消滅②
瓦礫の山に囲まれながら、しばらくの間、4人は無言だった。
何が起きたのかが解らないでいる不安と、自分たちの気まずさが合わさって、何から始めたら良いのか決められないでいるのだ。
「――フーサタウンに行ってみよう。」
俺はしばらく考えた末、もう一度フーサタウンに向かう事を決めた。
周りに積み上がる瓦礫を見れば、フーサタウンから飛んできた事は明らか。ということは、フーサタウンが今どうなっているのかも、なんとなく想像がつく。
「あの時、天まで届くような光の柱が立ち上がった。あれこそが、今起こっていることの元凶には間違いないだろう。」
「そうね。立て続けに同じことが起きているわけじゃないし、今はあの光の柱は消えている。そうとしか考えられないわね。」
「………怖い………。」
「今、あそこに行って大丈夫なの? また同じことが起こったりしない?」
恐怖を口にするナギとナミ。しかし、このままここで震えているわけにもいかない。
「確かに怖いな。でも、放って置くわけにも行かないし、ダンジョン=ファーマスフーサに行って古竜王に会わないと。」
俺の頭の中に、【核爆発】という考えが浮かんでいた。もしそうだとしたら、放射能に晒されることになる。だとしたら、すでに手遅れだろう。
ただ、魔法という概念が世界の常識であり、科学という概念が確立されていないこの世界ではありえないだろう、とも思う。
「――なんにせよ、何が起きて、今どうなっているのか、自分たちの目で判断しなくちゃな。」
自分自身の不安は口に出さず、行動を促す。
「ピー、ピ、ピーーーっ!」
俺の声に真っ先に反応したのは古竜の子ニール。
そりゃそうだ。自分の親や同族がいる場所だ。
ニールの為にも、古竜王たちに会わなくてはならない。
「そ……そうね。ごめんニール。うちもしっかりする。」
【キーパー(動物飼育)】という才能をもつナミは、古竜の言葉も理解しているのだろう。普段から一緒にいることの多いニールの激励を受け、震える膝を叩きながら立ち上がった。
「ナギ、行くよ。」
ナミはナギの腕を引いて立ち上がらせる。
ナミは元々白い顔色が今は青白い。自分の言葉への罪悪感と、起こっている現象のダブルパンチで混乱の極致なのだろう。
「――ナギ!」
俺はナギをもう一度しっかり抱きしめた。
「ナギ。気にするなとは言わない。むしろ、反省することは良いことだと思う。でも、その反省を活かして前に進まなきゃ、反省の意味がない。だから、ナギ。前に進もう。俺がいつだって一緒にいるから。」
俺に対する罪悪感が彼女を苦しめているのはわかっている。消し去ってやりたいが、簡単に消すことはできないだろう。それはナギ自身でしか消すことはできないし、完全に無かったことにはできないものだから。
「大丈夫、俺は受け止めて、受け入れた。俺は今、みんなと一緒に生きている。」
ナギは俺の顔をじっと見つめてきた。
俺のいまいち整理のつかない言葉に混乱したのだろうか。
「………ありがと、ヒロ兄。ウチもヒロ兄と一緒に生きる。」
ナギは紅い瞳を涙で腫らし、益々赤くしている。 それでも、未来に進む為にしっかりと笑顔で答えた。青白かった顔色も、心無しか赤みがさしたように見える。
「ちょっと、ちょっと! なに2人で盛り上がってんのよっ! ウチだってヒロ兄と一緒なんだからねっ! 離れなさいよっ!」
「邪魔すんなし! ヒロ兄はウチと一緒に生きてくれるのっ!」
「何言ってんのよ! みんなと一緒って言ったじゃん! 独り占めすんなしっ!」
良かった。ナギとナミの調子が戻ったようだ。
少女らしい振る舞いこそが、彼女たちには一番似合っている。暗い雰囲気など、これからの彼女たちには相応しくない。
アメワもそんな2人を見て、和かに微笑んでいる。
「――よし、2人の調子も戻ったようだし、みんな、フーサタウンへ行ってみようかっ!」
みんな吹っ切れたのか、この場に暗い顔をしたままの者はいなくなった。
その場の全員が笑顔で頷いた――
♢
道なき道。
フーサタウンへ続く街道は、道の役割を果たしていなかった。
俺たちがいた場所ほどでは無いが、そこら中に瓦礫が転がっている。
暗い夜道も相まって、とても真っ直ぐ歩けるような状態ではない。
しかし、フーサタウンに近づくにつれ、瓦礫の量は少なくなっていた。
「………なんか、凄いことになってるね。」
「なんで街に近い方が瓦礫が少ないの?」
「たぶん、あまりに大きな力が働いたから、その中心ほど何も無くなったんだろうな。」
ナミの疑問も尤もだ。
たぶん、街の全てが吹き飛ばされたのだろう。
すでに街の姿が見える位置まで来たはずなのに、そこから見えるのはただの広大な土地。
建物どころか、草木の一本も見当たらない。
ただただ平地が広がっているだけ。
おそらくメイン通りだった場所には、かろうじて道路だった形跡が見てとれるが、道路に敷かれていたはずの敷石は剥がれ飛び、踏みかめられた獣道のようだ。
「街が吹き飛んでる………。」
アメワが呟いた通り、フーサタウン全体が跡形もなく吹き飛ばされていた。
廃墟とすら言えない。
つい数時間前まで、人が生活していた場所とは到底思えない。
俺たちは、敷石のない道の真ん中に立ちつくしていた――
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