優しい剣士、激励する
「そういえば――、これが今回の冒険の報酬な。ちゃんとしまっておけよ。」
そこには、なんと銀貨が3枚もあった。銅貨一枚でパンにありつけるのである。その銅貨100枚分の価値がある銀貨が3枚……。
食事や装備品を買って貰い、その上、寝泊まりまでさせてもらっているのだ。とてもじゃないが、そんな大金受け取れない。あきらかに、多すぎる……。
「多すぎるなんて言うなよっ!これは、お前の将来への投資だ。これから、お前は立派な冒険者になるんだろ? その時になったら俺に酒でも奢ってくれよ。その時には、一緒に酒を飲めるようになってるだろうからな。」
出世払いって奴さーーー。
ケインはそう言いながら、右手で得意のサムズアップ。大袈裟に親指を立てた。そして、その反対の手で俺の肩を叩く。
(こうやって、俺が肩に触れても、お前は触れられている感覚がわからないのか……。人の温もりを知らずにここまで生きて来たんだな……。)
ケインは、また一つ増えたナナシの不幸な境遇に目頭が暑くなる。どうにかしてやりたいな――
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
「ケインさん、僕、このお金で買いたいものがあるんです。この間のお店を紹介していただけませんか? 僕だけだと、ちょっと……。」
ナナシが初めて俺に頼み事をした。
おそらく、自分一人で買い物に行っても、売って貰えないかもしれない事を考えたのだろう……。
「もちろん大丈夫だ。ところで何を買いたいんだ?」
店に連れていき、ナナシが手に取ったのは、丈夫そうな革製のカバーに包まれた小さな手帳と鉛筆だった。
「せっかくケインさんみたいな立派な冒険者に色々教えていただけるんです。なので、出来るだけメモしておきたくて。いいですよね?」
やはりナナシは賢い。不幸な境遇に負けず、ここまで頑張ってきただけの事はある。
――知識はその者の武器である。
この国の格言だ。昔々の賢者の1人が残した言葉だそうだ。おそらくこんな言葉、ナナシは知らないだろうが、知らずに行動に移せるこいつは凄い奴だ。
「知識はその者の武器であるって言うからな。勿論だ。しっかり勉強しろよっ」
つい、自分の言葉のように言ってしまった。
この間もそんな事あったような? まぁ、ナナシの為を思って言ってるんだ。昔の賢者様も許してくれるさ……、許してくれるよな?
「ところで、ナナシは文字が書けるのか。孤児院があまり良い環境では無さそうだったのに凄いな。」
この世界の識字率は低い。まともに文字を教わる事のできない人も多いのだ。やっぱり凄い奴だ。
「お前なら、必ず良い冒険者になるよ。この俺が保証してやる。がんばれよっ!」
どうにも癖になった右手の親指を立てるポーズをまたやってしまって……、ちょっと恥ずかしくなってしまった……。