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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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悪なる神と冒険者⑤

残酷描写が続きます。



 やっとのことでニールに追いつくと、そこには開け放たれた大きな扉があった。

 ニールは、その大きな扉の前でホバリングしながらこちらを見ている。


「ニールっ! 一人で先行しすぎちゃダメだ。この状況を作った奴らがどんな奴らかわからないんだぞっ!」


 俺が大声で叱りつけるが、その前からニールの目は虚で、何か大きなショックをうけているようだった。

 そんな様子を不思議に思いながらニールの居る扉の前まで来てみて、どうしてニールがショックを受けているのかを理解できた。



「………うそでしょ………。」


 アメワが呟く隣で、全く声を出せずにいるナギとナミ。

 扉の中を見て、俺も思考がストップするほどの光景が目の前に広がっていたのだ。

 


 扉の中――そこは竜人族の集落となっていた。

 いや、集落()()()………。

 そこには、今通ってきたダンジョンの通路同様に大量の死体が転がる、無慈悲な虐殺の場と化していた………。



           ♢



 ここにソーンが居てくれたらと思ってしまう。

 彼女なら………、太陽神に仕える神官であるソーンならば、無惨に殺された竜人族たちの魂の鎮魂を祈ってくれたに違いない――



 何度も言うが、俺は無宗教だ。

 まぁ、都合よく神頼みはするし、クリスマスも祝う。交通安全や開眼成就の御守りも身につけていたし、お経も嫌じゃない。無神論者とまではいかないが、神に感謝するような習慣もない。


 だが、この地獄のような景色を見て、真っ先に頭に浮かんだのは『成仏して欲しい』だった。加えて言えば、『救われて欲しい』とも言える。

 

 男も女も関係なく、大人も子供も関係なく、あまりに無惨に殺されている。

 そう、子供もだ………。


 集落に住むすべての竜人族が殺されたのだろうか。

 扉の内側に一歩足を踏み入れる。

 すでにそこは死の世界。

 ダンジョンの通路を埋め尽くしていた死体同様、一刀のもとに両断されたような死体ばかり。

 首が切り落とされ、腕が転がり、上半身を無くした足が膝をついている。


 いったいどうやれば、こんな大勢の人々を殺戮し尽くせると言うのだ。

 

 ふと、首の無い母親が、やはり首を刎ねられた子供の身体を抱いている姿が目に入った。

 あんな小さな子供と、その子供の母親を………。

 頭が沸騰するほどに、怒りが込み上げてきた。



 その時、ふとゴブリン退治を請け負った時の事を思い出した。

 子供を守ろうとしたゴブリンと、その後ろに庇われていた子供のゴブリンを殺したことを。

 あの時は、あれが正解だと思って迷いはしなかったが、あの時の俺は、今、目の前に広がる状況と同じことを引き起こしていたのではないか。



( いや、同じであってたまるか………。)


 俺は思わず浮かんだ考えを強く否定した。

 あれは村を攫われたナミを助け出すため。

 そして、村を救うため。

 ああしておかなくては、同じような事件が起こるかもしれないからこそ、禍根を断つためにやったのだ。

 

「………酷い………。」

「………こんな小さな子供まで………。」

「どんな理由があってこんなことするの………。」



 ズキンッ!?



 どんな理由があって………。

 いや………、だから………、俺にも理由があって………。


「ヒロ兄っ! 許せないよ、こんなのっ!」

「どんな理由があっても、絶対に許さないっ!」


 違う……、ナギ、ナミ、アメワ………、違うんだ。


「ヒロ兄っ! あっち! あっちに階段があるっ!」


「えっ!? あ、あぁ、わかった。」


 混乱していた。

 ナギもナミみアメワも、俺を責めていたわけじゃない。

 今、ここで起きているこの虐殺行為に怒っているのだ。

 

 なぜ、急にゴブリン退治の時の事を思い出したのかわからない。

 後悔なのだろうか………。

 俺は後悔していたのだろうか………。

 子を守る親を殺し、その子までも殺した事を………。


 

 だが、今はやるべきことをやらなくては。

 古竜王に会うだけでは終わらない。

 こんな悲劇を巻き起こした相手を止めなくてはならない。


「行こう。みんな。ニール、気をしっかり持てよ。」


 一緒に過ごした事はないが、ニールにとっては同族を守護する一族である竜人族。そんな一族がこんな目にあっていて、平気な訳がない。


「ピーーっ!」


 さすが古竜王の子。最強種は伊達じゃない。

 杞憂。

 俺の心配などいらなかった。

 覚悟をしなくてはいけないのは俺の方だ。

 終わったことはやり直せないのだから。

 


「これから後悔しないように頑張るだけだ――」


 俺は小さな声で、大きな目標を呟いた。

 強くならなくては。心も………。

 いい歳したアラフィフ男だって、まだまだ成長してみせる。なんていったって、壊れるまで死ぬことのない機械人形=ゴーレムとなったのだから。



「……ヒロ君? 何か言った?」


「いや、なんでもない。こんな酷いこと、絶対許しちゃいけない。止めに行こう。」


 使徒を倒して、悪なる神を封じた魔力核を壊す。

 これこそ、この世界の冒険者の目標。

 これこそ、この世界の常識。


 今、それを成し遂げようとしている冒険者を止めるというのは、世界の理的にはするべきことではないのかもしれない。

 しかし、神々の本来の歴史を知り、さらに、虐殺をする事に全く躊躇いを持たない相手を、俺は許せない。



「間違いを正さなくては――」

 

 俺たちは下の階段に足を踏み入れた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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