乱戦①
「ぐぁっ!? ちくしょうっ!?」
チンピラ三人組は一人多い刺客たち相手に苦戦していた。
タンク兼アタッカーであるヅーラ、レンジャー兼アタッカーのニーン、魔術師のアークと一見バランスの良いパーティーなのだが、本来はヅーラが盾役として相手を押さえている間に詠唱を終えたアークが魔法で止めを刺すというのが彼等のパターン。
ニーンは牽制役が基本ポジションなので、その攻撃力は頼りない。その為、基本は1対3の状態で魔物を倒してきたのだ。
そう、チンピラ三人組は、基本、人ではなく魔物を相手に稼いできた冒険者たちなのだ。
故に作戦立てて襲ってくる敵に対する戦い方は素人同然。最前線で身体を張るヅーラが集中攻撃を受けて刺客たちの攻撃を捌ききれなくなった時点で、この戦いに三人組の勝ちの目は限りなく0に近い。
「――!? グボっ!?」
右手に大楯を構え、左手にショートソードを持つヅーラに対し、刺客たちは一人が大楯に向かって攻撃を加えて行動を封じた後、他の3人が左手側から一斉に攻撃した。
ヅーラを助ける為、ニーンは回り込んできた3人に向かって炸裂弾を投げつけるが、先程一度見られた攻撃である。しっかりと対処されてしまった。
近くで爆発しなければ、ただ音が大きい花火のようなもの。弾けた破片が自分たちに向かって飛ばないように炸裂弾は単純に躱わされ、誰もいない後方に転がっていった。
「ヅーラっ!?」
防御の薄い左手側から剣を差し込まれ、ヅーラは脇腹に3本の剣を受けてしまう。
重装備のヅーラは、装備の硬さに任せて致命傷を負うことはなんとか防ぐが、強烈な攻撃を受けてバランスを崩した。
「―――!?」
刺客たちはその瞬間を逃さない。
1人がニーン、もう1人がアークとの距離を詰め、1人がヅーラの鎧の継ぎ目、隠しきれていない脇の下に剣を突き刺さした。
脇を締めるのが遅れ、ヅーラは胸を差し抜かれる――と覚悟を決めた時、不思議なことが起こる。
喰らった剣は刺さったことは刺さったが、何かに弾かれ、致命傷になる前に動きを止めたのだ。
しかし、刺客もなかなかの手練れ。その不思議な現象に一瞬の動揺を見せるが、咄嗟に剣の向きを変え、そのまま切り上げるとヅーラの左腕が肩から切り飛ばされてしまった。
「――ヅーラっ!?」
アークは絶叫する。いつでも、自分たちの前に立ち、身体を張って守ってくれていたヅーラの左腕が跳ね飛ばされ、さらに右手側から盾ごと蹴り飛ばされたヅーラはそのまま倒れ伏してしまった。
助けに向かおうにも自分は魔術師。物理戦では無力と言っていい。しかも、今、ヅーラの名前を呼んでしまったことで、魔法の詠唱を途中で途切らせてしまった。
(――チッ!? なんで俺はいつもこうなんだっ!?)
倒れこんだヅーラに気を取られたアークに、刺客の1人が切り掛かって来る。
頼みのニーンも短剣で応戦中のため、アークは手に持った杖で迎え撃つしかない状況になってしまった。
しかし、杖と剣ではその能力の差は歴然としている。魔術師が剣士相手に直接物理のやり取りをしなくてはならない状態は、すでに詰んでいると言っていいだろう。
アークはヅーラのように自分が切り伏せられる
のを覚悟した――
キンッ!!
剣が振り下ろされる瞬間、アークは目をつぶってしまう。正直言って、戦闘を生業にする冒険者としては下の下。後衛職である魔術師だという事を差し引いても、これはとってはならない行為……。
「――アークっ!」
すぐ横にいるニーンから名前を呼ばれる。
自分は斬られたはず……。
しかし、痛みは一向に襲ってこない。
ここでアークは目をつぶってしまっている事に気づく。情け無さで口元が歪んだ。
「―――!?」
目を開けると、見えない何かに振り下ろした剣を止められ、刺客の男が驚愕している姿が目に入る。
次の瞬間、刺客の頭が拳大の氷の塊に弾かれた。
グシャッ!?
予想外の一撃は刺客の意識を刈り取ったらしい。まったく受け身が取れていない。
刺客は白目を剥いて頭から倒れ伏した。
「ニーンっ!?」
自分への脅威が無くなり、慌てて声をかけてくれたニーンへと視線を向ける。
ニーンは両手に短剣を握り応戦していたが、すでに左腕の肘から先程を切り落とされていた。
短剣対長剣――どう考えてもリーチの差と重さで競り負けるのは道理。左手の短剣で受け流そうと試みて、失敗したのだろう。
盛大に血を吹き出して転げ回るニーンにトドメを刺そうと剣を振り下ろした刺客。
しかし、この一撃も見えない何かに弾かれてしまう。
「―――!?」
驚愕に目を見開く刺客。
動きが止まった瞬間、ニーンとの間に、青く透き通った美女が割り込んだ。
その美女が右の掌を刺客の顔に向けると、刺客の顔が薄い膜に覆われる。
刺客は膜を剥がそうと必死にもがくが、液体でできた膜を掴む事はできず、酸素を取り込むことのできないまま、後ろ向きに昏倒した。
(……何が起きている!? あの冒険者たちが助けに来てくれたのか!?)
隣のニーンが左腕を押さえてのたうち回っている。
なんとか治療をしてやりたいが、自分には回復魔法など使えない。ナップサックに入っているポーションを取り出したいが、その前にヅーラの支援に向かわないと――
「―――!?」
アークはこのパーティーのリーダーである。チンピラ3人組とはいえ、それなりに経験も実績もあるパーティーだ。
散々、悪い事もしてきた。だから、いい死に方なんて出来やしないとも思っている。
だが……、たとえそうだとしても、やり直すと決めたのだ。
もう少し……、あと少しでいいから、俺たちにやり直す時間を与えてくれ――
歯を食いしばりながら、ヅーラの方に顔を向ける。
仲間を助けなくてはならない。
その思いに思考を支配され、アークは自らの唯一の攻撃方法であるはずの魔法の詠唱すらすることすら忘れてしまっていた――
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