悪なる神と冒険者②
パンパンッ!
突然、ダンジョンの中に手を叩く音が響いた。
「――恐れてばかりいてもしょうがないでしょ! 敵か味方かもわからないし、ましてやニールの親が危ないのなら、助けに行かない選択肢は無いんだから。」
アメワがハッキリとした口調で皆を諭す。
背筋をピンと伸ばした姿は、凛としていて、戸惑い迷う俺とは違い、しっかりとした強さを感じる。
「そうよね。アメワ姉の言う通り。まぁ、ウチもそう思っていたわ。」
「何よ、ナミだってオロオロしていたくせに。」
「そんなことないわよ! ナギは泣きそうな顔をしてたけどね。」
「ウチが!? そんなわけないわっ!」
平常運転に戻る2人の紅瞳と白瞳の少女。
メンバーの心を軽くすることができるアメワを尊敬すると同時に、俺は自分の不用意な言葉がメンバーに動揺を与えてしまったことを反省した。
「でも、あらゆる可能性を排除しないで行きましょう。ヒロ君の言う通り、危険な相手の可能性が高いのだから。」
ヤバい。惚れそう。
俺なんかより、ずっとリーダーっぽい………。
「カッコいいな――」
「――!? ヒロ君、何を言い出すの!?」
俺を裏切った事を後悔し、カヒコの死を引きずって村に帰ったアメワは、自分で命を絶ってしまいそうなほど絶望していたのに。今では、そんな様子は微塵も感じない。
思えば、パーティーの中でも一番付き合いの長い仲間だ。そんな仲間の成長した姿を、俺は心からカッコいいと思えた。
「いや、アメワカッコいいよ。俺もしっかりしないとな。」
「――あのね、ヒロ君。あなたがいるだけで、みんな安心できてるの。あなたがいなければ、ここにいるメンバーは全員、闇落ちしてるわ。」
アメワは幼馴染を亡くし、ナギとナミは使徒の眷属になった。ニールなんか、生まれる前に誘拐されてる。
それを一つ一つ、丁寧に説明するアメワ。
「だから、あなたはしっかり胸を張っていてちょうだい。私たちの自慢のリーダーなんだから。」
なんか、お説教されているような、持ち上げられているような、不思議な気分。でも、まぁ、悪い気はしないか。
「はいはい。頑張ります――」
みんなが笑顔になる。
俺は俺なりに、ということかな。
見た目も、中身もいい歳のおっさんが、若い女の子に諭されて自信をつけるって、ちょっと恥ずかしい。けど、まぁ、見栄を張ったところで立派になれるわけでもないのだし、頑張りましょう――
カランッ!
離れた位置から聞こえた音に、緩んでいた緊張感が一気に高まる。
「――魔物か!?」
俺たちはいつの間にか、地下29階から地下30階へ降りる階段が見えるところまで進んでいた。
武器を構え周りを伺うが、なんの変化もない。
「何の音?」
斥候のナギが後ろを歩くナミを頼る。
ナミは氷狼の眷属。神獣族の能力を与えられている為、その聴力は人族よりも何倍も鋭い。
ナミの頭の上で休んでいたニールも、羽根を広げていつでも飛び上がれる体勢をとった。
「………わからない。階段の下から聞こえたような気がする。」
下の階――地下30階は、とりあえずの目標にしていた階だ。
かつて、ハルクがケインたちと一緒にそこまでは到達しているが、結局、使徒の部屋は見つけられていない。つまり、ここより下に行かないと、古竜王たちには会えない。
「もしかしたら、ドラゴンを倒しまくっている奴?」
ここまでの間、どこのフロアでも床に魔石が転がっているだけで、竜種どころか1匹の魔物にも会っていない。
誰かが魔物を1匹残らず殺して歩いているのは明らかで、そんな事ができる輩がこの先にいる可能性が高まったわけだ。
「みんな、改めて方針を確認しよう――」
この場で襲われる可能性は低いと判断し、俺は地下30階に降りた後の行動について確認しあう。
何人いるかわからないので、まずは相手の正体と人数の確認。待ち伏せに注意し、取り囲まれないように後方も確認しながら進む。
こちらから攻撃しないで、話ができるか試みる。相手が冒険者なら、お互いに不干渉を確認するが、
古竜王を狙っている事が確認できた場合は、彼らを護る為、戦闘も辞さない。
「………でも、竜種を諸共しない相手でしょ? ウチらで勝てるの?」
ナギの発言は最もだ。そこで、作戦を立てる。
「単純な戦闘ではリスクが高すぎるだろう。だから、近接先頭は避けて………。」
その後、先を行く者たちと戦闘になった場合の作戦をシュミレートする。
段取り八分。準備の無い者が良い結果を得ることは難しい。段取りを整えた上で、予想外のことに対処していく。そこには経験からくる積み上げが必要だろうが、それをやれるのが優秀な冒険者だ。
俺たちはBランクパーティー。
使徒たちに鍛えられもしたし、その辺の冒険者よりも実力はかなり上なはず。
ただ、相手は上級種のドラゴンを簡単に倒し、もしかしたら、あの光の柱を造り出したのかもしれない、得体の知れない相手だ。
俺たちよりずっとずっと強い可能性が高い。
「――よし。行こう。」
パーティーメンバー全員が自分の役割を全うするべく陣形を取る。
今回、先頭は俺と波の乙女。
その後ろには、背中に嘆きの妖精を乗せたニールが続く。
さらに、アメワ、ナミが続き、ナギは霜男を抱えて最後尾で後方の警戒につく。
最大限、感覚を研ぎ澄まし、俺たちは階段を降り始めた――
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