見習い冒険者、疑問をぶつける
ケインさんとのダンジョン探索は、無理しない程度に終わらせる事になった。それでも、新しいリュックには、素材や魔石がかなりの量入っている。
B級冒険者の実力を身近で見れた俺は、ますます冒険者になりたいと、そう思った。
元々は、ナナシが自分自身の苦しい生活から抜け出す為の目標だった。でも、今、高ランク冒険者であるケインさんの活躍を実際に目の当たりにし、純粋に冒険者になりたいと思ったんだ。
――だけど、なんでケインさんは、よく知りもしないはずの俺なんかを冒険に誘ってくれたのだろう。どうして、こんなに親切にしてくれるのだろう………。
正直な所、全く見当がつかない。
縁もゆかりもない、それどこれか、逆に俺にはダンジョンから助けていただいた恩さえある。
さらに、今回、冒険者三人組からも助けてもらい、その上、食事や装備まで融通してくれたのだ。
こんなに良くしてもらえる理由がわからなかった――
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初の冒険は、何事もなく無事にダンジョンから出ることができた。そして、冒険者ギルドでの素材や魔石の換金の場にも立ち合わせてもらった。
ケインさんは受付の女性と会話している。
僕は、ギルドの中で屯する冒険者達からの、まるで嫌なものを見ているような視線に耐えられず、入り口近くの壁に隠れるように寄りかかって待っていた。
相変わらず、他人の俺を見る目は冷たい……。
♢
「さて、ナナシ。泊まるとこはあるのか? なければ俺と一緒に来いよ。」
受付譲との会話を終えたケインさんが僕の肩に手を回し、少し強引に壁際にいた俺を連れ出す。
後ろからは、残った冒険者たちのヒソヒソと話す声が聞こえてきたが、ケインさんは全く気にしてないようだった。
♢
ギルドを出てしばらく歩いた所で俺は切り出した。俺の中に湧いていた、ケインさんへの疑問を解消するために――
「ケインさん、なんでこんなに僕に親切にしてくれるんですか? そ、そこまでお世話になるわけにはいきませんよ。こんなに良くしてもらっても、僕にはとてもじゃないですが、この恩をか、返しきれません!」
「―――。」
少しの間、目を瞑り、無言になるケイン。
そして、再び目を開き、話し始めた。
「――いやな。俺の仲間達、お前もわかるよな?初めてダンジョンで会った時に一緒だったろ。あいつらからな、ナナシ、お前の色々な噂話を聞かされたんだ……。」
あぁ……俺が魔物の子供とか化け物と言われ、街中でイジメられている話を知られていたのか
「――俺はな。いや、俺たち『アイリス』はな。英雄を目指してここまでやってきたんだ。いや、そのはずなんだ。」
ケインさんの表情が固まる。
「それなのに、子供のお前をまるで本物の魔物であるかのように訝しがる仲間たちに腹が立ったんだ。」
――この人は、俺のことで怒ってくれてるのか?
「――だってよ。俺の目指す『英雄』って奴はな、どんなに強い相手であっても、みんなを守れるような奴なんだよ! そんな英雄をめざしているというのに、自分と姿が違うとか、みんながそうだからとか、なんか、そんな訳の分からない理由で人の尊厳を踏み躙るなんて。そんな事で守られるべき立場の者を守るべき者が責めるなんて、そんな事はあってはいけないんだよ!」
――この人は本気で俺の為に怒ってくれている!
「なぁ、ナナシ。お前、冒険者になりたいんだろ?受付のフィリアから聞いたよ。まだ二つ目の才能に目覚めてなくて、冒険者登録できなかったんだってな。」
――無知な自分を知り、恥ずかしさが胸を締め付ける
「諦めるなんて言うなよ! お前は必ず冒険者になれる! あと少しの辛抱だろ? 今まで嫌がらせにも負けず、ひとりで頑張ってこれたんだ。 大丈夫! お前なら絶対大丈夫だ!!」
――あぁ、俺のことを色眼鏡で見ずに、ちゃんと真正面から俺と向き合ってくれるのか
「頑張ってる奴が、もっと頑張れって言われるのがきついってのもわかってる。でもあえて言うぜ……。」
「――頑張れ、ナナシ!!!」
――あぁ、こんなに勇気が湧いてくる言葉を今まで聴いたことがあっただろうか? いや、こんなに心から心配してくれる人がいただろうか!?
俺は、一度生まれて死んで、またもう一度生まれ変わって、そしてここで初めて心が震えるほどの応援に、心から励まされたのだと思えた――
ケインさん、ありがとう 涙