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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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夢の後②


「――あぁぁぁぁっっ!?」



 嘆きの妖精=バンシーの叫び―― 死をも連想させるその悲しい声は、俺たちを囲もうと動く冒険者たちの精神に直接衝撃を与え、その影響を知らない彼らには防ぐことは出来ない。

 彼らの精神は悲しみで溢れ、正面に位置していた者たちは、例外なくその場に膝をついて頭を抱えている。



「――お前たち、なんのつもりだっ! このドラゴンの仲間は俺たちの仲間だ。寄越せだと!? ふざけんなっ!」

「そうよっ! ふざけんなっ!」


 俺たちの叫び声が響く。

 それでも【竜の咆哮】、【バンシーの叫び】によって動くくとができなくなった男たちを押し退けて、影響の少なかった男たちが近づいてくる。

 男たちの眼は狂気に染まり、俺たちの言葉は耳に入らないようだ。

 

「――よこせっ!!」

「――竜の子をよこせっ!」


 男たちはまるで何かに操られてでもいるのだろいか。

 口々に勝手な事を叫びながら、ニールを捕まえようと手を伸ばしてくる。



「ちょっとっ! 放しなさいよっ!」


 ニールを頭に乗せているナミを守るように手を広げていたナギが後ろから近づいた男に掴み掛からられしまう。

 街の人間に向けて武器を振るう訳にもいかず、ショートソードを腰に下げたままにしていたナギは、掴まれた腕をなんとか振り払おうと激しく身体を捩る。

 すると、深く被っていたマントのフードが引きずり下ろされ、その白い肌と紅い瞳が露わになった。


「――っ! やめてっ!」


 ナギは、なんとか男の腕を振り払い、腰からショートソードを抜き放つ。

 すぐにアメワがナミと並んでメイスを構えた。

 こちらの言葉に耳を貸さない相手に、いくら言葉を連ねても無駄なようだ。

 こうなったら、仲間を守る為にも戦うしかなさそうだ――



「――!? なんだコイツっ! 瞳が紅いぞっ!」

「ほんとだっ! よく見ればそっちの娘は髪も瞳も白いじゃ無いかっ!」

「なんだっ!? 竜の子供を連れ歩き、紅目と白目の娘だとっ!? コイツら、()()()じゃないかっ!」

 

 一気に男たちの威圧が膨れ上がる。

 ニールを見る目に加え、ナギとナミに向けられた蔑みの感情が爆発した。



「――魔物の集団だっ!?」

「化け物が攻めてきたぞっ!」

「嘆きの妖精まで使役しているっ! 見ろ、あの悍ましい姿をっ!」

「魔物だっ!」

「魔物だっ!」

「魔物だっ!………」


 2人の少女を魔物と呼んで、それぞれの武器を手にし始める男たち。

 騒ぎが大きくなると、その集団の中にはエプロンをつけた女までが混じり始めた。その手には、調理用のナイフや掃除に使う箒などが握られ、明らかに攻撃の意識がとってみられた。



「「…………。」」


 久しく浴びる事の無かった罵声に、ナギとナミは身体を縮こませた。

 リンカータウンでは知られた少女たちだが、初めて訪れたフーサタウンには、彼女たちを知る者はいない。

 罵りの声をあげ、徐々に数を増やし、俺たちを囲む輪を縮めてくる。

 恐怖で身を寄せあうナギとナミ。

 その2人を挟むようにして、俺とアメワが武器を構える。

 こうなったら、相手が人だとしても戦うしかない。

 そもそも、人を魔物呼ばわりするような連中に、慈悲など必要ないっ!――そんな考えが浮かびかけて、俺はその考えを振り払った。

 憎悪に憎悪で応えることの愚かさを、俺は嫌というほど知っているのだ。


「――俺たちは冒険者だっ! 魔物などではないっ!」

「そうよっ! 私たちは冒険者ですっ! 武器を下ろしてくださいっ!」

 

 ジリジリと近づいてくる男たち。

 いつからか、その後ろからは石が投げ込まれ始めた。



「くそっ!? なんなんだ。ミズハっ! フユキっ!」


 まだ仕掛けて来ない男たちに警戒を続けながら、波の乙女と霜男を呼び出す。

 間伐入れず、波の乙女は水球を生み出すと、投げつけられる石を防いでくれた。


「――こりゃ、話なんて聞いてくれるそうも無いな……。みんな、逃げるぞっ!」



 話し合いは無理。

 戦闘も避ける。

 ならば、とれる手は逃げの一手だ。


「ニールっ! ヒンナっ! 元きた方向に向かって叫べっ!」


 古竜と嘆きの妖精は、再び大きく息を吸い込むと、同じ方向に向かって叫んだ。


『――◼️⚫︎▼●◾️▲ッッッッッ!!』

《 きぃゃゃゃーーーー!!!! 》



 2人の強力な咆哮は、同じベクトルに向かいながら相乗効果でその威力を上げ、道に溢れた住人を昏倒させた。


「アメワっ! 2人を連れて先に行けっ」


 俺の呼びかけに素早く反応したアメワが、身を固くして震えるナギとナミの手を引いて走り出す。


「ミズハっ! 水壁をっ! あと、水をばら撒いてっ! フユキ、地面を凍らせろっ! ヒンナはフユキの手伝いだっ!」


 俺は続け様に精霊たちに指示を飛ばす。そして、自らは精霊剣から炎を吹き上がらせた。


「ブリジットっ!」

 俺の魔力に反応した炎は、スキル【ムービング】によって波打ちながら近寄ろうとする男たちを牽制する。


 さらに、鞭のように炎を振るいながら、アメワたちが距離をとれるまで時間を稼ぐ。

 二つの咆哮を浴びた者たちは、しばらくは動けないし、流石に囲みに加わっていた女たちは、炎の鞭に怯えて逃げ出している。

 残りの者たちも、水の壁や凍った地面に阻まれて、こちらに近づくことができないでいた。


 俺は精霊たちをリュックに戻すと、もう一振り、炎の鞭を振り回してから魔力を流すのを止めた。



「――ったく! ふざけんじゃねぇぞっ! 俺たちは魔物でも化け物でもねぇっ! 狂気に染まったお前達こそ化け物だろうがっ!」


 周りで右往左往している連中に、この言葉は聞こえただろうか。

 聞こえていたとしても、自分たちのことだと気づいただろうか。


 俺は、せめて、ほんの少しでもいいから、彼らが自分たちのやったことを省みることができてほしいと願いながら、先に行った3人の仲間の後を追いかけた――


 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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