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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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機械人形、改めて決意する


           ♢



 パチパチッ………。


 生き物の気配を無くした森の入り口に小さく燃える焚き火。

 拾い集めた小枝は、まだ水分が抜ききれていないのか、火に焚べられると音を立てて燃えた。


 疲労の激しいパーティーメンバーたちを先に眠らせ、俺は見張り番をしている。

 眠りが必須ではない機械人形=ゴーレムの身体ではあるが、それでも精神的な疲れは溜まっていくようで、正直なところ睡眠欲はある。


 ゆらゆらと揺れる焚き火を見ていると睡魔はどんどん強くなる。

 ならば、と空を見上げてみれば、大量の星が瞬いていた。

 何万年もかけて届いた星の瞬きは、邪魔する街の灯りが無い為か、一つ一つがとても強く、大きく見える。


「………なんか、星が降ってきそうだ………。」


 見知った星座は見つけられない。しかし、前世で見た星空と変わらないようにも思えた。

 この世界は俺が元いた世界と違う世界なのか。

 様々な種族が存在し、魔法などという力が普通に使われている。精霊が自然現象を司り、さらには神が身近に存在する世界。

 すっかりとこの世界の常識に慣れきってしまっているが、ふとした瞬間に違和感を感じることがある。

 

「………いったいここは何処で、俺は何をやっているんだろうな………。」


 信じ難い現実だが、眠さを感じても、寝ないで済む自分の身体。

 こうやって自分と向き合う時間になると、いつもこの疑問に戻ってくる。

 新しい人生なのか。それとも前世からの継続の人生なのか。

 堂々巡りの思考の中、やはりまた夢の世界に迷い込んだような気分になるのだ――



           ♢



「ピューー………。」


 後ろで眠っていたはずのニールが俺の膝の上に乗ってきた。

 古竜王の子であるニールにとって、今回の一連の出来事はショックが大きかったことだろう。

 普段なら、こうやって俺に甘えるような仕草をすることなどないニールだが、少しでも傷ついた心の癒しになれたら良いなと思う。


 古竜王をはじめとする原初の竜、古竜=エンシェントドラゴンは皆殺しにされた。今、一族で存在するのはニールだけとなってしまったわけだ。


 古竜たちの眷属ともいえる竜人族も皆殺しにされていた。ギースのように、ダンジョンの外で活動していた竜人族もいるだろうから、全滅ということではないかもしれない。だが、間違いなく極少数が残るのみだろう。

 ギースになんと言って話せば良いか。黙っている訳にもいかないだろうし、これもしばらく俺の頭を悩ませそうだ。

 

「ニール。お前には俺たちが居る。」


 それ以上の言葉は出てこない。

 激励の言葉は無責任だし、ましてや同情や哀れみの言葉などもってのほかだろう。

 だから、一緒にいる。それだけを伝える。

 いつでも、どこでも、俺たちを頼って欲しい。

 


 ゴゴゴゴゴゴ―――………



 廃墟となったフーサタウンから、また地鳴りが聞こえてきた。

 赤白い炎の影響か、光の柱の影響か。

 ダンジョン崩壊が近いのかもしれない。


 歴史から消える街。

 歴史から消える種族。

 歴史から消えるダンジョン。


 すぐそこにあった常識が、あっという間に消え去るなんて。

 何故あんな事が起きたのか、結局のところわからないままだ。 

 だが、切り捨てられていた竜人族の亡骸の事を考えれば、何か人為的なものを感じざるを得ない。ダンジョン内の魔物を刈り尽くし、古竜王たちを絶命させた相手。それが冒険者だとして、そんな強者が存在するのだろうか。

 

「そんな奴が居るとしたら、強すぎるよな………。」


 それに、この世界の理によれば、使徒を倒し、ダンジョンを解放する行為は悪なる神を滅ぼす為の祝福すべき行為として評価されるだろう。間違いを犯したとはいえないのだ。

 


 気持ちを切り替えよう――



 こうやってまた堂々巡りの思考に落ち込んでしまう。

 だから、前に進もう。

 家族を無くした者同士、ニールは俺が守ってやらなくては。



「――英雄か………。」


 かつて、独りぼっちで街の虐められっ子であったナナシ=俺を闇から引っ張り上げてくれた、優しい剣士は『英雄』を目指していると話してくれた。

 

 『英雄』とは、なんだ?

 ゲームの世界じゃない。今、俺は俺のリアルに生きている。

 まるで価値観の違うこの世界で、俺はどう生きたい?


 先日、この世界での魂の片割れの存在、アリウムと別れた。

 彼は自分の道を見つけたのだ、そう感じた。

 虐げられ、社会の底辺で閉じこもっていた彼が、巨悪の根源の一つでもある、【デビルズヘブン】の壊滅に挑むのだ。

 

「なんか、アリウムなら『英雄』と呼ばれるようになる気がするんだよな………。」


 なって欲しいと思う。

 なら、俺は?

 何のために俺は生まれ、何のために俺は生きるのか?

 

 ………そうだ。ヒルコを封印して、歴史の裏側で誤魔化されてきた理不尽を正す。


 今まで漠然と流れに任せてこの世界を歩いてきた。

 辛い事も多かったし、恨み言もたくさんある。

 しかし、フーサの街のように、理不尽に消しさられてしまうような事はあってはならない、と思う。


 なら、そんな理不尽を許すまい。

 機械人形=ゴーレムとして、壊れるまでやり切ろう。

 初めてなのか、二度目なのか、それとも前から続いているのか………。

 よくわからないが、今、俺にはこの世界で授かった才能がある。

 アリウムを見ていれば、その才能には意味があったと確信できる。

 なら、俺が授かった才能を使い尽くして、今を生き抜く。


「よし、決めた。俺は俺で今の人生をやり尽くしてやる………。」


 やっと寝ついたニールを起こさぬよう、小さな声で。しかし、大きな決意を口にした――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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