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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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アリウムの決意


「――この人たちと一緒に行くって、本気!?」

「そーだよ、アリウム兄っ! ウチらとの旅はどうすんのよ!?」


 ナギとナミが驚きの声をあげる。

 あまりの驚きように声も裏返った。



「――嬢ちゃんたちの言う通りだぜっ! 俺たちと一緒に行くだなんて……」


「態々、危険な旅についてくることなんかないだろ!? それも、あんたに酷い事をやり続けた俺たちとだぞ!? 訳わかんねぇって!?」


 良心の呵責。

 自分たちの行動を省みて、新しい人生を歩むと決めた()()()()()()()()からすれば、自分たちが散々酷い事をした相手に助けを求めるなんて、恥ずかしくてできやしないのだろう。

 ましてや、半ば死まで覚悟をした彼らにとって、そんな危険に他人を巻き込むことは、自分たちの罪を増やす事になりかねない。


 

「僕は、あなた方に『英雄』になろうとする男の気概をみました――」


 ナギとナミだけでなく、アークとニーンにまでが驚きの声を上げている中、アリウムは胸を張って自分の言葉を紡いでいく。


「確かに、あなた方がやってきたことは許されるものじゃないし、僕があなた方から受けた仕打ちは、とても許せるものじゃないです――」


 俺だって許したというより、彼らの罪を飲み込んだというのが本音である。そこには、これから先、彼らと関わる事がないという気持ちがあるからこそともいえる。


「でも、あなた方は自分たちを変えようとしている。今までやってきた事を反省し、命をかけて他人の未来の為に動こうとしている――」


 未来………。確かに、過去に囚われ続け、進むべき未来をより良いものにしようとする連中を否定していては、それこそ怨恨。健全な心根を保つ事はできないかも知れない。


「僕は少なからず孤児院には縁があります。僕が授かった才能が意味不明なものでなかったら、もしかすると、僕も犯罪者になっていたかもしれない。でも、僕は優しい剣士に出会い、優しい妖精に出会い、優しい友に出会うことができた――」


 ケインさん、ベルさん……。彼らがいなかったら、俺たちはどうなっていたか。


「そして、僕の心の痛みを僕の代わりに受けてくれた優しい兄貴にも――」


 兄貴って……、俺の事だよな!?

 こんなおっさんを捕まえて、兄貴だなんて……。

 俺だって過去を引きずることなく、今ここに居られるのは、みんなのおかげであり、アリウム、君のおかげだよ。



「つまり、あなた方は、みんなに出会えなかった僕なんです。3人で支え合って生きてきたあなた方は凄いと思いますよ。でもそれだけじゃダメなんです。他にももっと支えあう関係を増やしていかないと――」


 すげえなアリウム……。

 普段、あんなに頼りない姿で、いかにも末っ子根性の少年かと思っていたのに( ごめん。)、俺なんかより、ずっとしっかりしてるじゃないか。



「だから、その支えあう関係に僕も加わります。僕が加われば、またそこから関係が広がるはずです。僕は相変わらず『魔物の子』だなんて言われて石を投げられることもあるけど………。アークさん、ニーンさん、少なくともあなた方はもうそんな事しないでしょ?」


 アークとニーンは慌てて首を縦に振る。

 彼らにとって、他人を蔑むという行為が既に価値がないものとなった瞬間かもしれない。

 


「しかも、あなた方は僕にとって『英雄』の条件を満たした――」


 二人は驚きからからポカンと口を開けたままだ。

 それは俺も……、ナギとナミもまた驚きで固まっている。

 『英雄』って……、()()()()()()()()のどこにそんな要素があったというのか……。



「だって凄いじゃないですか――」


 その場の全員の視線がアリウムへと集まる。



「命をかけて、世の中の闇を正そうとしてるんですよ? 『世の中優しくない』なんて言っていたのに――」


 理不尽だらけの世の中だ。

 アリウムだって嫌という程味わってきた苦しみだろうに……。


「自分たちは名前なんか残さなくてもいいとか、カッコいいじゃないですか。それって、どう考えても『英雄』でしょ?」


 人知れず、悪から正義を守る。

 確かに……。それはスーパーヒーローだな。

 


「――そうだな。俺もそう思うよ――」


 いいじゃないか、『英雄願望』。

 頼りないと思っていたアリウムが、自分の頭で考え、自分の足で歩き出した第一歩だ。



「アリウム。やってこいよ。コイツらのことはお前に任せた。そんでもって、お前も『英雄』になってこい。」


 俺の言葉に今度はアリウムが目を丸くした。

 アリウムは()()()()()()()()の手伝いをするつもりでいたのだろう。

 しかし、俺は違う意味を添えて、白髪、白瞳の少年に言葉を送ったのだ。



「必ず孤児院の裏の顔を暴き、子供たちを救ってやれ。お前なら絶対にできる――」



 因果応報―― 悪い行いをすれば悪い報いがあるということ。しかし、人はよい行いをすればよい報いがあるはず。

 これからのアリウムは、きっと良い事だらけ。

 そんな未来を作ってくれる――そんな気がする。



「――ヒロさん、ありがとうございますっ!」


 アリウムは、俺が自分の考えを丸々理解してくれたことで、益々ヤル気を漲らせた。



「いやいや、ちょっと!? 何言ってるんですかい? 俺たちが『英雄』!? 意味わかんねぇって!?」


「そうだぜ、兄ちゃん! 馬鹿言っちゃいけねえよ。」


「そうよっ! この人たちが『英雄』だなんて……。それに、ウチらとの旅はどうすんのよっ!?」


「そうだよアリウム兄っ! ヒロ兄もなんでそんな話許してんのよ!?」


 俺とアリウム以外は混乱しているようだ。

 確かに、話が勝手に進めてしまったかもしれない。

 でも、アリウムの決意を邪魔なんてできないだろ?



「――アリウムなら大丈夫。アリウムの力は人を守る力だ。絶対にやり遂げてくれるさ。アリウムにとってのやるべきことが、今決まっただけだよ。俺たちは、俺たちでやるべき事をやるだけ。」


 そうさ、進むべき未来が見えたのなら、そこに向かって進むべき。



「ナギ、ナミ。別にアリウムと永遠に別れる訳じゃないだろ? ニールもいるし、俺もいる。大丈夫さ。」


 ナギとナミは心配そうにアリウムを見るが、胸を張ってサムズアップしているアリウムの姿に毒気を抜かれたようだ。



「――ただしアリウム。必ず冒険者ギルドに行ってヒルダさんを頼れ。リンカータウンのサムさんもだ。そして、ライトさん、ソーンさん、ギースさん、ハルクさんにも協力してもらうんだ。相手は最悪な組織。組織には組織で対抗するんだぞ。裏切りもののスパイもいるかもしれないが、彼らがいれば大丈夫。わかったな?」


 アリウムはこくりと頷く。



「アークさん、ニーンさん。あんた達を完全に信用したわけじゃない。でも、あんた達の言葉を信じたアリウムの気概を信じる。だから、アリウムの事を頼む。絶対、『英雄』になってくれ――」


 呆然とする二人に、俺は深く頭を下げた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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