進取の聖職者、我が道をいく
聖職者ソーンは白髪の少年アリウムの魔法障壁に守られながら、【大天守】へと入った。
【小天守】と同化した巨木トレントとの戦いで、二つの建物を繋いでいた渡り廊下は崩れ落ちてしまった。
その為、見上げる程の高い位置にある【大天守】の入り口に辿り着くまで、かなりの時間がかかってしまった。
「アリウム君ありがと。助かったわ。」
ソーンは、【アンチバリア】を階段状に貼ることで、入り口までの道を作る事を思いつき、四苦八苦しながらも【アンチバリア】の形状変化をやり遂げたアリウムに感謝の言葉を告げる。
思いついたはいいが、思いの外、階段状に作り上げるという作業はかなり難しかったようで、必要以上に魔力を使ったアリウムは額に汗を浮かべ、肩で息をしている。
「アリウム君は休んでて。大丈夫、私とニール、サクヤ、ヒンナ、フユキで魔力核を探すから。」
アリウムの才能【アンチ】の超強力なスキル【アンチバリア】は、大雑把に張る、囲うなどの使い方であれば苦労なく行使できるのだが、ヒロが考えて使い始めた弾力性質や、形状の変化などについては、アリウム単独で行うにはかなりハードルが高いらしい。
おそらく、ヒロ個人の才能【ムービング】の影響があるのではないか、というのが森の女王アエテルニタスとドワーフ王ダンキルの見立てだ。
この才能が開花するきっかけも、もしかしたら性質変化や形状変化をやり続けていた事が大きいのかもしれない。
勿論、投石の練習など、本人の努力も重要な要素であったことは間違いないが、様々、生き抜く為に考え続けたヒロの行動の賜物であろう。
《 まったく、情けないわね。しょうがないから、私があんたの分まで仕事をやってあげるわ。感謝しなさいっ! 》
何故かドヤ顔で胸を張る火蜥蜴に苦笑いで手を合わせるアリウムは、やはり相当の疲労感のようだ。
なにせ、長い道中、【アンチバリア】を貼り続け、強力な巨木トレントの攻撃を受け続けもしたのだ。
大した休憩も取れずに、再び大きく魔力を使えば、それは体力ではどうにも出来ない部分なのだろう……、まぁ、彼のヒョロヒョロの体つきを見たら、体力は明らかに足りなさそうだけど。
ソーンは、アリウムの事をそう評価しながらも、ヒロであった時はそんな事思った事もなかったな、と独り言ちる。
ヒロに対する贔屓の感情が、知らず知らずのうちに、見た目まったく変わらないアリウムへの低い評価に繋がっている事には、彼女に気づけというのは難しい問題だろうか――
♢
《 これ、ウカ様の魔力核のカケラ? 》
【大天守】に入り、最初にウカの魔力核のカケラを見つけたのは嘆きの妖精=ヒンナであった。
《 なんでよっ!? あたしが最初に見つけようと思ってたのにっ!》
何故か競い合うつもりでいた火蜥蜴の少女が一人で悔しがっている。
ソーンはそんな赤髪の小人を横目に見ながら、自分もカケラを見つけようと床を這うようにして探し回った。
「……意外と見つからないわね……。」
途中、魔力をある程度回復したアリウムも加わり、6人で必死に探し回るが、見つかったカケラは3つだけ。
比較的、サイズは大きいようにも思えるが、ブリジットが鍛錬していたという無垢の魔力核のおおきさにはなるまでには、まるで量が足りないとサクヤが頭を抱えている。
「ヒルコを封印する為につかう核よ。根気よく探してみましょう。」
どうにかして魔力核のカケラを探さないと、機械人形に使われた魔力核を使わなくてはならないかもしれない。もし、そうなったら、その核に封印されているヒロが消えてしまうかもしれない。
万が一、それでヒロが消えてしまったら、たとえヒルコが封じられ、ウカが救われたとしても、ソーン自身には何の達成感も得られる気がしない。
歴史を正し、本来の歴史を世界に認めさせたとしても、一番救われて欲しいあの男が救われないのでは、ソーンにとっては、まるで救いの無い世界にしか思えない。
だからこそ、世界を正し、あの男を幸せな未来に連れて行かなくては、ソーンにとっての100点満点の解答にはなり得ないのだ。
「サクヤ……、この量では充分な魔力核は作れないのよね……?」
コクリと頷くサクヤの様子に、ソーンは黙考する。
足りないのならば、なんとしても探しださなくてはならない。
ふっ、と軽く息を吐き出して、気合いを入れ直す。
部屋の隅々まで探し回って、絶対にヒルコを封印できる大きさになるまで、魔力核のカケラを見つけて見せるのだ。
ソーンは何故こんなにも自分が必死なのか気付いてはいない。
でも、人とはこういうものなのではないかと思う。
だって、自分がしたいと思えないものに、自分にとっての価値など無いと思えるから。
だって、人から強制されて仕方なくやることに、価値をみいだせないから。
とにかく、自分にとって大事なものな邁進すること自体が、結局大切なことだと思えるから。
かつて物心つく前から、両親に刷り込まれた太陽神への無条件の信奉。そして、拒否するということすら知り得ずに過ごした太陽神の神殿での日々。
外から与えられた常識が、自分自身の常識たり得ないと気付いた進取の聖職者は、その聖職者然とした今までの常識をかなぐり捨てて、今、自分自身の常識を常識とする為に、自分の望むままに行動する。
「――なんとかカケラを集めなきゃ。それがああの人を助けるのなら、やるしかないじゃない――」
進取の聖職者は、自分を自分足りしめてくれた、自分の大事な人の為に、なんの疑問もなく自分の道を突き進む――
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