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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第8章 約束と願望、目的と目標
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乱戦②


 ヅーラは、腕を切り落とされて吹き出す血を必死に残った右手で押さえているが、溢れ続ける血が周辺に広がり、まさに血の海といった様相。

 すでに身動きもできず、盾を投げ捨て無防備になったヅーラは、2人の刺客に剣で斬りつけられ続けていた。

 

 抵抗できないヅーラが斬りつけられている姿を見たアークは逆上する。


「ガーーーーッッッ!!!!!」


 アークは声にならない叫びを上げた。

 手に持つ杖を振り上げて、2人の刺客へと飛びかかる――ところが、アークは突然、振り上げた腕を横から掴まれ、無理矢理引き止められた。

 


「――おいっ!? あんた魔術師だろうがっ!」



 アークが血走った目で振り返ると、自分よりも年上の男がアークに向かって怒鳴りつけてきた。

 しかし、すでに冷静さを失い、判断力をも失ったアークは、ヅーラの下に駆けつける為、なんとか掴まれた腕を振り解こうとして無茶苦茶に暴れる。


「フーッ!? フーッッ!?」


 歯を食いしばり漏れでる声。

 まるで理性を失った獣のように唸り声をあげながら、おさえつけらた腕を振り回す。しかし、悲しいかな、アークは魔術師。肉弾戦を生業とする戦士のように身体を鍛えることはしてこなかった。どうしても腕力は貧弱である。

 それでも火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、アークは普段出せる限界値を超える力で、掴まれた腕を振り解こうともがき続けた。



「ちっ! ヒンナっ! 頼むっ!」


 中年の男が叫ぶと、必死にもがくアークの前に、長い黒髪で顔を隠した小さな女の子の人形が立った。

 そして、暴れるアークの顔を見据えると、突然大きな叫び声をあげた。



《 きぃゃゃゃーーーー!!!! 》



 それはとても甲高く、とても悲しげで、しかし、心の奥底を震わせるような声。

 その声は細かい振動となり、その振動は直接心臓を叩き続け、しびれるような衝撃がアークを襲った。

 


 バンシーの叫び――精神に直接衝撃を与え、その悲しい声は、死をも連想させる……。



 アークは、嘆きの妖精=バンシーの叫び声を正面からまとも受けると、思考と感情はすべて悲しみで埋め尽くされた。

 直前まで怒りの感情に埋め尽くされ支配されていたアークの感情は、バンシーの叫び声によって吹き飛ばされ、全て悲しみに塗り替えられることによって、怒りに任せて動いていた身体の力は抜け落ちる。そして、力無くその場に両膝をついた。


《 ヒューリーは去ったよ。もう彼はバーサーカーじゃない――》


 嘆きの妖精は、彼女の契約者である中年の男に告げる。この世界の現象には、様々な精霊が影響を及ぼしているというが、人の感情にとってもその影響は計り知れない……。



「――ちょっと荒療治だが、ヒンナグッジョブっ!」


 アークの腕を掴んでいた中年の男は、黒髪の女の子に向かって親指を立てて笑うと、右手に持っていた剣を下段に構え、低い姿勢で走り出した。


 向かう先は、何度もヅーラを斬りつけ続けている2人の刺客。

 無抵抗の相手に剣を振り下ろし続ける刺客たちに、深い関わりの無いはずの男でも怒りを覚えた。



(――俺にもヒューリーが取り憑いていたりして――)


 中年の男はふとよぎった考えを振り払い、一直線に走り寄る。

 何故か、何度斬りつけても剣が弾かれてしまい焦る刺客たちは、迫り来る男に気付き、益々焦りを募らせた。

 


「――おいっ! お前たち、その壁は壊せないぜっ!」


 男が素早く下段から剣を切り上げる。

 まだ距離があると油断している刺客たちだったが、自分たち向かって炎の帯が伸びてきたことで、ついに男の方に意識を向けた。

 剣を構え、迎撃しようと体勢を落とした刺客。

 しかし、そんな行動は無駄になる。

 伸びてきた炎の帯は、刺客の1人を巻き込み、その身体を炎で包み込んでしまった。



「ぎゃあぁーーーっ!?」


 身体中に火が回り、叫び声を上げて転げ回る刺客。

 その声に動揺しながらももう一人の刺客も、ヅーラにトドメを刺すことを諦めて中年の男を迎撃する為に剣を構えた。

 

「――クソがっ!!」 


 刺客の気合いを込めた剣の一振りが、走り込んで来た中年の男の肩口を襲う。

 しかし、中年の男はその一撃に剣を合わせ弾き飛ばすと、その勢いのまま刺客に肉薄して剣を振り下ろす。

 元来実力者なのであろう、対峙することになった刺客も咄嗟に距離を詰め、振り下ろされる剣の勢いがつく前に迎撃した。

 鎬を削る音がギリギリと鳴り、二人の力比べが始まるのかと思った瞬間、中年の男が叫んだ。



「――ブリジットっ!」

 その瞬間、男の持つ剣から炎が吹き上がるり、吹き上がった炎は、剣を握る両手を包み込む。



「ぐわぁぁっっっ!!」


 炎に焼かれ、刺客はその手に持っていた剣を落としてしまう。身を守る術を失った刺客は慌てて逃げ出そうと後ろを向いた。

 


「――さすがにそれはないだろ。」


 敵に対して無防備に背中を向けるなど、背中を斬ってくれと言っているようなもの。中年の男は、炎を纏ったままの愛剣を振り下ろした。

 

 

 ゴーーーーーッ!!!


 切り口から炎が吹き出す。

 刺客は逃げきる事はできず、中年の男が振り下ろした剣を背中に浴び、堪えきれずに前のめりに倒れた。


 斬られた背中から炎を吹き上げる刺客。

 斬られた傷が原因か、それとも傷から吹き上がる炎が原因か。

 どちらが致命傷かは不明だが、倒れこんだ刺客はそのまま動きを止めた。

 


 終局――チンピラ3人組と謎の刺客との戦いは、3人組の2人が戦闘不能、謎の刺客が全員死亡という激烈な結果を残して、終わりを迎えた――


 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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