仲間
新章開幕です。
みなさんに楽しんでいただければ幸いです!
♢
「ヒロ兄〜っ! やっと会えた〜っ!」
森の女王の部屋に元気な声が響いた。
若い少女の声は、想い人に久しぶりに出会えた喜びに満ち溢れている。
「――おぉ〜っ、ナミ、元気だったか! 少し逞しくなったかな?」
「逞しくって!? ちょっと、ウチは女の子ですけど!? レディに向かって逞しいって言い方おかしくないっ!? 」
プンプンとあたまから湯気が噴き出す勢いで、中年の姿をした機械人形に食ってかかる少女。
本人は女の子と主張しているが、ショートカットの黒髪に小麦色の肌、そしてしなやかで筋肉質なその肢体は、逞しいと表現されるのも納得できる。
氷狼フェンリルの下で訓練を続けていたが、ようやく自分のスキルを使いこなせるようになり、最後の冒険へと向かう機械人形と一緒に首都へ向かうため、一緒に訓練していたアメワ、ハルクと共にダンジョン=インビジブルシーラまでやって来たのだ。
「……まったく……相変わらず五月蝿いわね……。」
機械人形との久しぶりの会話を楽しむつもりでいたナミに、それを邪魔をするように言葉が投げかけられた。
「――!? はぁ、あんたに言われたくないわよ! あんたこそ、相変わらずの青瓢箪じゃない! 真っ青な顔で陰気臭いったらありゃしないっ!」
「――誰が青瓢箪よ!? 久しぶりに会った最初の言葉がそれ!? あんたこそ、女らしさのカケラもない筋肉ダルマのくせに! 」
いきなりの悪口の応酬。
ナミに声をかけたのは、一足先にこの部屋に来ていたナギ。こちらも吸血鬼王ブラドの元での訓練を終え、ライト、ギースと共にやって来ていた。
「まったく……。久しぶりに会ったというのに、最初の会話がそれなの? あなたたちは相変わらずね。少しは大人になりなさい……。」
保護者のように2人を諭すのはアメワ。
苦笑いをしながら2人の間に割って入る。
綺麗な黒髪を後ろに纏めていて、彼女こそ以前よりも大人の女性になったように感じられる。
「久しぶり、アメワ。なんか、お姉さん味に磨きがかかったね。」
「何それ? ふふふっ。」
中年のおっさんよろしく、機械人形が声をかけると、アメワは控えめに笑った。
「――ちょっとちょっと、ウチには逞しいとか言っておいて、なんでアメワ姉にはそんな感想!?」
「そりゃ、あんたが女らしさのカケラも感じられないからでしょ。せっかくアメワ姉と一緒に居たんだから、少しはアメワ姉から女性としての魅力の磨き方も教えてもらえばよかったのにね〜。」
お揃いのマントを身につけたナミとナギだが、見た目も性格もまったく違う。
相変わらず口ではナギに敵わないナミは、途中から唸るばかりで反撃できなくなる。
「ぐむむむ……。」
「ははははっ! 嬢ちゃんたち、その辺にしておいてくれや。せっかく久しぶりに会ってすぐにそれじゃ、旦那も困ってるぜ。なぁ、ヒロの旦那。」
「ふむ、喧嘩するほど仲が良いとは言いますが、会って早々に喧嘩するとは、お二人は相当寂しかったとみえる。」
右腕をぶつけ合い、ガッチリと握手を交わしながら、ハルクとギースが2人の少女に声をかける。
大人の戦士同士、以前から気が合う2人は、今にも酒盛りを始めそうなほどに盛り上がっている。
「やぁ、ハルク。ナミとアメワの護衛お疲れ様――あとで話があるから、時間を作ってくれないか。」
盛り上がる2人に水を差さないように、機械人形はハルクと軽く握手をする為に右手を出した。
「旦那……あぁ、わかった。後で旦那のとこに行くよ。さぁ、ナミもアメワもまずは荷物を置いて。戯れ合うのはその後なっ!」
おそらく訓練中もハルクがリーダーシップを取ってくれていたのだろう。
上位の冒険者として、そして人生の先輩として若い2人を導く姿は、飲んだくれて魔術師大学の守衛をやっていた男にはまったく見えない。
