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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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孤児院の裏の顔


「―――!?」


 アークとニーンの告白に、一番驚いたのはアリウムだった。



「えっ!? えっ!? どういう事ですか、それ!?」


 孤児院で生活した事がなく、アリウムの記憶でしかその頃の事を知らない俺には孤児院という場所に対しての印象は薄い。

 粗末な服を充てがわれ、僅かな食糧しか食べさせてもらえず、魔物の子と罵られた……。

 あれ!? 本当に酷い場所だな……。



「あぁ、白髪の兄ちゃんもあそこの出身だったな。」

「兄ちゃんが知らねえのもしょうがねぇさ。俺たちだって、院長に誘われて初めて知ったんだからよ。」

「そうだぜ。しかも兄ちゃんは、まぁ、俺たちが言えた立場じゃねえが、孤児院の中でもハブられていたんだろ?」


「 …………。」


 アリウムが黙り込む。

 ナナシだった頃、彼に居場所なんかは無かった。

 孤児院だって、正直なところただベッドを貸してもらっているだけ。少しでも早く抜け出したくて、ポーターのバイトをしていたのだから。



「たぶん、兄ちゃんの才能ってのは、戦闘職には向いていなかったんだろ? そういう奴には、【デビルズヘブン】は見向きもしなかったんだよ。」


「あぁ、だから、表向きには孤児院として、身寄りの無い子供を集めているように見えてたんだ。」


「実際には、半分以上の子供達は攫われてきたんじゃないか?」


 

 この世界、どうなっているんだ?

 人が攫われていても、バレずにいられるものなのか?

 当時の記憶を思い出してみるが、あの孤児院には30人程は子供がいたはずだ。

 その中の半分が攫われた子供? 

 そんな事があり得るのか?



「――攫われた家族が探しに来ることは無いの?」


 たまらずナギが問いかける。

 普通の暮らしをしていたら、誰でもそう思うだろう。しかし、アークとニーンの答えは残酷だった。


「なぁ、嬢ちゃん。この世界、そんなに優しくできちゃいないんだよ。」


「………白髪の兄ちゃんの昔の話を聞いたことないのか? そりゃあ、酷いもんだったぜ。」


「俺たちも大概に悪人だが、世間はもっと冷たいもんだ。子供が攫われても、食い扶持が減ったくらいに思うような親もたくさんいるんだよ。」


 ナギはアリウムの顔を見て、俺の顔を見た。

 そして何も言わず、ナミの肩に顔を埋める。

 ナミも目に涙を浮かべながらナギの頭を撫でた。


 ナギもナミも、アリウムがナナシだった時の事はソーンたちから聞かされている。そして、使徒の眷属になったことで、二人が蔑みの対象にならないように俺たちが守っていた事も。

 ナミの村では、酷い扱いは受けなかったが、ナギの村ではとても暮らせなかったであろう事もよくわかっている。

 また、首都にはスラム街も存在し、人権などという考え方も熟成していない、そんな世の中である。

 

 「世間は冷たい」と言ったアークとニーンにとっては、まさに経験してきた実感なのだろう。


「――まあよ、それでも子供を攫って犯罪者を育てるなんざ、やっぱりあっていいはずはないだろ? だから、誰かがこんな仕組みぶっ壊さないといけないんだよ。」


「それを俺たちだけでやれるなんざ思ってないんだ。だから、国にも冒険者ギルドにも密告した。でも、アジトへのガサ入れの時には既に逃げられていたし、孤児院の方なんざ、証拠が無いってことで、まったく手付かずさ。」


「挙句、俺たちが密告したことがバレてこの通りよ……。おそらく、国にも冒険者ギルドにも【デビルズヘブン】のスパイがいるんだろ……。」



 スパイ……。おそらくその通りだろう。

 それも情報を知る事ができるような組織の中枢。

 なにせチンピラ三人組の面まで割れていたのだ。

 Dランク程度の冒険者であり、名が知れたパーティーでもない密告者の顔を知るものなど、そんなにいるはずはない。

 


「――酷い………。」


 ナギが呟き、ナミが同意する。

 ヒルコの狐憑きといい、【デビルズヘブン】の誘拐といい、まだ幼い少年少女の未来を奪うやり方が卑劣すぎる。

 ナギもナミも、普通の少女として生きることを奪われた側である。彼女たちのやるせない気持ちは消えることはないだろう。



「――ま、とりあえず、今回、俺とニーンはあんたらのおかげで命は助かった。なんとかリンカータウンに戻って、孤児院と【デビルズヘブン】の繋がっている証拠を手に入れてみせる。」


 ヅーラが死に、ニーンは左腕を失った。

 アークは5体満足ではあるが、魔術師では荒事になった時はその腕っぷしでは心許ない。

 こうなると、前線で身体を張っていたヅーラが居なくなったのはパーティーとして辛い。


 このまま街を目指すにも、魔物との戦闘には不安があるし、また今回のような襲撃があれば、とてもじゃないが生き抜くことはできないだろう。


 彼らもそれはわかっているはずだ。

 逃げた方がいい……。いや、逃げたとしても、逃げ切れるかもわからない……。

 だが、彼らが選んだ道である。

 命を賭けてやり遂げようとしている彼らを止めるのは、彼らに対して無礼だとも思う。


 ナギとナミが心配そうに俺を見る。

 『彼らだけを行かせていいの?』

 その表情は、俺にそう問いかけている。


「 ………あ………。」


 何かいい案がないかと口に出しかけた時、俺より先にアリウムが口を開いた。



「――あなたたちだけじゃ、街に着く前に魔物に食い殺されるのがオチです。」


 アリウムらしくない、ちょっと横柄な態度。

 チンピラ三人組にされた事を考えれば、無理もないとは思うが、彼らしくはない。



「よしんば魔物から逃げおうせても、また今回みたいな刺客に襲われれば、次こそあなたたちの命は無いでしょう……。だから――」


 アリウムは俺に向かって右手を前に突き出すと、親指を立てて笑った。



「――僕がこの人たちを街まで送ります。そして、孤児院の院長の悪事を止めてきます。」


 いつも情け無く泣き言ばかり言っていたアリウムが、とても逞しく見えた――

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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