絶対防御の勇者③
国の南北をつなぐ中央街道。
アリウムたち三人は、付近の街や村を経由することを避け、最短で首都キャピタル・ヘルツへ向かうルートを選んだ。
万が一、街や村の中で【デビルズヘブン】の刺客に襲われた時、一般人に被害が及ぶ事を避ける為だ。
中央街道は、東西の街や村につながる枝道が何本かあるが、北の街シーラタウンから首都キャピタル・ヘルツ、そして南の街フーサタウンを結ぶ街道にはその他の街や村は無い。
その為、夜を迎えた三人は、街道脇にあった木の下で野宿することとなった。
「いやいや、兄ちゃんはゆっくり休んでくれよ。」
「ああ、見張りは俺たちでやるからよ。」
「そんな、しばらく三人のパーティーなんですから、僕も見張りは参加しますよ。」
「………そうですかい? なら、三番目に見張りをたのんます。」
「ああ、そうだな。順番になったら起こしますんで、先に休んでくだせえ。」
アークとニーンに特別扱いされ、アリウムは少し居心地が悪い。チームアリウムや使徒以外とパーティーを組むのが初めてのアリウムには、いまいち二人との距離感を掴めないでいた。
特別会話も盛り上がることもなく、アリウムは先に休むことにするが、実はアークとニーンも遠慮が勝ちすぎていて、同じように居心地の悪さを感じていたのだ。
この二人にしても、常にチンピラ3人組で行動していたわけで、ヅーラが死んで、そのポジションにアリウムという自分たちの人生を変えたその人物が入ったのだから、無理もないというもの。
戦闘におけるアリウムの立ち回りと指示には、完全に信頼を寄せた二人だが、アリウムに対して自分たちがやっていた嫌がらせの数々が頭をもたげ、とても対等な付き合いはできないでいる。
「………ったく、すげぇ兄ちゃんだぜ。」
「ああ、マジで無敵だな。」
「俺たちは、こんな化け………、いや、こんなすげぇ兄ちゃんを虐めていたなんてな………。」
「ああ、マジで俺たち最低だな。」
「あの兄ちゃん、俺たちを『英雄』だなんて言いやがって………。」
「ああ、馬鹿なこと言ってたな。」
「どっちかといえば、あの兄ちゃんこそ『英雄』なんだがな。」
「ああ、リンカータウンの戦いの時のあの兄ちゃんの活躍は凄かったからな。」
「まったく、まさかそんな兄ちゃんと一緒にパーティー組むことになるなんてよ。信じられねぇな。」
「ああ、ヅーラの野郎も味合わせてやりたかったぜ。」
「なんというか………。償いにもならねぇだろうが、俺はあの兄ちゃんにこの汚ねえ命を預けるつもりだ。」
「ああ、俺もだ。」
「どんな攻撃も跳ね返す『絶対防御の勇者』。カッコいいじゃねえか。」
「ああ、マジでカッコいいな。」
「やってやろうや。」
「ああ、やってやろう。」
これから先、自分たちのような脛に傷を持つ人間が、英雄と呼ばれる人物の足枷にだけはならない、そう決意する二人。
後ろで休んでいる白髪の少年の寝顔を見ながら、軽く拳を突き合わせた――
♢
カサッ………
二番目に見張りを引き受けたニーンが物音に気づいた。
感覚鋭いレンジャーがみはりについているタイミングだったことは幸いだったろう。
小さな物音にも敏感に反応したニーンは、まだ眠ったばかりのアークの肩を揺すった。
「………敵襲だ………。」
腰の鞘から短剣を引き抜き、片膝立ちで周囲を伺う。
頭を振り、無理矢理覚醒したアークは、肩を叩いてアリウムを起す。
「刺客………ですか?」
「ああ、おそらくな。」
一瞬でアリウムが三人を包むように障壁をはる。
とりあえず、遠距離から弓や魔法で狙いうちされることは防げる。
しかし、この状態では反撃はできない。
常にアリウムが課題にしている攻撃方法を確立できなくては、最終的に【デビルズヘブン】を潰すという目的に近づくことは難しいだろう。
「兄ちゃん、これじゃ反撃できねぇ。どうしやす?」
「敵さん、俺たちを完全に囲んだみたいだ。10人はいるんじゃねえかな。」
カン、カンッ!
三人が頭を突き合わせて相談していると、有無を言わさず弓矢が障壁が当たった。
刺客であればそうだろう。三人を殺害するのが目的なのだから。
カン、カン、カンッ!
続け様に矢が当たる。
ふと、足元で燃えている焚き火に気づく。
焚き火の灯りを目印にして矢を射ている、そう気がついたアリウムは慌てて焚き火に水筒の水をかけた。
「やばっ!?」
水蒸気と煙がドーム状の障壁に充満してしまった。
「――兄ちゃん、慌てなくていいっ!」
「ああ、少しだけ障壁に穴を空けて煙を逃がせ! それで大丈夫だ。」
アークとニーンから続け様に言葉が飛ぶ。
ここはさすが先輩冒険者という所だろう。
「経験は思考から生まれ、思考は行動から生まれる――」
行動を通して得た経験が思考を促し、その思考がまた新たな行動を生み出す、ヒロの知識にあった言葉だ。
積み上がった経験こそ、その先の選択肢を増やし、より良い選択を選ぶ事ができるはず。
「ならば、僕も新しいチャレンジを積み重ねるべきだ。」
障壁ドームは維持したまま、穴を空けて煙を逃す。
その間も弓矢が当たる音は止まない。
障壁は全ての弓矢を跳ね返し、徐々に視界も晴れてきた。
その時、障壁に氷の礫が降り注ぎ、それと同時に手持ちメイスが障壁を叩きつけられた。
ビリビリと障壁が震える。
だが、やはりアリウムが作りだした障壁はびくともしない。ならば、ここから考えるべきことは一つ――
「ちょっと試したい事がありますっ!お二人とも少しじっとしていてくださいっ!」
アリウムは、常に考えていた攻撃方法を試す決意する。
常にイメージし続けた【操作】。
「――動けっ!!」
集中力を高めて、一気に魔力を解放した――
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