絶対防御の勇者①
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「――二時の方向っ! 魔物……、ゴブリンライダーだっ! 五組っ!」
片腕のレンジャーが、残った手で庇を作り、目を細めながら叫んだ。
「――僕が障壁を貼って誘導しますっ! アークさんは壁を避けた奴らを狙い撃ちしてっ!」
白髪の少年が支持を飛ばすと同時、二時の方向に光を屈折させる障壁が現れた。
基本は透明である障壁に気が付かず、ゴブリンライダーがその乗馬……もとい乗犬ごと障壁にぶつかり、跳ね飛ばされる。
悪人ヅラの魔術師は、何度かの戦闘を共にし、白髪の少年のスキルを身近で目にした事で、少年が繰り出す指示に全幅の信頼を置くようになっていた。
だからこそ、やや長い詠唱の魔法を自分の身を守る事を放棄して唱え終えていた。
「―――!?」
見えない壁にぶつかり、昏倒している仲間の姿に動揺しながらも、二組のゴブリンライダーが壁の右側へと回り込む。
「――ファイヤーボールっ!」
ゴブリンライダーが粗末な槍を振り翳した瞬間、人の大きさ程の火の球が、魔犬もろともゴブリンに炸裂した。
爆破した火の球は、広い範囲を炎で包み込み、複数の相手を一斉に巻き込む。
「ニーンさんっ!」
「――わかってらいっ!」
白髪の少年の支持を受ける前から、片腕のレンジャーは動き出していた。
右手で逆手に持った短剣で、障壁にぶつかり昏倒している魔犬の喉を突いてまわる。
さらに、振り落とされた衝撃で動けなくなったゴブリンにも素早くトドメを刺すべく短剣を振り上げた。
「ギャー、ギャギャーー!?」
窮鼠猫を噛む、
追い込まれた相手が何をしてくるかわからない典型。
ゴブリンは手元に落ちていた石を片腕のレンジャーに向けて投げつけた。
しかし、防御の体勢を取る事ができないはずの片腕のレンジャーは、投げつけられた石を避けようともせずにゴブリンの首元へ短剣を振り下ろした。
カンッ!?
ゴブリンに短剣が突き刺さると同時に、片腕のレンジャーの顔のすぐ前で石が砕けた。
よく見れば、片腕のレンジャーの顔の前に、光を屈折させている壁が現れていた。
白髪の少年が、その特異なスキルを使い、ゴブリンの投げた石を防いだのだ。
グシャッ!
さらに、白髪の少年は両手を握り込むように力を込めると、密度を高めた立方体状の障壁を作り出し、ファイヤーボールで全身を焼かれたゴブリンと魔犬の頭に勢いよく落とした。
身体を焼かれ、頭を潰されたゴブリンライダーたちは、絶命。
3人の冒険者は、五組のゴブリンライダーをあっさりと倒し切ったのだった。
♢
「兄ちゃん流石だなぁ、おいっ!」
ニーンは、腰ベルトに取り付けられた横向きの鞘に短剣をしまうと、自由になった右手でアリウムの背中を叩いた。
それは、決して悪意の無い、純粋な賞賛のつもりだったのだが、過去の出来事へのトラウマからか、アリウムは引き攣った笑顔しかできなかった。
「いやぁ、ほんと、あんたの障壁の硬さは半端ねぇよ。あの障壁があれば無敵だろう?」
アークがアリウムの障壁の能力の高さを両手を上げて褒めちぎる。なんとも居心地の悪さを感じたアリウムは、こちらも笑って誤魔化した。
「兄ちゃんにはほんと悪いと思ってんだ。兄ちゃんから見れば、俺たちのことは全く信用出来ないだろうが、俺たちは兄ちゃんを信頼してる。」
「おおとも。俺たちの命はあんたに預けた。元々死を覚悟してたんだ。この命、『デビルズヘブン』を壊滅させる為に使い潰してくれ。」
アークとニーンは、今まで信用されることなどほぼない人生を送ってきた。その為、自分たちも人を信用することなく、三人組で支え合って生き抜いてきたのだ。
しかし、あのリンカータウンの攻防戦でアリウムの大活躍を目撃し、今、こうやって一緒にパーティーを組んでみて、アリウムへの信頼度は突き抜けて上がっている。
つまり、彼らの話している内容は、本音も本音。本気でアリウムに命を使い潰してもらう気概でいるのだ。
「ハハハ………。お二人とも、命は一つしかないんですよ。大事にしましょうよ。」
乾いた笑いで誤魔化したアリウム。
しかし、アークとニーンは、まるで自分たちの『英雄』を見るような目で、アリウムを見ている。
アリウムからしたら、この二人のやろうとしている事こそ、『英雄』の道そのものだと感じて、ヒロたちと別れてきたのだが………。
「さあ、行きましょう。とりあえず、首都の冒険者ギルドに行って、他の仲間と合流しなくては。」
首都の冒険者ギルドに行けば、今、ギルドをまとめているヒルダに相談できる。
それに、グラマスの死を伝えに行ったハルク、ギース、ライト、ソーンといった、頼れるパーティーの年長者たちがいるはずだ。
彼らの支援を受けることができれば、凶悪で危険な組織が相手だとしても、きっと上手くやれる。
( アークとニーンを紹介したら、みんなはどんな顔をするかな。)
ふ、とヒロに言われた事を思い出した。
『アリウム。やってこいよ。コイツらのことはお前に任せた。そんでもって、お前も『英雄』になってこい。』
僕が『英雄』って………。
僕からしたら、ヒロさんこそ『英雄』になれると思うし、僕にはそんな大層な目標は持てない。
でも、あの優しい剣士に憧れたのは、ヒロさんだけでなく、僕自身も憧れたのだ。
優しい剣士が目標にした『英雄』という存在。
そのものになれなくとも、そんな存在に近づく努力はしてみたい。近くにそんな存在がいるなら、その手伝いをしたい。
アリウムは、愛想笑いでは無い笑顔を浮かべた。
「人間相手の方が、魔物相手の何倍も恐ろしいですよ。いつ襲われるかわからないのです。お二人とも気を引き締めていきましょう!」
なんか、リーダーみたいだな――自分の姿に気恥ずかしさと、誇らしさを感じながら、アリウムたちは首都への道を進み始めた――
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