そんな彼に、辛い知らせを伝えなくてはならないことに、機械人形は心が傷んだ。
「よぉ、ちったぁ成長したかよ。まぁ、機械人形のお前が成長できるのかはわからんがな。」
3人が荷物を置きに行ったあと、部屋の壁に寄りかかる小柄な人物から声がかかる。
「いやいや、今のあなただって機械人形でしょ? どうです? 機械人形を動かす気分は? まぁ、封印されてる俺とはまったく違うでしょうが。」
「ふん。俺は遠隔でこの人形を操っているに過ぎん。機械人形そのもののお前とは比べようもない。まぁ、いつもよりだいぶ目線が低いから、辺な気分ではあるがよ。」
機械人形に悪態をつく機械人形。
不思議な光景だが、中年の男の姿をしている機械人形とは違い、壁に寄りかかる小柄な人物――人形は、目も鼻も口も無いのっぺらぼうで、土色の体を剥き出しにしていた。
「フェンリルさんは背筋を伸ばすとかなりの身長ですからね。景色が違って見えるのも、たまには面白いんじゃないですか?」
中年の男の姿をした人形に握手を求められると、小柄な人形はテクテクと歩み寄り、指も無い手を差し出した。
「ちげえねぇ。これはこれで楽しむとするわ。クックックッ……。」
軽く握手を交わし、声を抑えて笑う人形。
すると部屋の奥からもう一体、小柄な人形が姿を見せた。
「おぉ、やっと来たかフェンリルよ。まったく、この姿は何をするのも不便だな。アストラルボディーだから、食事も楽しめん。」
「けっ、ブラドよ。お前は飯などいらないだろうが。その辺のネズミからでも血を吸っておけ。」
「カッカッカッ、それがな。アエテルニタスの所のダンジョンには虫しかおらんのだ。せっかくの御注進だが、我慢することにするよ。」
「何が御注進だ。俺の上司はウカ様だけだ。」
悪態を付き合いながらも楽しげに会話を交わす2人。過去に付された封印の影響で、使徒同士が他のダンジョンに入ることは出来なかった為、人形の身体とはいえ、何百年ぶりに友と顔を突き合わせることができた喜びは隠しきれない。
「やぁ、フェンリル。機械人形の調子はどうだい? ヒロ君を封じた機械人形のようにはいかないが、こうやって使徒同士が顔を突き合わせられるのは、開発者の私のおかげだよ。感謝したまえ。」
後ろから現れたのは、このダンジョンの管理者である森の女王アエテルニタス。
その美貌は悠久の時を生き続けているとは思えない程若々しく、まるで年齢を感じさせない。
「まったく、またお前一人の功績のように話しおって。不器用なお前の代わりに、機械人形の造形をワシがしておる事を忘れるでないわっ!」
森の女王の隣には、車椅子に乗った髭の御仁。
こちらは、刻まれた皺の深さがその年齢を感じさせるが、森の女王よりだいぶ若いはずであるドワーフ王ダンキル。
狐憑きの襲撃の際の大怪我により、自らの足では歩き回れなくなっているが、その緻密な魔力操作の技術で森の女王の研究の手伝いをしている。
「クックックッ、ダンキルよ。しばらく見ないうちに、ずいぶんと老けたなっ!アエテルニタスの隣にいると、ますます老けて見えるぞっ!」
「余計なお世話じゃい! ドワーフは一様に老け顔なんじゃ! お前こそ自慢の毛皮はどうしたっ! 素っ裸では寒くて震えてるんじゃないのか? 」
「五月蝿いわ。機械人形の身体に毛皮なんぞあるかっ!」
一通り罵り合ってから握手を交わす。
だが、手を握ることができないドワーフ王の右手を両手で優しく包む人形の姿を見れば、2人の本来の関係もわかるだろう。
「まぁ、色々話も尽きないだろうが、やっとみんな集まったんだ。顔を突き合わせて、これからの事を話し合おうじゃないか――」
それまでは傍らで微笑んでいるだけだったライトが軽い調子で声をかけた――
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