介入
♢
「なんだ!? あの三人組、なんで反転して突っ込んでいくんだ!?」
俺は飛び出したナギとナミの背中を追いながら、チンピラ三人組がとった行動に首を傾げた。
こちらに関わるなと叫び、逃げる方向を変え、挙句の果てにはまた追手に向かって突撃していくなんて、不可解極まりないのだ。
いつも理不尽に俺に暴力を振るい、嫌がらせをしてきていた連中が、他人を慮っている?
「……何かの冗談か? まさか、罠じゃないだろなあっ!?」
俺に数歩遅れてアリウムが続いているが、彼の表情も冴えないままだ。俺と同じく、彼らを信用できないでいるのは明らかだ。
「――ニールっ! 空から様子を伺ってくれっ! ナギとナミの援護を頼むっ! アリウムっ! 障壁の準備をっ!」
もし、チンピラ三人組の罠だったとして、彼等に何の利がある?
ただただアリウムに嫌がらせをしたいから?
いや、しばらく彼等との接点なんてなかったのだ。俺たちが、フーサタウンに来る事を知っていたとは思えない。
「だいたいにして、俺たちが恨む理由はあっても、恨まれる理由はない!」
腹が立ってしょうがない。
仲間の少女たちが走り出さなければ、きっと放っておいただろう。
だが、走り出そうが、放っておこうが、どちらにせよ自分の心を引っ掻くような痛みを残すだろう。
「だったら、良い人でいた方が良いに決まってる!」
自分の気持ちを無理矢理納得させて、俺は精霊剣を横凪に振るった――
♢
ゴーーーッ!!
目深にマントを被ったナギの脇を火の球が追い越していく。
自身も獲物であるショートソードを肩に担ぎ、いつでも振り下ろせるようにして走る。
「ナミ、うちは右っ!」
「OKっ!」
この短いやり取りで、ナミはチンピラ3人組の左側から回り込もうとしている刺客に向かって走る。
走りこんできた2人の少女を自分たちを敵と素早く判断し、武器を構えた刺客たちは三手に分かれた。
4人がチンピラ三人組と対峙し、ナギとナミにはそれぞれ2人ずつが迎撃に回る。
「助太刀しますっ!」
ナミが大声で戦闘への介入を宣言。
剣を振り上げた刺客の懐に素早く潜り込み、強烈な右フックを相手の脇腹に叩きこんだ。
「――!?」
相手が少女と侮った為か、簡単にナミを懐に入り込ませてしまい、刺客はたったの一撃を受けただけで悶絶し、剣を落とした。
しかし、かなりの力を溜め込んでパンチを放った為、一瞬ナミの動きが止まったところに、もう一人の刺客が剣を振り下ろしてきた。
なんとか剣を避けようと回避行動を取るナミ。
ギリギリ、ヒット&アウェイの動きで振り下ろされた剣を避けると、次の瞬間、空振りして体勢を崩した刺客が炎に包まれた。
ゴーーーーっ!!
一足先に上空で待機していたニールが、炎のブレスを放ってナミを援護したのだ。
ただし、それは援護というには大きすぎる力であり、炎に包まれた刺客は悲鳴をあげながらのたうち回った。
一度離れたナミは、腹を押さえてうずくまる刺客の頭を右のハイキックで蹴り飛ばす。
炎に包まれた刺客も、古竜の炎を消すことができないまま動かなくなり、ついに絶命した。
制圧――ナミとニールのコンビで、左手の戦闘は呆気なく終わった。
♢
「ナミの馬鹿力っ!」
ナギは悪態をつきながら右手の二人に切り掛かった。
先程脇をすり抜けていった火の球は、そのうちの一人に炸裂し、すでに片膝をついて動けずにいる。 ナギは無傷のもう一人の刺客に対して肩に担いでいたショートソードを振り下ろした。
その剣線は、何度も繰り返した基本の型。
綺麗な軌道を描き刺客に振り下ろされる。
しかし、刺客は力一杯にナギのショートソードを弾き飛ばし、その返す勢いで逆にナギに切り掛かった。
ショートソードを跳ね返され体勢を崩したナギは、すんでの所でサイドステップをふんで刺客の一撃を躱わす。
その瞬間、目深に被ったマントが後ろに落ちて顔が露わになるが、白い髪を靡かせながら、すぐにショートソードを中段に構えなおし、刺客に飛びかかった。
一閃――
非力ではあるが、ナギの放った横薙ぎの一撃は、体勢を崩した刺客を見事に切り裂く。
さらに腹を切り割かれて悶絶する刺客の顔に水球が張り付いた。
横を見れば、片膝をついていた刺客の顔にも水球が張り付いついており、酸素を取り込めない刺客は、白目を向いて仰向けに倒れ込んだ。
制圧――中年人形の援護をうけながら、ナギもみごとな攻撃で左手の刺客を制して見せた。
♢
アリウムは中年人形の後ろを走りながら、【アンチバリア】を展開していた。
ナギとナミが反撃を受けた際に【アンチバリア】を二人の周りに展開しようとしたが、二人とも見事に刺客の攻撃を回避したため、そのまま自分の周りに留め置いている。
「――凄いな。」
アリウム自身はそれほど身体能力は高くない。
どんな攻撃をも防ぐ【アンチバリア】を軸に、仲間たちの盾になるのが自分の仕事だ。
しかし、チンピラ三人組への嫌悪感から、先頭に…立つべき自分が最後尾を走っている。
(……ほんと僕はなさけない……。)
自分の容姿が嫌い。
自分の性格が嫌い。
でも、そんな自分を受け入れてくれる仲間たちがいる。彼等を護るために、大嫌いな自分の能力をさらに鍛えてきたのに。
「――だが、へこたれませんっ!」
中年人形の後ろに付きながら、白髪の少年は大声で叫んだ――
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