見習い冒険者、泣く
――俺は泣いた……
――声をあげて泣いた……
――あぁ、こんなにも優しい人がいる……
――俺にとっても、ナナシにとっても……
――まさに、目の前にいる優しい剣士は、紛れもなく俺達にとっての『英雄』だった……。
♢
またしても、ケインさんに迷惑をかけてしまった…。
子供のように(あくまでも前世の俺だけが思ってるだけだろうけど)泣きじゃくってしまった。
両手で顔を覆い、なかなか涙を止める事ができずにいる俺の横で、ケインさんは俺の涙が止まるまで黙って待ってくれていた。
今までの人生でこんなに涙を流したことはなかったと思う。いつも悪意に耐えていた。石をぶつけられても、酷い言葉で罵られても、ダンジョンの裂け目から落とされた時でさえ、ここまで涙なんか流さなかった。
前世でだって、そうだったと思う――
あぁ、自分のためを思ってくれる人がいることがこんなにも嬉しいなんて!
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「だから言ったじゃない。貴方が周りの人に向けた優しさは、ちゃんと周りの人もわかってるの。貴方が手を差し伸べた分だけ、あなたに手を差し伸べてくれる人もいる――、だから、あなたは人を恨んじゃだめよ。」
新人の時に色々と世話をした後輩が、嫌がらせをされている俺に会いに、家まで来てくれた時のことだ。
彼は、俺が理不尽な嫌がらせをされているのに、自分に火の粉が飛んでくるのが怖くて、俺の味方をする事ができず申し訳ないと、わざわざ家まで尋ねてきてくれたのだ。
周りが敵ばかりに思えて、すっかり人が怖くなっていた俺だったが、わざわざ俺に気持ちを打ち明けに来てくれた後輩に、「ありがとう」と声をかけて帰らせた。
「私も、◾️◾️ちゃんも貴方の側に居るんだから。頑張ってる人にもっと頑張れって言われるのは、しんどいかもしれないけど、――頑張れ!パパ!あなたの味方はちゃんと居るよ!」
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あぁ、そうだったね。
頑張っていられるうちはまだまだ大丈夫だ。
今この時にも、こんなにも俺のことを思ってくれる味方がいるんだから。
俺も周りに優しさを分けてあげられるようになりたい……
「ケインさん、ありがとうございます! 僕、もっと頑張ります! 絶対に冒険者になるまで諦めません!」
俺のその言葉に対して、ケインさんはそれだけではまだ足りないぞ、と付け足して話してくれた。
「冒険者になるだけで満足したら駄目だぞ、少年。冒険者になって、そこから、俺と同じように英雄を目指せ! 自分の存在が人の希望になるような英雄になれ!」
――っ!!
「まぁ、俺の方が先に『英雄』と呼ばれるようになってみせるがな。」
そう言って、また僕に向かって親指をたてて笑った。
俺は心の中で、目の前にいる優しい剣士に向かって叫んでいた。
――あなたは、もうすでに俺の(僕の)強くて優しい英雄です!!
1人目の英雄