夢の後①
フーサタウン――
ここにあるダンジョンにて、竜種の魔物が活発化し、ドラゴンという最強種目当てに多くの冒険者が集まっていたが、まさにドラゴンフィーバーともいえるような時期が終わり、街は今、閑散としていた。
「やっとフーサタウンに着いたわね。」
アリウムと別れ、旅路はなんとなく静かな終盤になりそうだったが、アメワのおかげでナギとナミは明るさを取り戻していた。
ふだんは姦しい2人の少女なのだが、俺があっさりとアリウムの別行動を認めた為、微妙な空気になりかけてしまった。
中年男の寒いギャグではまったく盛り上げることもできず、どうしようかと思案していたが、アメワが上手く盛り上げてくれたおかげで、微妙な空気を取り払ってくれていた。
「………なんか、随分と静かね。」
「ほんと、結構大きな街なのに、全然人が歩いてないとか、なんか薄気味が悪いかも……。」
「ちょっと寒気がするわね。寒いのはヒロ君のギャグだけで充分なんだけど。」
「…………。」
アメワの手厳しい呟きは置いておき、3人がそう感じるほどに、フーサタウンからは人が消えていた。
メイン通りを歩いていても、すれ違う者もおらず、昼時だというのに、炊煙すら立っていない。
「………お店も閉まってるね。」
「お昼時だってのに、屋台も出ていないし……。」
「まぁ、さすがに全ての店が閉まってるなんてことはないでしょ。もう少し先まで歩きましょ。」
フーサタウンへと到着した俺たちは、まずは腹ごしらえとメイン通りに来たのだが、まったく当てが外れてしまった。
以前、この街を訪れた時は、ドラゴンスレイヤーを目指す大勢の冒険者たちの熱気で溢れていたというのに、竜種の活動が沈静化してしまえば、こんなにも寂れてしまうのか。
「――あっ! あそこの店やってるみたいよっ!」
「やった! もうお腹ペコペコ……、早く行こっ!」
「ちょっと!? 2人だけで行かないの!」
ナギとナミがやっとみつけた食事処へ走り出す。アメワが慌てて2人を追うが、食欲に逆らえない少女たちはアメワの言葉に耳を貸さない。
店は酒場のようで、閑散とした街の中、それなりに客で賑わっているようだ。
カランカランッ――
目的の店から2人の冒険者が出てきた。
少女たちは気付いていないが、その冒険者たは走ってくる少女たちを見て驚いている。
そして少女たちとのすれ違い様、2人の冒険者が突然叫び声をあげた。
「――おいっ! お前ら止まれっ!」
突然の呼びかけに驚いて振り返ると、二人組がナミに向かって飛びかかってきた。
「――きゃっ!?」
まったく警戒していなかったナミが2人に腕を掴まれ、隣にいたナギは突き飛ばされて悲鳴をあげた。
「あなたたちっ! 何をするのっ!」
アメワが咄嗟に男たちとナミの間に割り込もうとするが、相手も冒険者。しかも、戦士風の2人はガタイも良く、簡単に払いのけられてしまった。
「――おいっ! なんだお前らっ!」
少し距離が空いてしまっていた俺は剣に手をかけながら叫ぶ。
「うるせぇっ! おいっ! 女っ!こっちに来いっ!」
戦士風の男が声を上げると、その騒ぎに引き寄せられたのか、酒場からゾロゾロと冒険者が飛び出してきた。
「―――!?」
突然の出来事に俺たちは混乱する。
ナミは腕を後ろ手に締め上げられ動けないでいて、苦痛に顔を歪ませている。
アメワは体勢を崩しなからも、突き飛ばされたナギに駆け寄り男たちを睨みつけていた。
「おい、女っ! このドラゴンの子供、どっから攫ってきたっ!」
「なんと、こいつ人に慣れていやがる。」
「竜人族が飼ってる騎乗用のレッサードラゴンとも違うようだぞっ!」
理不尽にナミたちを囲む男たち。
何やらニールを見て勝手に騒ぎ始めている。
それに対して、ナミの頭の上で男たちを威嚇しているニール。
男たちはそんなニールを見て益々盛り上っているようだ。
「なんだなんだ、このチビドラゴン、一丁前に俺たちを威嚇してるぞ。」
「お前ら、どうやってドラゴンの子供を手懐けた?」
「いやいや、そんなことはいい。このドラゴンの子供、俺たちによこしやがれっ!」
「――ふざけんなっ! 何を勝手なこと言ってんのよっ! ニールを渡すわけないでしょ!?」
「いいから寄越せって言ってんだろっ!」
あっという間に20人ほどの人だかり。
ナミの絶叫など関係なしに、周りに集まった冒険者たちがナミの頭の上にいるニールを奪おうと、吾先に手を伸ばしてきた。
『――◼️⚫︎▼●◾️▲ッッッッッ!!』
それまでは身を固めて、ただの威嚇しかしていなかったニール。
しかし、男たちの手が自分の身体に触れた瞬間、怒りの咆哮を挙げた。
それは人の心に恐怖を植え付け身体を竦ませる【竜の咆哮】。まだ子供とはいえ、ニールは古竜=エンシェントドラゴン。その力は、程度の低い精神防御など、簡単にぶち抜いていく。
「―――!?」
バタバタと倒れる冒険者たち。
しかし、先程まで人影の無かったフーサタウンのメインストリートだったというのに、どこに隠れていたのか、わらわらと冒険者が現れた。
「おい、ドラゴンの子供だっ!」
「見ろっ! 人に飼われているドラゴンだっ!」
「なんだなんだ! アイツら、どこでドラゴンの子供なんか見つけたんだっ!」
「俺たちにも見つけた場所を教えろっ!」
「いや、俺にそのドラゴンの子供を寄越せっ!」
次々に現れる冒険者たち。
勝手な言葉を吐きながら、ナミとニールを囲むようにして近づいてくる。
「――なんなんだ、一体っ!?」
ニールの【竜の咆哮】を至近距離で浴び、ナミの腕を掴んでいた冒険者とその仲間は昏倒した。
その隙に、俺はナミたちの側に割り込み精霊剣を構える。
さらに、リュックから嘆きの妖精=バンシーのヒンナを下すと、正面に向かって対峙させた。
「ヒンナ、頼むっ!」
嘆きの妖精は大きく息を吸い込むと、一気に吐き出した。
《 きぃゃゃゃーーーー!!!! 》
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