本音を言えない弓使い、本音を隠す
――悪いなユウ。俺じゃ教えられない分野なんだ。なんとかナナシを独り立ちさせてやりたい。
なんでこんなに一生懸命なの?
――頼むよ……。
そんなに苦しい顔で私を見ないでよ……。
『英雄の家』で別れた後、全くみんなの前に顔を出さなかったケインが突然、私を呼び出しにきた。
なにやら、『アイリス』のみんなに内緒で、この間の探索の帰りにダンジョンで出会い助けた、街で魔物の子供と噂されている少年の世話を焼いているらしい。
――どうせ世話を焼くなら私の世話を焼いてくれたらいいのにっ!
パーティーに誘われた時から、ケインに思いを寄せているユウは、とても悔しかった。
私になんか、全然興味も持ってくれないのに…。
そんな、ヤキモチとも言えない、嫉妬にも似た気持ちを抱きながら、思いを寄せる男の願いを叶えるべく、あまり会いたくもない子供のもとへと向かった。
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あの子、街で魔物の子供って噂されてる子よ? 助ける事なんてなかったのに……
白い髪に、白い瞳、まるで伝説のヴァンパイアのようだ。魔物の子供と言われるのもよくわかる
まあね、ダンジョンの裂け目から落とされた上に、魔物のいるダンジョンを丸腰で生きて歩いていたってのはヤバい感じだよね
マジで? そんな嫌な感じはしなかったけどな〜。 でも、みんなが言うならそうかもね〜
♢
先日のパーティー内での会話である……。
リーダーのケインは明らかに不満のあるような表情をしていた。
ユウ自身もあの子の事を魔物の子供とは、全く思ってもいなかったのだけど……。
子供の頃に嫌がらせをさられた経験からか、つい、みんなの意見に同調してしまった……。
――みんながこう言ってるから……
自分の本音を隠し、本当は間違いだと思っているにも関わらず、強い方の意見に追随してしまう。
――私は、私のこの弱さが大、大、大嫌い!
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街の外に行き、ケインが目をかけてる少年に、レンジャーとしての知識を教え始めると、その子がとても誠実な男の子だと解った。
確かに、みんなが言うように、見た目は、白髪に白い瞳と、普通と違っている――
――でも、普通ってなんだろう
私の役割はレンジャー。
レンジャーの役割は地味で目立たないものが多い。
それにも関わらず、私のレクチャーに真剣に取り組み、目の前で一生懸命メモをとる少年の姿を見て、どうして魔物の子供の姿に見えるのだろうか。
一通りレンジャーの初歩の知識を教え終わり、別れの挨拶をした時には、彼は新しい知識を得た喜びからか、満面の笑みで手を振ってくれた。
――私も新人の頃は、あんなだったな
――な〜んだ、私とまったく同じじゃないか
――魔物の子供だなんて、もう思わない
――でも……
心の弱い私は、 『嫌だっ!』
また本心を隠して、 『嫌だっ!』
まわりの意見に流されてしまうだろう、 『嫌だっ!』
私は、自分が流されてしまうであろう事が想像できてしまい、絶望に染まったような暗い表情になっていた……。
元いじめられっ子の現在位置