悪人面の3人
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3人組のリーダー、魔術師アークは、タンク役のヅーラに背中を守られながら詠唱を終える。
「――ファイヤーボールっ!」
最近、彼が必死になって習得したファイヤーボール。かなりの魔力を使うが、その分、威力に不足はなかったようだ。
会心のファイヤーボールは、自分たちを取り囲んでいた8人のうち2人を吹き飛ばし、逃げ道を作り出してくれた。
「ニーンっ! ヅーラっ! 突破するぞっ!」
リーダーの号令でレンジャーのニーンが、その素早い動きで囲みにできた穴から突破する。そしてクルりと後ろを振り返ると、両手でで炸裂弾を投げつけた。
この炸裂弾。自分の攻撃力の低さをなんとかカバーする為、普段使っていた短剣術を超える攻撃方法として考えた必殺の武器である。
そんなとっておきの炸裂弾には小さな釘や鉄片が組み込まれており、取り囲んでいた連中に軽くはないダメージを与えた。
「ヅーラっ! 走れっ!!」
囲みを飛び出した3人組の最後尾、タンク役のヅーラがその自慢のヒータシールドを左腕で抱える。
そして、重い鎧に身を包まれながら、全力で走りだす。
以前の彼ならば、ほんの数秒走っただけで息を切らしていただろう。しかし、鎧を着たままでの走り込みを続けてきた成果だろうか、防具の重さをものともせずに走れている。
3人がアークの魔法のおかげでできた囲みの隙をついて走り出すと、その向かう先に他の冒険者パーティーの姿が見えた。
( ……ちっ!……新手……ではなさそうだ。奴等には悪いが、俺たちが逃げる為の盾となってもらうか……。)
アークは自分たちが逃げる為の時間稼ぎとして使える、そう考えた――しかし、首を大きく振る。
「――馬鹿か、俺はっ!」
そんなことをすれば、関係のない連中が自分たちの巻き添えを食らうことになる。【デビルズヘブン】の関係者が、邪魔になる者達に情け容赦をかけるわけがないのだ。
(――そんなことしたら、俺たちはまたあの頃の馬鹿野郎に逆戻りしちまうだろうがっ!――)
アークは走りながら自然と自分の頭に浮かんでしまう邪な考えに憤慨した。
リンカータウンでの魔物の大行進の攻防戦。
あの時見た白髪の少年の凄まじい戦いぶり。
あれ以来、自分たちはもう一度、英雄を目指して頑張ることに決めたのだ――
「……俺たちゃ、もう一度やり直すって決めたんだよっ!」
誰に話すでもない、ただ自分に言い聞かせ、叱咤する。しかし、その呟きを聞いたニーンとヅーラはニヤリと笑う。
「おっ! リーダーいいねぇ。格好いいじゃねえかっ!」
「死んだら元も子もないないがなっ!」
「ちげぇねぇっ!」
「無駄口はたいてないで、走れ、走れっ!」
アークはそんなやり取りに笑みを浮かべた。
自分たちが少しでも変われたことを実感できた気がしたのだ。
そして、前方に見えた冒険者パーティーに向かって大声で叫んだ――
「――あんたら、逃げなっ! 俺たちは今、悪い組織に追われているっ! 巻き込まれるぞっ!」
なんか不思議な気分だ。
過去の自分は、他人を巻き込むどころか、他人から奪ったり、騙したりする張本人たちだったのに。
今、この時、他人を慮っている。
「――あいつら、【デビルズヘブン】っていう犯罪組織の連中なんだっ! ヤバい奴等なんだよっ! あんたらは関わるなっ!」
前方に見えた冒険者を巻き込まない為、逃げる方向をやや右にずらす。
そうしなければ、関係の無い冒険者を巻き込んでしまうから。
ニーンもヅーラも表情こそ険しいが、口元には笑みが浮かんでいる。どうやら、気持ちは3人とも一緒のようだ。
しかし、自分たちを襲っている相手は、あの犯罪組織【デビルズヘブン】の構成員。
しかも、裏切り者の自分たちを襲うという事は、完全にこの場で殺すつもりなのは明白である。
その証拠に、奴等はフーサタウンを出発してからしばらくした後に襲ってきた。
他人の目が少ない場所に来てから襲ったのだ。
奴らは人知れず作業を終わらせるつもりだったはず……。
――不味いな……目撃者ができてしまったのは、奴等に都合の悪い事に違いない……。
3人組は、目撃者となってしまった冒険者たちから距離をとるように逃げていく。
それなのに……。
関わるなと呼びかけたのにも関わらず、何故か2人の冒険者がこちらに向かって走りだしてしまった。
しかも、その手にはしっかりと武器が握られている。
「――なんなんだ彼奴ら、なんでこっちに来る? まさか、俺たちを助けるつもりか!?」
アークが素っ頓狂な声を上げたとたん、悪人面の3人組はクルりと向きを変えた。
自分たちを追いかけてくる【デビルズヘブン】の刺客と対峙することを選んだのだ。
「――まったく、とんだお人好しもいたもんだ。しょうがねぇっ! お前ら、あの冒険者たちを関わらせるな。突撃するぞっ!」
「くっくっ、リーダー、やっばり格好いいぜ!」
「何言ってやがる。そんなお前もかなりいけてるよっ!」
「なんだよっ! 俺は!? 俺もイケてるだろ?」
「おおよっ! お前もイケてるぜっ! 顔は不細工だけどなっ!」
「顔のことは言いっこなしだぜ。ハッ!」
本来、多勢に無勢。勝てるような相手ではない。
だからこそ、突破口を無理矢理開いて囲みを突破したはずなのに……。
なのに結局、自分たちは逃げることを諦めた。
「まぁよ、俺たちなりのプライドってやつさっ!」
最前でヅーラが盾を構える。
その後ろには、ニーンが左手に短剣を、右手に炸裂弾を握りしめながら様子を伺っている。
最後尾にいるアークは、すでに魔法の詠唱を終え、ファイヤーボールを飛ばす先に杖を向けた。
「――やってやるぜっ! なあ!兄弟っ!」
もう後ろに下がる事はない。
アーク、ニーン、ヅーラの悪人面チンピラ三人組は、目の前に迫る刺客たちを前に、お互いを兄弟と呼びあい、大きく鬨の声を上げながら、今、突貫する――
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