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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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許す為に必要なもの


 俺の言葉に、その場にいる全員が驚きの表情を浮かべた。


《 ……ご主人様? それは本心ですか? あんなに酷い目に遭わされたのに……。》



 先程までのまったく表情を変えなかった波の乙女が、とても辛そうに顔を歪めた。この優しい精霊は、心から俺のことを心配してくれているのだ。


「 ……ミズハ。ありがとう。君は契約する前から俺たちの事を心配してくれていたんだね。だからあの時、優しく抱きしめてくれたんだね。」


《 …………。》


 波の乙女はスッと横を向いた。

 さらに、大人の女性の姿から、ポンッと可愛らしい小人の姿に戻ると、今度は完全にそっぽを向いてしまう。


 俺はそんな波の乙女を優しく胸に抱き上げた。

 そして、そのまま彼女を抱きしめる。

 水の精霊はヒンヤリとしていて、でも、彼女の優しい気持ちはしっかりと伝わってきて……。俺は鼻の奥がツンとして涙が溢れそうになった。



「――あの頃、苦しくて、悲しくて、どうしようもなくて……。ベルさんが君を紹介してくれて――」


 君はこうやって抱きしめてくれた。

 あの時、なんで抱きしめてくれたのか、今やっとわかった。



《 ………私は、あなたがいつでも虐められていて……、悲しい顔しているのをずっと見ていました。あなたを悲しませた者たちを、許す気持ちは、そう簡単にはなれません……。》


 抱き上げられた波の乙女は、俺の胸に顔を埋めたまま肩を震わせている。

 こんなにも、俺たちの事を思ってくれて、俺たちの為に怒ってくれる。そんな優しい精霊の言葉が、辛い日々を思い出して痛み始めた心を満たしてくれた。

 

「――ミズハ、大丈夫だよ。俺たちは「今」、君たちみたいな素敵な仲間のおかげで、幸せだから。だから、苦しかったあの頃を許す事もできるようになったよ。」


「そうだよ、ミズハさん。僕も「今」、幸せだよ。見た目をどうこう言われようと、胸を張って生きられる。だから大丈夫。」


 中年の男はしっかりと波の乙女を抱きしめている。

 白髪の少年は、抱きしめられたままの波の乙女の頭を撫でなでた。



《 ………あなたは……、あなたたちはあんなにも苦しみ、泣いていた……。あなたたちは、それでもこの者たちを許せると言うのですか? 》


 顔を埋め、肩を震わせたまま、波の乙女はか細い声でおれたに問い続ける。

 いつの間にか、『ご主人様』呼びから『あなた』呼びに変わっていることに、彼女は気付いているだろうか。

 


「――確かに、許すというのは違うかもしれないな……。でも、あの頃と違って俺たちは強くもなったんだ。だから、もう負けないと言った方がいいかもな。」


 恨みは消えない。

 これからも、何か同じようなことがある度に、前世のことも、『ナナシ』だった頃のことも、辛かった事を思い出すに違いない。

 その度、悔しさや、悲しさ、怒りで心が爆発しそうになるだろう。


 でも――


「――でも、大丈夫。何度でも言うよ。俺たちは大丈夫。みんなが居てくれる。だから……いつも心配してくれてありがとう。ミズハ――」



 ハッキリとした根拠を示せ、なんて言われたら説明なんかできないし、大丈夫と言いながら、やっぱり落ち込むこともあるだろう。けど、「今」の俺は耐えられる。きっとアリウムも。


 だから宣言しよう――



「――俺たちはアンタらを許すよ。俺たちは、負けないから――」



 アークとニーンは、中年の男に宣言されたことに少し驚いた。

 彼らにとって、赦しをこう相手は白髪の少年であり、自分たちを責め続けている水の精霊だったから。

 しかし、2人は真剣に話す中年の男の話を、やはり真剣に受け入れていた。

 隣に立つ白髪の少年が、絶対的な信頼を寄せていることを感じたこともある。でも、それ以上に、中年の男の実感のこもった話に、白髪の少年と同じような経験を感じ取れたから。


 だから、2人は中年の男に正対すると、しっかりと男の目を見てから、もう一度深く頭を下げた。



「――すまねぇ、精霊の嬢ちゃん。俺たちは嬢ちゃんに言われた通りのクズ野郎だ。だから……、だからこそ、白髪の兄ちゃんにこの命を預けたい。簡単に許してもらえるだなんて、そんな都合のいい事は考えちゃいないんだ……。ただ――」


 口を一文字に結び、少し考える素振りを見せた後、アークは決心したように話し始めた。


 

「――ただ、俺たちは最低なクズ野郎から生まれ変わる為に3人で誓ったんだ。それが、【デビルズヘブン】を潰す手伝いをすること。中でも、メンバーを増やす為に行われている子供の誘拐している施設を潰す事……なんだ。」


「俺たちは、これをやり遂げることで、少しでも世の中の役にたちてぇ……。それができたら、たとえ殺されたとしても満足だ。」


「名前なんぞ残らなくてもいい。ただ、俺たちが納得して死んでいける。その為の誓いだ。まぁ、ヅーラは死んじまったがよ……。」


「あぁ……、だが、アイツも自分自身でやろうと決めて、その結果だ。元々、他人様に誇る為じゃねぇ。俺たちがちゃんとアイツがやろうとした事を覚えている。」


「――だから兄ちゃんたち、許すと言ってくれたこと、心から感謝するぜ。俺たちに、誓いにむけて生きるチャンスをくれたことにな――」

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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