命した刺客の顔が張り付き、ズルズルと滑り落ちていく。
アリウムは、恐怖に顔を歪ませながら死んでいく刺客たちの顔を、元々色白の顔を真っ青にしながら、じっと見つめていた――
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