条件
長命種の王たち――三大神と呼ばれる神々が生まれた頃と同じ時期から存在する種族たちの王たちは、その長い長い寿命を使い潰して消えていった同胞たちのことを忘れる事はない。
太陽神が推し進めた【楽】プロジェクトの罪は、悠久の時を使い潰したこと……。
無条件に欲を満たしてしまうこのプロジェクトは、努力せずとも欲が満たされることで起こった怠惰で無気力な生に落ちいることを予想できなかった。
長命種の王たちは、王という名の【使命】や民を導こうとする【欲】のおかげで、自分たち自身が怠惰に満たされることから逃れる事ができた。
これは、絶滅した種族が、その現象を止める事が出来なかった王だけを残して絶滅していることが証明しているだろう。
「――私たちは何度も失敗してきた。頑固なフェンリルやブラドのことを変わる事が出来ない頑固者扱いをしておきながら、私自身も自分の考えに固執し、停滞てしまっていたのかもしれない――」
ただ一人、中年の顔をした機械人形に問いかけた森の女王。なにか憑き物が落ちたかのように、先程までの冷たい表情ではなく、今は優しい表情へと変わっていた。
「変わらなくてはならないのは、私も同じだったか……。でもね、ヒロ君。それでも無条件に君にすべての舵取りを委任することは出来ない。幾つかの条件を飲んでもらう――」
他の使徒たちは、森の女王の考えこそを自分たちの総意として認めたのか、胸の前で腕組みをしたまま言葉も発せず、ただ機械人形を見つめている。
「まず、使徒全員の同意を貰うために、君にはこの後、ゴズの元へ行ってもらおうか。あいつは身体も魔力量もまさに桁違いの存在だからな、あいつが君の話に同意したなら、フェンリルとブラドのように人形に魂を投影してここに連れてきてもらおう――」
森の女王は、ぐるりと辺りを見回しすと、部屋の隅っこで小さくなっている火蜥蜴サクヤに優しく声をかける。
「サクヤ。使徒5人の魔力があれば、ウカ様の魔力核の鍛錬、ヒロ君がいなくてもできるかい?」
急に話しかけられ一瞬怯んだサクヤだったが、少し考える素振りを見せてから、はっきりと答えた。
「――大丈夫。あんたたちが手伝ってくれるなら、絶対成功させてみせるわ。ただ、時間だけはかかることは覚悟してもらわないとだけど……。」
「ガハハハっ! そこはワシに任せておけっ! こんな身体だが、ものづくりの民ドワーフの王だったのだ。そこの不器用エルフと違って、魔力操作による創作力ならドワーフは天下一品じゃぞっ!」
車椅子に深く腰掛け、それまでは瞑目していたドワーフ王が、豪快な笑い声と共に火蜥蜴に語りかける。
「ふんっ、人を馬鹿にして……。でもまぁこんなジジイでも、ものづくりに関しての才能は間違いないわ。身体は酒樽のようだから想像できないだろうけど、このジジイの魔力操作については私が保証する。」
火蜥蜴は、使徒らのアシストに励まされたのか、その小さな体にやる気を漲らせ、自分の主人に向かって元気に宣言した。
「ご主人さまっ!アタシが必ずもう一つの魔力核は作り上げるから、自分を犠牲にするなんて言わないでっ!」
「……ありがとう、サクヤ。」
まさか、精霊にまでこんな言葉をかけられるとは思っていなかった中年人形は、その顔に驚きの表情を浮かべながら感謝の言葉を口にした。
「――さて、鍛錬してもらう魔力核の件だけど、おそらくここにあるカケラを全て利用して作りあげたとしても、その魔力核だけでヒルコを封印しきることは難しいだろう。なにせ、もとの魔力核の半分ほどの大きさだからね……。だが、ヒルコがダンジョン=ヘルツプロイベーレの魔力核を取り込んでいるとするならば、それが利用できるかもしれない――」
研究者という肩書きは伊達ではないようだ。
森の女王は、長い年月研究してきた魔力核についての推論を滔々と披露し始めた。
ダンジョンに納められている魔力核には、それぞれ全てにウカ神の魔力が封印されていることは、それを護り続けてきた使徒たちが知っている。
もともと一つであったウカ神の魔力。
お互いに惹き合い、同化するはずではないか?
ならば、許容量の心許ない魔力核だとしても、封印用の機械人形にヒルコを取り込んでしまい、その中で魔力核同士の引き合う力を利用し、魔力核同士を一体化させることができれば、小さな魔力核しかなくても、ヒルコを封じる込める事ができるのではないかと……。
「……まぁ、これについては、今この状況になって
、たまたま思いついただけなんだが……。」
「……なんじゃ、100%の話じゃ無いんかの」
ドワーフ王がガッカリと肩を落とす。
「いや、そもそも100%完璧な話など、そうあるわけではないだろ。それでも可能性は高いと思っている。」
「……何を根拠に? 」
こちらは【考察】のスキルを持つライト。
さすがこちらも学者肌。眉間に皺を寄せながら、発案者に根拠を正す。
「――彼だよ。」
「――!?」
「どういう事でしょうか?」
徐に中年人形の胸を指差す森の女王に、何か不穏を感じたのか、ソーンが問いただす。
「――実体験済みということさ。まぁ、やろうとしてやったわけではないようだけどね。」
根拠を問いただしたライトも、中年人形を心配するソーンも、他のメンバー同様、森の女王の言葉に首を傾げる。
森の女王は、皆のその様子に満足気にニヤリと笑い、まるで演説するかのように胸を張ってその根拠を述べた。
「――今、彼の中にある魔力核。ブリジットの作り上げた無垢の魔力核を吸い込んだというじゃないか? これこそ、私がこの推論をまとめた1番の根拠だよ――」
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