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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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悪なる神と冒険者③


 俺たちは慎重に階段を降りた。

 地下30階――そこは、今までのフロアとは明らかに様子が違っていた。


 他のフロアのように、ダンジョン産の魔物が死ぬと残す魔石が転がっていない。その代わりに、鼻を突くような鉄の匂いが漂っている。



「………何? この匂い………。」


 嗅覚の鋭いナミが、耐えられないといった様子で両手で鼻を隠す。

 同じく鼻のきくニールも、その強烈な匂いに顔を顰めている。


 身体にまとわりつくような重苦しい湿度を含んだ空気。匂いだけでなく、口の中に鉄の味が広がるような感覚は、とても気持ち悪い。



「………これ………、血の匂いね………。」


 ナギが呟く。 

 吸血鬼王の眷属であり、血操を得意とする彼女は、フロアに広がる匂いを血の匂いと断言した。



「血の匂いって………。ダンジョン産の魔物は死ねば消えるはずよ? 血だけが残るなんて事はないはずだわ。」


「じゃあ、魔物じゃなくて、冒険者の血の匂い? でも、ダンジョンの中に充満するほどの血の量って、どんだけよ?」


 アメワが言う通り、ダンジョン産の魔物なら血を残さない。ここまでの道のり、魔石だけが転がっていたのがその証だ。

 ただし、森の女王の管理するダンジョン=インビジブルシーラにいる虫型の魔物たちは、死骸を残し、体液を撒き散らしていた。

 軍隊蟻のような魔物は、そんな死骸の掃除屋であり、自分たちの餌として巣に運んでくれる事で、ダンジョン内の秩序は保たれている。


 しかし、それはあのダンジョンの特殊性だ。

 それは後から聞かされた話でわかった。

 あれは、ウカ神の魔力核を今の俺の身体である機械人形=ゴーレムの核に使ったことにより、【試練】のダンジョンとしての役割を失った為に起こった特殊性。その為、ダンジョン外の魔物が自然に増え、新しく作りだされたあのダンジョン独自の生態系なのだ。



「ここまでドラゴン相手に無双している冒険者が殺られたのか? しかし、ダンジョン内に血の匂いが充満するほどとなると、実は大勢の冒険者でダンジョンに挑んでいたとか………。」


 もし、軍隊規模でダンジョンに挑んだというなら、上級種のドラゴンを殲滅することも可能だろうか。

 しかし、この狭いダンジョンの通路で数の有利は活かしづらい。横一列に並ぼうとしても、5人程度が限度。それ以上になれば武器を振りかぶることも出来なくなってしまう。

 古代ギリシャの戦法『ファランクス』のように、重装備の戦士を並べたとしても、ドラゴンの吐く強力なブレスや、咆哮といった攻撃が浴びせられる中、地下30階まで前進するのは至難の業だろう。



「――大勢で押し寄せたなら、それなりに人の通った痕跡も多く残るはずよ。ここまでの間、見かけたのは床に転がる魔石だけ。」


「そうだな。だとすれば、この血の匂いはどこから………。」



 アメワの考察に納得する。

 この道中、人の生活痕など無かった。


 俺は、危険を回避するべく、ダンジョンの先を目を凝らして見る。しかし、薄明かりしか存在しないダンジョンの中ではなかなか難しい。

 


「――ここで悩んでいてもしょうがない。前進して、使徒の部屋を探さないと。」


 ダンジョンに広がる血の匂いは、恐怖を掻き立て、思考を鈍らせる。

 自分自身を奮い立たせ、前進を決断した。

 託された目的もある中、ここから引き返す選択肢は取り辛い。しかし――


「あまりにも危険だと判断したら、俺を殿にして上の階に向かって逃げるんだぞ。」


 全員がうなづく。

 ここで俺の言葉に反発が無いのは、信頼されているという事だろう。ありがたい。


 それまでと同じ隊列を組む。

 俺は先頭に立ち、いざとなれば殿になる。

 緊張感が高まり、慎重に前進。周囲を確認しながら、進んでいく。

 やはりこの階には魔石は落ちていない。魔物も出ない。魔石が大量に転がっているのも異常なのだが、それ以上に今の状況の方が異常に感じてしまう。



 ズズッ………


 突然、前方から地面をするような音が聞こえた。

 後続にハンドサインを送る。

 全員が息を潜めて、音に集中するが音は途切れてしまった。



(………何かがいる………。)


 目を凝らして音のなった辺りを伺うが、何も見えない。

 ハンドサインで前進を指示。

 全員、すぐに戦闘に入れるように武器を構えながら、再び通路を歩き始めた。



「―――うっ!?」


 先程、音がした辺りまでくると、急に匂いがキツくなり、その強烈な匂いに耐え切れなくったナミが嘔吐する。

 さらに、そこに広がった地獄のような風景に、パーティーメンバー全員が唖然として立ち尽くした。



「うえっ――」


 アメワとナギも込み上げるものを堪え切れず、その場にしゃがみ込む。

 ニールもあまりの惨状に頭を尻尾で隠して、目の前の風景を視界に入れることを拒否していた。



「――なんだ、こりゃ………。」


 あまりの惨状に言葉が出ない。

 このフロアに立ちこめる血の匂いの理由がそこにあった。



 なんと、そこから先、通路を埋め尽くすほどの死体が転がっていたのだ。

 

 ぼんやりと光苔に照らされた死体の山。

 まるで血の海のような通路。

 足の踏み場もないほどに、そこには【死】があふれかえっていた――


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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