方針①
機械人形は周りを見回し、全員の目が自分に集中したことを確認してから、ゆっくりと話しだした。
「みんな、俺に説明の時間を与えてくれてありがとう。それぞれ色々な考えや思いがあるだろうけど、俺の話を聞いてから、どうするか判断してほしい。」
先程まで、大きな声で考えをぶつけていた面々も、バツの悪さを感じているのか、今は口を真一文字に結んで思い思いの場所に座っている。
「まず、もう一度状況を整理するよ。俺たちの目標は、ヒルコを封印し、ウカ神を助ける。これが1番の目標――」
使徒の1人でウカ神を信奉していたはずの混沌王ヒルコが、首都にあるダンジョン=ヘルツプロイベーレにあったウカ神の魔力核を自身の身体に取り込み、ウカ神そのものになろうとしているのではないか、というのが使徒たちの推察。
仲間思いで優しかったヒルコが、家族とも表現した仲間の使徒を攻撃した事が信じられない。
一番最初にウカ神の考えに賛同し協力してきたヒルコが、今世に至るまで続いているシステムを破壊しようとしていることが信じられない。
ウカ神の姿を模したであろう狐憑きを無理矢理増やし、仲間であるはずの使徒を攻撃しておきながら、一方で同じ狐憑きがその攻撃していた狐憑きを排除して魔物の大群を止めた。あれこそが本来のヒルコの姿なのではないか。
「――使徒のみんなは、こう言ってヒルコが完全悪ではないと考えている。戦いでしか相対したことがない俺たちには、その話を聞いたところでどうなんだ?って感想しか湧いてこないのだけど、森の女王の条件にヒルコを助ける、という条件が含まれているという事は、そこは確信があるんだよね?」
いつもは饒舌な森の女王だが、機械人形の話を邪魔しない為なのか、無言で頷き、機械人形の問いかけに同意する。
さらに、機械人形に視線を投げかけられた、他の使徒たちも一斉に頷いた。
「――使徒のみんながこうやって確信している話だからね。俺もそれを前提にして話を進めたいと思う。ただね。俺も含めて、使徒以外のメンバーは、簡単には信じられない話なんだよね……。だってさ――」
そう簡単には割り切れない程、ヒルコが動くたびに機械人形たちは被害をうけてきたのだ。
ナギとナミは狐憑きにされそうになった所を氷狼と吸血鬼王が眷属にした事で防がれた
ライトとソーンは、狐憑きの能力によって無理矢理戦わせられたことで大事な仲間を失っている
ギースだって、仕える古竜王の卵が強奪されたのを取り戻す為に動いていたわけだし、ハルクだってその騒動に巻き込まれている
「――さらに、ヒルコが操る狐憑きたちが起こした魔物の大群によるリンカータウン襲撃の際には、大事な仲間が消えてしまった……。あれは、俺の力が足りなかったばかりに、仲間を犠牲にしてしまったとも言えるけど……。」
そんな事はない……、あなたのせいじゃない……、そう口に出そうとしてソーンは言葉を飲み込む。そんな事を何度声高に訴えたとしても、当の本人がその苦悩を手放すことはないとわかっているから。
「……まぁ、割り切れない思いはみんな多分にあるんだ。そこは使徒のみんなも理解してほしい。」
先程は頷いた使徒たちだったが、この部分には誰一人頷くことはなかった。ただ、反論を口にしないということは、納得はしないが、理解はしてくれたということだろうか。
「それでだ。結局のところ俺たちは流れのまんま、目の前に起こることに条件反射してきたようなもので、しっかりと目標を見据えてやれていたわけじゃない。」
なんとなく、問題を解決して歩いているように見えるが、こちらから積極的に動き始めたのは、ヒロが機械人形に封じられ、ウカの魔力核を求めて忘れられたダンジョンに向かったところからなのだ。
「――いつだってヒルコの攻撃を凌ぐばかりだった俺たちが、やっと反撃に転じる事ができたってことだ。それは、使徒のみんなの協力があって、チーム【アリウム】のみんなの努力があるからこそ、今の状況にまで持ってこれたんだ。なんか凄いと思わないか?」
機械人形は、ぐるりと部屋を見回して大袈裟に戯けてみせた。
「俺たちは、今ある常識が嘘で塗り固められ、白と黒が裏返されたものであることを知った。だからと言って、この世界の常識を正そうなんてことはおそらく無理。でもさ、やっぱり可笑しいものは可笑しいと言いたいじゃない?」
偉いから偉い。
偉い人が言ったら黒でも白になる。
偉い人が言ったら嘘でも本当になる。
偉い人が言ったら間違いも正解になる。
偉い人が言ったら失敗したことも成功したことになる。
――俺はこんなことは許せない
「俺はね……。英雄になりたい、ってこの世界で俺の英雄に救われた時に思ったんだ。間違っている事を間違いだと言えずに、何が英雄なのかと思っている……。だから、今、この世の中で暗躍し、あまつさえナギやナミのように望まぬ操り人形として生きる事を強制するようなヒルコの事を許す事は出来ないし、理不尽な仕打ちをうけたウカ神を助けたいと本気で思っている。」
ヒルコを許さない――この言葉を聞いた使徒たちから、怒りに似た負の感情が漏れ溢れ出すのを感じる。しかし、機械人形は話を止めない。
「使徒のみんながのヒルコを助けたいという思いはわかっている。わかった上で言わせてもらう。もし、ヒルコが良い奴で、今の奴の動きがヒルコの本心ではないと言うのなら、それを止めてやらなきゃならないと思う――仲間である使徒のみんなの力でね――」
この言葉に反応した使徒たちの表情に熱が籠った――
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