仲間の気持ち
おかげさまで、この小説『いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜』の連載1周年となりました! 読書のみなさんのおかげで、今まで続けてこれています。これからも楽しんでいただければ幸いです。応援よろしくお願いします!
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「ソーンさん、魔力核はありましたか〜?」
四つん這いで【大天守】の床に額がつくほどに顔を近づけていたソーンは、元気な中年人形の声が届くと疲れた表情で顔を上げた。
「……ヒロさん……。ミズハさんはどうでしたか?」
質問に、別の質問で返されて、中年人形は驚きの表情を浮かべた。だが、その質問こそ、別行動をとった理由だったのだから、お互いに結果を知りたいと思うのはしょうがない事だろう。
「うん、ミズハは元気になったよ。」
川の神の作り出した水に触れ、生命力を取り戻した波の乙女は、ヒョコっと拠り所である水筒から顔を出した。
肩下げ用の紐は無理矢理結んであるし、何度かぶつかった衝撃のせいで水筒自体も凹みが目立っている。
でも、中年人形は、「当の宿主が元気であれば大丈夫。街に戻ったら、新しい水筒を買いに行こうかな。」なんて話しながら笑った。
「ヒロさん、お疲れ様です。」
少し離れた場所で魔力核を探していた白髪の少年と、古竜、精霊3人が集まってきた。
「すいません、ヒロさん。これしか集まりませんでした……。」
少年が頭を下げる。
経過を聞けば、魔力核のカケラは3つしか見つからず、他は砂粒のようなカケラが少量集められただけなのだという。
「いやいや、謝ることないって。みんなで一生懸命集めてくれたんだろ?」
中年人形は労いのつもりで言葉をかけるが、【大天守】で魔力核探しをしていたメンバーは、どうにも満足できていないようだ。
みんなに悪い点は一つもないというのに、何をそんなに落胆しているのか。
「……だって……、魔力核のカケラを集めて、しっかりとした魔力核を作れなければ、ヒルコの封印に使えないじゃない……」
ソーンがいつものハッキリとした話し方ではなく、ボソボソと小さな声で呟く。その姿が、中年人形を心配する仲間たち全員の気持ちを代弁しているという事は、隣で唇を噛み締めているアリウムを見れば明らかであろう。
しかし、心配されている本人は、何故自分がそんなに心配されているのかわからず、困惑していた。
その為、中年人形は言葉選びを間違えることになる。
「――大丈夫、この魔力核がヒルコの封印に使えなかったとしても、俺がなんとかしてみせるから。なんていったって、俺のこの機械人形=ゴーレムの身体も、中に入っている魔力核も、元々はヒルコを封印する為のものなんだよ? 」
この答えが、決して仲間たちが望むはずのない答えなのだという事に気づけず、中年人形はこんな話をして皆の顔を曇らせてしまう。
そして、その話を聞いたソーンは、明らかに不機嫌になり、周りに聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「……だから、それじゃ、あなたが犠牲になっちゃうじゃない……。」
そんな事にしたくないからこそ、みんなでもう一つの魔力核を探しに来たのに……。
必死になって粉々になった魔力核のカケラを探しているのに……。
なんで当の本人がこんなにも自分自身のことに無頓着なのか――ソーンは向けどころのない怒りを唇を噛んで誤魔化していた。
《 ご主人様! さっきね、少し試してみたんだけど、あたしがあの子から引き継いだ鍛治の女神の力で、砕けた魔力核を繋ぎ合わせることはできそうなの。ただね……。》
途中まではドヤ顔で話していた火蜥蜴の少女だったが、急に口籠りはじめた。
「――どうした? サクヤ、魔力核の鍛錬ができるだなんて凄いじゃないか。それなら、ヒルコの封印する為の準備が一気に進みそうだなっ!」
中年人形の暢気な話ぶりに、火蜥蜴の少女は、言いかけの言葉を飲み込んでしまう。
いつもの活発な様子とは明らかに違う態度に、さすがの中年人形も首を傾げて理由を問いかけた。
「――どうしたんだ? 」
《 ……あのね……。できる事は出来るのよ!? ただね、ちょっと時間がかかりそうなの……。ううん……ごめんなさい。ちょっとじゃなくて、かなりの時間がかかると思う……。》
何故か涙を浮かべて悔しがる火蜥蜴の少女。
中年人形は、そんな彼女の頭を撫でながら優しく微笑んだ。
「――なんだ、サクヤ。そんな事気にしなくていい。だいたい、ブリジットだって、とんでもない長い期間をかけて、あの魔力核を鍛錬しなおしたんだぞ? そりゃ、いくらお前が優秀な精霊になったとしたって、一朝一夕に作り上げられるもんじゃないさ。」
《 ……だって、森の女王もドワーフ王も、あたしがもう一つの魔力核を作れるかどうかで今後の作戦が変わるって……。それに……。》
「ハハっ、大丈夫だって。さっきも言っただろう? たとえここの魔力核を利用出来なかったとしても、俺自身がなんとかしてみせるって。だから、心配しないでいいから。それよりも――」
その場には中年人形の笑い声だけが響く。
そう、繰り返しになるが、この場にいる者の中に、中年人形にヒルコ封印の核になってほしい者は一人もいないのだ。
だからこそ、必死に魔力核を探しているし、魔力核の再鍛錬にかかる時間を気にしている。どうにかして、中年人形を犠牲にして歴史を進めたいとは思っていない。それなのに――
「――なんでっ! なんであなたはそんなに自分を犠牲にしようとするの!? 」
中年人形の言葉を遮って、ソーンが大声をあげた。
苦い顔で下を向き黙り込んでいた一堂が、一斉に顔を上げる。
「どうして!? みんな、あなたが犠牲になることなんて望んでいないわっ!? なのに、なんで……。」
最後は涙声で訴えかけるソーンに、中年人形は返事も返せずに固まっていた――
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